デート出来るなら
(あいつと、デート出来るのは…)
まだまだ当分先なんだよな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(なんと言っても、チビなんだし…)
十四歳の子供なんだぞ、と頭に描いた恋人。
チビのブルーは自分の教え子、とはいえ、誰よりも大切な人。
遠く遥かな時の彼方で、前のブルーに恋をしたから。
青い地球の上に生まれ変わって、再び巡り会えたから。
(あいつが、前の通りの姿だったら…)
とうの昔に、デートに誘っていただろう。
再会を遂げたその日の間に、約束を交わしていたかもしれない。
ブルーが聖痕のショックで病院に運ばれ、ベッドに横たわっていようとも。
(青白い顔をしてたとしたって、ブルーは、きっと…)
幸せそうな笑みを湛えて、チビのブルーと同じ言葉を言っただろう。
「ただいま」と、それに「帰って来たよ」と。
(それを聞いたら…)
横たわるブルーの手を握らずにはいられない。
ブルーが「ただいま」と口にする時は、周りには、誰も…。
(いない筈だしな?)
両親も医者も、と確信に満ちた思いがある。
チビのブルーでさえ、「ただいま」を言う前に、両親を遠ざけたのだから。
「ハーレイと、二人きりにして欲しい」と、不審がられないよう、自然な言葉で。
もっと育ったブルーだったら、当然、それをするだろう。
だから、ブルーの手を握っても…。
(見てるヤツは、誰もいないってことで…)
二人きりになれたついでに、デートの約束をしたっていい。
そうしておいたら、心置きなく、二人きりでゆっくり話が出来る。
二人で何処かへデートに出掛けて、再会出来た喜びを噛み締めながら。
ブルーが大きく育っていたなら、恐らくは、そうなっただろう。
出会ったその日に、病院の部屋で約束をして。
「お前、空いてる日はいつなんだ?」とブルーに確かめ、自分も手帳を確認する。
学校の用事が入っていないか、柔道部の試合などは無いか、と。
そうして互いの予定を合わせて、何日か後に待ち合わせ。
車で迎えに行くとしたなら、そのままドライブに行けるけれども…。
(…チビのあいつじゃ、どうにもこうにも…)
ならないんだよな、とマグカップの縁を指でカチンと弾く。
「俺が自分で決めたことだが」と、「家にも呼ばないわけなんだが」と。
出会って間もなく決めた約束。
チビのブルーが、前のブルーと同じ背丈に育つ時まで、唇へのキスは贈らない。
家に遊びに来るのも禁止で、もちろん、デートをするなど、論外。
それは重々、承知していても、考えるくらいはいいだろう。
「もしも、あいつとデート出来るなら」と、ほんの少しの間だけ。
けしからぬことをしようという目的で、デートに誘おうという企みではないのだから。
(…うんと健全に…)
十四歳のチビに合わせたヤツで、と夢を見てみることにした。
どんなデートになるのだろうかと、場所や、ブルーの反応やらを。
(今のあいつを誘うなら…)
まずは、ブルーの両親も許してくれる場所。
「行ってらっしゃい」と、笑顔で見送ってくれる行き先を選ぶ。
遊園地あたりが無難だろうか、チビのブルーを連れてゆくのなら。
(ドライブもいいが、最初のデートとなると、やっぱり…)
子供が喜ぶトコがいいよな、と思うものだから、遊園地。
チビのブルーは、ドライブも喜びそうだけれども、またの機会にしておいて。
(遊園地までは、俺の車で行くんだし…)
ドライブ気分も、ちょっぴり味わえる筈。
遊園地までは、最短コースで走る必要は無いのだから。
ほんの僅かに回り道すれば、景色のいい所を走れるから。
(よし…!)
遊園地ってことで、と決めたデートの行き先。
チビのブルーに、「今度、遊園地に行かないか?」と尋ねる所から、初めてのデート。
大きく育ったブルーと違って、チビのブルーの場合は、其処からのスタート。
ブルーの家に何度も通って、両親とも、すっかり馴染んだ後で。
(でないと、お許し、出そうにないしな?)
