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恋の相談
「ねえ、ハーレイ。恋の相談…」
 してもいいかな、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 恋の相談だって?」
 なんだそれは、とハーレイは呆れて、直ぐに笑った。
 「お断りだ」とキッパリ断り、ブルーを軽く睨み付ける。
「あのなあ…。俺がその手に乗ると思うか?」
 お前との恋の話だなんて、と、睨んだ後は笑いの続き。
 可笑しくてたまらないのだけれども、ブルーは違った。
「ハーレイ、何か勘違いをしていない?」
 誰がハーレイって言ったわけ、と銀色の眉を吊り上げる。
 「ぼくは名前を出してないけど」と、真剣な顔で。
(…なんだって?)
 俺の話とは違うのか、とハーレイの笑いが引っ込んだ。
 ブルーの恋の相手と言ったら、自分だけだと信じていた。
 遠く遥かな時の彼方で、前のブルーと恋をした時から。
 運命の相手だと思っていたのに、急に自信が揺らぎ出す。


(…おいおいおい…)
 他の誰かの話なのか、とハーレイの背中が冷たくなった。
 ブルーは誰かに恋をしていて、その相談をしたいのか。
(……まさかな……?)
 そんな馬鹿な、と焦る間に、ブルーは小さな溜息を零す。
 「気になる人がいるんだよね」と、赤い瞳を瞬かせて。
(嘘だろう!?)
 本当に俺の話じゃないのか、とハーレイは愕然とした。
(ブルーが、他の誰かにだって…?)
 有り得ないぞ、と思いたいのに、ブルーは続けた。
 「ハーレイ、相談に乗ってくれる?」と、大真面目に。
「だって、人生の先輩でしょ?」
 恋についても詳しいよね、とブルーは身を乗り出した。
 「どういう風に持っていくのが、いいと思う?」と。
「ど、どういう風って、何をなんだ…?」
 ハーレイは、咄嗟にそうとしか返せなかった。
 自分でも愚問だと思うけれども、それしか言えない。
 ブルーの恋の相談だなんて、考えたことも無い上に…。
(俺がこいつに恋しているのに、何故、そうなるんだ!)
 恋敵とブルーを近付ける手伝いなんて、と泣きたい気分。
 ブルーの恋の相手と言ったら、自分一人の筈だったのに。


 けれどブルーは、何処吹く風といった風情で言葉を紡ぐ。
「やっぱり、教室で声をかけるべき?」
 それとも放課後の方がいいかな、と半ば上の空。
 「他の誰か」のことを考え、頭が一杯になっている。
(…どうすりゃいいんだ…!)
 俺にキューピッドになれと言うのか、と悲鳴が出そう。
 恋の相談に乗るというのは、そういうこと。
(俺じゃない誰かと、ブルーとをだな…)
 めでたく結び付けてやるのが役目で、恋を見守る。
 まずは相手との出会いを作って、次はデートの相談で…。
(あそこなんかどうだ、と勧めてやって…)
 食事をする場所や、お茶を飲む場所、それも考えてやる。
 なにしろ子供のデートなのだし、お似合いの店を。
(初デートが上手くいったなら…)
 ブルーは早速、次のデートの相談をしてくるだろう。
 どういった場所を選ぶべきかと、赤い瞳を輝かせて。
 「ハーレイのお蔭で上手くいったよ」と、嬉しそうに。
(でもって、デートを何度も重ねて、お次は、だ…)
 誕生日などの贈り物の相談、やがてトドメがやって来る。


(…恋ってヤツが順調に運べば、最後はだな…)
 プロポーズが来てしまうんだ、と天を仰ぎたくなった。
 よりにもよってブルーのために、恋の仕上げのお手伝い。
 婚約指輪を選ぶ店やら、プロポーズの場所の相談を…。
(俺がブルーと、膝を突き合わせて…)
 熱心にすることになるのか、と絶望の淵に落っこちそう。
 「どうして、こうなっちまったんだ」と、頭を抱えて。
(…誰か、嘘だと言ってくれ…!)
 でなきゃ悪夢を見ているんだ、と、ぐるぐるしていたら。
 悪い夢なら冷めて欲しい、と願っていたら…。
「ね、そういうのは困るでしょ?」
 ぼくが他の人に恋をしたら、とブルーが笑んだ。
「は?」
「だから、もしもの話だってば」
 それが嫌なら、ぼくにキスを、と出て来た注文。
 「ぼくをしっかり繋ぎ止めなきゃ」と、得意そうに。
(……そう来たか……)
 そういうことか、とブルーの頭をコツンと叩く。
 「馬鹿野郎!」と、お返しに。
 散々、恐怖を味わった分の仕返しを、銀色の頭に…。



          恋の相談・了








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