俺という人物に信用が無いと…、と苦笑する。
いくら学校の教師といえども、ブルーの両親の目から見たなら、立派な他人。
「前世は、キャプテン・ハーレイでした」と明かしても、何の信用も無い。
歴史の上では英雄とはいえ、どんな人間かは分からないから。
英雄に相応しい人物だったか、伝わる通りの人柄だったか、誰も保証はしてくれない。
(…つまり、信用ってヤツを、一から築いていかないと…)
大事な一人息子のブルーを、任せてくれはしないだろう。
今の自分がそうであるように、家族同様の付き合いをして貰えるようにならないと。
(出会って直ぐに、デートってのは…)
無理なんだよな、と額を軽くトントンと叩く。
「なんたって、俺はオジサンだから」と、「ブルーとは、年も違い過ぎだ」と。
オジサンの自分が、ブルーを遊園地に連れてゆくとなったら、両親は恐縮しそうな感じ。
「ブルーが無理を言ったのでは」と、「お休みの日に、申し訳ありません」と。
本当の所は、誘ったのは「ハーレイ」の方なのに。
今の生でも身体が弱いブルーを、遊園地などに連れてゆこう、と。
(…ブルーは、大喜びで「行く!」なんだろうが…)
両親の方は、気が気ではないことだろう。
「息子が、御迷惑をお掛けするのでは」と、「車に酔うとか、気分が悪くなるだとか」と。
そういう事態は、ちゃんと織り込み済みなのに。
ブルーを誘おうと決めた時点で、当日になって駄目になるのも、覚悟しているのに。
(…迎えに行ったら、寝込んでいたとか…)
ありそうだしな、と思うけれども、そうなった時は、ブルーの両親は平謝りかもしれない。
ガレージに車を入れた途端に、二人揃って飛んで来て。
「ハーレイ先生、すみません」と頭を下げて、「ブルーは出られないんです」と。
こちらは全く構わないのに、息子の具合が悪くなったことを、ひたすらに詫びて。
(…そうなっちまったら、そうなった時で…)
ブルーの部屋に通して貰って、ガッカリしているブルーを見舞う。
「遊園地は、また今度にしような」と、「今日は眠って、しっかり治せよ」と。
それでも少しも気にしないけれど、デートが駄目になるよりは…。
(行ける方が、いいに決まってるってな!)
あいつと初めてのデートなんだぞ、と気持ちをそちらに切り替える。
チビのブルーを愛車の助手席に乗せて、遊園地に向かって出発しよう、と。
濃い緑色をしている車は、ブルーと二人で乗ってゆくための「シャングリラ」。
助手席に座ったチビのブルーに、「シャングリラだぞ」と説明してやる。
「俺たちのためだけにある、シャングリラなんだ」と、「白くないけどな」と。
(そしたら、あいつは…)
顔を輝かせて、ハンドルを握る「ハーレイ」を見詰めてくるのだろう。
「ハーレイの運転なら、安心だよね」と、「だって、キャプテンなんだもの」と。
(シャングリラ、発進! …ってな)
そう言って走り出してやろうか、青い地球の上を走る「シャングリラ」で。
飛べないけれども、ブルーと二人で乗ってゆくには、充分な「船」で。
(地球に来たんだ、って気持ちになれる所を走って…)
遊園地の駐車場に着いたら、ブルーと一緒にゲートまで歩く。
これが育ったブルーだったなら、手を繋いで歩いてゆきたいけれど…。
(チビのあいつだと、お父さんと息子みたいにしか…)
見えないような気がするんだよな、と頭をカリカリと掻いた。
「そいつは御免蒙りたいぞ」と、「手を繋ぐのは、あいつが育ってからだな」と。
そうは思っても、ブルーの方では、どんな気持ちでいるかは謎。
「デートに来たんだ」と浮かれているから、あちらから手を差し出して…。
(手を繋ごうよ、ってキュッと握られたら…)
仕方ないな、とクックッと笑う。
傍目には親子にしか見えていなくても、チビのブルーはカップルのつもり。
手を繋ぐどころか、腕を組もうとする可能性も充分にある。
「だって、恋人同士じゃない」と、「今日はデートに来てるんだよ」と。
デートなら手を繋いで歩くか、腕を組んで歩くものなんだから、と。
実際、カップルで恋人同士。
ブルーは間違っていないのだから、親子に見えても、甘んじておこう。
チケットを買う時も、係員に勘違いされていたって。
(でもって、中に入った後も…)
息子を連れて遊園地に来た、「優しいお父さん」だと皆に思われる「自分」。
デートに来たとは、誰も分かってくれなさそう。
(乗り物の順番待ちをしたって、何か食べようと店に入ったって…)
お父さんと息子なのだけれども、それでもいい。
チビのブルーとデート出来るなら、間違えられたままの一日でも。
(まあ、保護者には違いないんだし…)
学校じゃ、親を保護者と呼ぶぞ、とコーヒーのカップを傾ける。
「お父さんでも、いいじゃないか」と、「ブルーは膨れそうだがな」と。
そう、子供扱いされるブルーの心は、不満一杯になるだろう。
「違うよ」と、「ぼくは恋人なのに」と、何度も何度も膨れっ面。
「みんな、酷いよ」と、「なんで、そういうことになるの?」と、自分の姿は棚に上げて。
(お前がチビだからじゃないか、と言ってやったら…)
「チビじゃないよ!」とプンスカ怒って、「あれに乗るよ」と言い出すだろうか。
立派な大人でも悲鳴を上げる、絶叫マシン。
チビのブルーには、どう考えても向いていそうにない乗り物。
(…前のあいつなら、絶叫マシンなんて代物は…)
子供だましの遊具だけれども、チビのブルーは、そうではない。
「お化けが怖い」と言い出すくらいに、見た目通りの弱虫で、子供。
(絶叫マシンなんぞに、乗ろうモンなら…)
たちまち悲鳴で、乗り込んだことを後悔するのに違いない。
「助けて!」と叫んで、「停めて」と悲鳴で、後は言葉にならなくて…。
(お約束通り、キャーキャーと…)
騒ぐのが目に見えているけれど、「乗る」と言い張るのを止めるような真似は…。
(しないぞ、俺は)
面白いしな、と笑いを堪える。
「チビのあいつと、デートなんだから」と、「チビならではだ」と。
育った後のブルーだったら、ちゃんと恋人同士に見えるし、絶叫マシンには挑まないから。
(あいつが大きくなっていたなら…)
絶叫マシンに乗るとしたって、意地で挑むというのではない。
「あれ、怖いかな?」などと躊躇った末に、「ハーレイと一緒なら」と乗る程度。
二人だったら怖くないから、と頬を赤らめて。
「ハーレイが隣にいるんだものね」と、「でも、怖がっても笑わないでよ?」と。
(…やっぱり、チビのあいつでしか…)
出来ないデートがあるんだよな、と気付かされたから、想像の翼は更に広がる。
「チビのあいつと、デート出来るなら」と。
「遊園地でも、充分、楽しめそうだ」と、「次に乗るのは、何にするかな」と…。
デート出来るなら・了
※チビのブルー君とデート出来るなら、どんな具合だろう、と想像してみたハーレイ先生。
大きく育った後のブルーとは、違った楽しみが色々ありそう。絶叫マシンもいいですよねv
まだまだ当分先なんだよな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(なんと言っても、チビなんだし…)
十四歳の子供なんだぞ、と頭に描いた恋人。
チビのブルーは自分の教え子、とはいえ、誰よりも大切な人。
遠く遥かな時の彼方で、前のブルーに恋をしたから。
青い地球の上に生まれ変わって、再び巡り会えたから。
(あいつが、前の通りの姿だったら…)
とうの昔に、デートに誘っていただろう。
再会を遂げたその日の間に、約束を交わしていたかもしれない。
ブルーが聖痕のショックで病院に運ばれ、ベッドに横たわっていようとも。
(青白い顔をしてたとしたって、ブルーは、きっと…)
幸せそうな笑みを湛えて、チビのブルーと同じ言葉を言っただろう。
「ただいま」と、それに「帰って来たよ」と。
(それを聞いたら…)
横たわるブルーの手を握らずにはいられない。
ブルーが「ただいま」と口にする時は、周りには、誰も…。
(いない筈だしな?)
両親も医者も、と確信に満ちた思いがある。
チビのブルーでさえ、「ただいま」を言う前に、両親を遠ざけたのだから。
「ハーレイと、二人きりにして欲しい」と、不審がられないよう、自然な言葉で。
もっと育ったブルーだったら、当然、それをするだろう。
だから、ブルーの手を握っても…。
(見てるヤツは、誰もいないってことで…)
二人きりになれたついでに、デートの約束をしたっていい。
そうしておいたら、心置きなく、二人きりでゆっくり話が出来る。
二人で何処かへデートに出掛けて、再会出来た喜びを噛み締めながら。
ブルーが大きく育っていたなら、恐らくは、そうなっただろう。
出会ったその日に、病院の部屋で約束をして。
「お前、空いてる日はいつなんだ?」とブルーに確かめ、自分も手帳を確認する。
学校の用事が入っていないか、柔道部の試合などは無いか、と。
そうして互いの予定を合わせて、何日か後に待ち合わせ。
車で迎えに行くとしたなら、そのままドライブに行けるけれども…。
(…チビのあいつじゃ、どうにもこうにも…)
ならないんだよな、とマグカップの縁を指でカチンと弾く。
「俺が自分で決めたことだが」と、「家にも呼ばないわけなんだが」と。
出会って間もなく決めた約束。
チビのブルーが、前のブルーと同じ背丈に育つ時まで、唇へのキスは贈らない。
家に遊びに来るのも禁止で、もちろん、デートをするなど、論外。
それは重々、承知していても、考えるくらいはいいだろう。
「もしも、あいつとデート出来るなら」と、ほんの少しの間だけ。
けしからぬことをしようという目的で、デートに誘おうという企みではないのだから。
(…うんと健全に…)
十四歳のチビに合わせたヤツで、と夢を見てみることにした。
どんなデートになるのだろうかと、場所や、ブルーの反応やらを。
(今のあいつを誘うなら…)
まずは、ブルーの両親も許してくれる場所。
「行ってらっしゃい」と、笑顔で見送ってくれる行き先を選ぶ。
遊園地あたりが無難だろうか、チビのブルーを連れてゆくのなら。
(ドライブもいいが、最初のデートとなると、やっぱり…)
子供が喜ぶトコがいいよな、と思うものだから、遊園地。
チビのブルーは、ドライブも喜びそうだけれども、またの機会にしておいて。
(遊園地までは、俺の車で行くんだし…)
ドライブ気分も、ちょっぴり味わえる筈。
遊園地までは、最短コースで走る必要は無いのだから。
ほんの僅かに回り道すれば、景色のいい所を走れるから。
(よし…!)
遊園地ってことで、と決めたデートの行き先。
チビのブルーに、「今度、遊園地に行かないか?」と尋ねる所から、初めてのデート。
大きく育ったブルーと違って、チビのブルーの場合は、其処からのスタート。
ブルーの家に何度も通って、両親とも、すっかり馴染んだ後で。
(でないと、お許し、出そうにないしな?)
俺という人物に信用が無いと…、と苦笑する。
いくら学校の教師といえども、ブルーの両親の目から見たなら、立派な他人。
「前世は、キャプテン・ハーレイでした」と明かしても、何の信用も無い。
歴史の上では英雄とはいえ、どんな人間かは分からないから。
英雄に相応しい人物だったか、伝わる通りの人柄だったか、誰も保証はしてくれない。
(…つまり、信用ってヤツを、一から築いていかないと…)
大事な一人息子のブルーを、任せてくれはしないだろう。
今の自分がそうであるように、家族同様の付き合いをして貰えるようにならないと。
(出会って直ぐに、デートってのは…)
無理なんだよな、と額を軽くトントンと叩く。
「なんたって、俺はオジサンだから」と、「ブルーとは、年も違い過ぎだ」と。
オジサンの自分が、ブルーを遊園地に連れてゆくとなったら、両親は恐縮しそうな感じ。
「ブルーが無理を言ったのでは」と、「お休みの日に、申し訳ありません」と。
本当の所は、誘ったのは「ハーレイ」の方なのに。
今の生でも身体が弱いブルーを、遊園地などに連れてゆこう、と。
(…ブルーは、大喜びで「行く!」なんだろうが…)
両親の方は、気が気ではないことだろう。
「息子が、御迷惑をお掛けするのでは」と、「車に酔うとか、気分が悪くなるだとか」と。
そういう事態は、ちゃんと織り込み済みなのに。
ブルーを誘おうと決めた時点で、当日になって駄目になるのも、覚悟しているのに。
(…迎えに行ったら、寝込んでいたとか…)
ありそうだしな、と思うけれども、そうなった時は、ブルーの両親は平謝りかもしれない。
ガレージに車を入れた途端に、二人揃って飛んで来て。
「ハーレイ先生、すみません」と頭を下げて、「ブルーは出られないんです」と。
こちらは全く構わないのに、息子の具合が悪くなったことを、ひたすらに詫びて。
(…そうなっちまったら、そうなった時で…)
ブルーの部屋に通して貰って、ガッカリしているブルーを見舞う。
「遊園地は、また今度にしような」と、「今日は眠って、しっかり治せよ」と。
それでも少しも気にしないけれど、デートが駄目になるよりは…。
(行ける方が、いいに決まってるってな!)
あいつと初めてのデートなんだぞ、と気持ちをそちらに切り替える。
チビのブルーを愛車の助手席に乗せて、遊園地に向かって出発しよう、と。
濃い緑色をしている車は、ブルーと二人で乗ってゆくための「シャングリラ」。
助手席に座ったチビのブルーに、「シャングリラだぞ」と説明してやる。
「俺たちのためだけにある、シャングリラなんだ」と、「白くないけどな」と。
(そしたら、あいつは…)
顔を輝かせて、ハンドルを握る「ハーレイ」を見詰めてくるのだろう。
「ハーレイの運転なら、安心だよね」と、「だって、キャプテンなんだもの」と。
(シャングリラ、発進! …ってな)
そう言って走り出してやろうか、青い地球の上を走る「シャングリラ」で。
飛べないけれども、ブルーと二人で乗ってゆくには、充分な「船」で。
(地球に来たんだ、って気持ちになれる所を走って…)
遊園地の駐車場に着いたら、ブルーと一緒にゲートまで歩く。
これが育ったブルーだったなら、手を繋いで歩いてゆきたいけれど…。
(チビのあいつだと、お父さんと息子みたいにしか…)
見えないような気がするんだよな、と頭をカリカリと掻いた。
「そいつは御免蒙りたいぞ」と、「手を繋ぐのは、あいつが育ってからだな」と。
そうは思っても、ブルーの方では、どんな気持ちでいるかは謎。
「デートに来たんだ」と浮かれているから、あちらから手を差し出して…。
(手を繋ごうよ、ってキュッと握られたら…)
仕方ないな、とクックッと笑う。
傍目には親子にしか見えていなくても、チビのブルーはカップルのつもり。
手を繋ぐどころか、腕を組もうとする可能性も充分にある。
「だって、恋人同士じゃない」と、「今日はデートに来てるんだよ」と。
デートなら手を繋いで歩くか、腕を組んで歩くものなんだから、と。
実際、カップルで恋人同士。
ブルーは間違っていないのだから、親子に見えても、甘んじておこう。
チケットを買う時も、係員に勘違いされていたって。
(でもって、中に入った後も…)
息子を連れて遊園地に来た、「優しいお父さん」だと皆に思われる「自分」。
デートに来たとは、誰も分かってくれなさそう。
(乗り物の順番待ちをしたって、何か食べようと店に入ったって…)
お父さんと息子なのだけれども、それでもいい。
チビのブルーとデート出来るなら、間違えられたままの一日でも。
(まあ、保護者には違いないんだし…)
学校じゃ、親を保護者と呼ぶぞ、とコーヒーのカップを傾ける。
「お父さんでも、いいじゃないか」と、「ブルーは膨れそうだがな」と。
そう、子供扱いされるブルーの心は、不満一杯になるだろう。
「違うよ」と、「ぼくは恋人なのに」と、何度も何度も膨れっ面。
「みんな、酷いよ」と、「なんで、そういうことになるの?」と、自分の姿は棚に上げて。
(お前がチビだからじゃないか、と言ってやったら…)
「チビじゃないよ!」とプンスカ怒って、「あれに乗るよ」と言い出すだろうか。
立派な大人でも悲鳴を上げる、絶叫マシン。
チビのブルーには、どう考えても向いていそうにない乗り物。
(…前のあいつなら、絶叫マシンなんて代物は…)
子供だましの遊具だけれども、チビのブルーは、そうではない。
「お化けが怖い」と言い出すくらいに、見た目通りの弱虫で、子供。
(絶叫マシンなんぞに、乗ろうモンなら…)
たちまち悲鳴で、乗り込んだことを後悔するのに違いない。
「助けて!」と叫んで、「停めて」と悲鳴で、後は言葉にならなくて…。
(お約束通り、キャーキャーと…)
騒ぐのが目に見えているけれど、「乗る」と言い張るのを止めるような真似は…。
(しないぞ、俺は)
面白いしな、と笑いを堪える。
「チビのあいつと、デートなんだから」と、「チビならではだ」と。
育った後のブルーだったら、ちゃんと恋人同士に見えるし、絶叫マシンには挑まないから。
(あいつが大きくなっていたなら…)
絶叫マシンに乗るとしたって、意地で挑むというのではない。
「あれ、怖いかな?」などと躊躇った末に、「ハーレイと一緒なら」と乗る程度。
二人だったら怖くないから、と頬を赤らめて。
「ハーレイが隣にいるんだものね」と、「でも、怖がっても笑わないでよ?」と。
(…やっぱり、チビのあいつでしか…)
出来ないデートがあるんだよな、と気付かされたから、想像の翼は更に広がる。
「チビのあいつと、デート出来るなら」と。
「遊園地でも、充分、楽しめそうだ」と、「次に乗るのは、何にするかな」と…。
デート出来るなら・了
※チビのブルー君とデート出来るなら、どんな具合だろう、と想像してみたハーレイ先生。
大きく育った後のブルーとは、違った楽しみが色々ありそう。絶叫マシンもいいですよねv
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