予習するのは
「ねえ、ハーレイ。予習するのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
急にどうした、とハーレイは目を丸くする。
たった今まで話していたのは、まるで全く別の内容。
とはいえ中身は他愛ないもので、学校の話でもなかった。
(…何処から予習が出て来たんだ?)
分からんぞ、とハーレイには、ブルーの意図が掴めない。
学校の話をしていたのならば、まだしも分かる。
今のブルーは優秀な生徒で、きちんと予習もしていそう。
自分でも誇りに思っているから、それを口実に…。
(褒めて欲しい、と言い出してだな…)
御褒美にキスを寄越せと言うんだ、と見えてくる手口。
如何にもブルーがやりそうだけれど、それにしても…。
(ちょっと強引すぎやしないか?)
いきなり「褒めろ」はないだろう、とブルーを眺める。
「お前、少々、厚かましいぞ」と、呆れながら。
慣れてしまった、ブルーのやり口。
「今日もそいつだ」と思うからこそ、様子見を選んだ。
もしも本当に予習の話がしたいのならば、ブルーは…。
(改めて質問する筈だしな?)
俺が黙っていた場合…、と沈黙を守る間に、質問が来た。
「無視しないでよ」と、ブルーが頬を膨らませる。
「ぼくは真面目に訊いてるんだよ」と、睨むようにして。
「勉強の話の何処が駄目なの」と、「先生でしょ?」と。
「あのね、生徒の質問を、無視するだなんて…」
先生だとも思えないけれど、とブルーは半ば怒っている。
「どういうつもり?」と、「お休みだから?」と。
ブルーが言うには、休日だろうが、教師は教師。
生徒が質問して来た時には、きちんと答えを返すべき。
でないと生徒も困ってしまう、という主張。
「だって、そうでしょ? お休みの日に予習をしてて…」
分からなかったらどうするわけ、とブルーは詰った。
「教科書を読んでも分からなくって、参考書だって…」
理解出来ない時もあるでしょ、と痛い所を突いて来る。
「なのにハーレイ、無視しちゃうわけ?」と。
「休みの日は、俺も休みなんだ」で済ませちゃうの、と。
「す、すまん…!」
本当に予習の話だったのか、とハーレイは慌てた。
まさかそうとは思わないから、招いてしまった今の状態。
ブルーはすっかり御機嫌斜めで、爆発寸前かもしれない。
これはマズイ、と急いで詫びて、宥めにかかる。
「すまない、俺が悪かった! お前は、とても優秀で…」
予習を欠かしはしないだろ、とブルーを持ち上げた。
「俺の古典の授業もそうだし、他の科目も」と。
「先生たちが揃って褒めているぞ」と「いいことだ」と。
素晴らしい心がけじゃないか、と褒めてやる。
「予習をしてこない生徒も多いが、お前は違う」と。
懸命に詫びたら、ブルーは「当然でしょ」と答えた。
「きちんと予習をしておかないと、自分が困るよ?」
授業が分からなくなって…、とブルーは真剣で大真面目。
「そうなってからでは遅いんだから」と、いうのも正論。
(…しまった、俺としたことが…)
ちょいと深読みしすぎちまった、とハーレイは情けない。
先走って考えすぎたあまりに、生徒のブルーの質問を…。
(無視した上に、よからぬ方向に考えちまって…)
この有様だ、と居たたまれない気分になる。
いつも授業で、予習の大切さを説いているのに。
「予習しないから、こうなるんだぞ」と、叱ったりも。
(……参ったな……)
完全に怒らせちまったかもな、とブルーの顔色を伺う。
赤い瞳は、まだ穏やかになってはいない。
(…どうしたもんだか…)
俺のケーキを分けてやっても無駄だろうし、と心で溜息。
どうすればブルーの機嫌が直るか、頭の中はそれで一杯。
困り果てていたら、ブルーが念を押すように言った。
「ハーレイ、予習は大切だよね?」
そう思うでしょ、と確認されたから、「うむ」と返した。
「予習はとても大事なことだぞ、欠かしちゃいかん」
無理をしすぎない程度に頑張るんだぞ、と励ましてやる。
「今のお前も努力家だから、その調子でな」と。
するとブルーは、嬉しそうに顔を輝かせた。
「ハーレイも、そう思うでしょ? じゃあ、手伝って!」
お休みの日だけど、ぼくの予習を、と身を乗り出す。
「キスの予習もしておかないと」と、「今の間に」と。
「馬鹿野郎!」
そういう魂胆だったか、とハーレイは銀色の頭を叩いた。
コツンと、痛くないように。
「そんな予習は、俺は手伝わないからな!」
第一、必要無いだろうが、とチビのブルーを叱り付ける。
「お前にキスは早すぎるんだ」と、「必要無い」と…。
予習するのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
急にどうした、とハーレイは目を丸くする。
たった今まで話していたのは、まるで全く別の内容。
とはいえ中身は他愛ないもので、学校の話でもなかった。
(…何処から予習が出て来たんだ?)
分からんぞ、とハーレイには、ブルーの意図が掴めない。
学校の話をしていたのならば、まだしも分かる。
今のブルーは優秀な生徒で、きちんと予習もしていそう。
自分でも誇りに思っているから、それを口実に…。
(褒めて欲しい、と言い出してだな…)
御褒美にキスを寄越せと言うんだ、と見えてくる手口。
如何にもブルーがやりそうだけれど、それにしても…。
(ちょっと強引すぎやしないか?)
いきなり「褒めろ」はないだろう、とブルーを眺める。
「お前、少々、厚かましいぞ」と、呆れながら。
慣れてしまった、ブルーのやり口。
「今日もそいつだ」と思うからこそ、様子見を選んだ。
もしも本当に予習の話がしたいのならば、ブルーは…。
(改めて質問する筈だしな?)
俺が黙っていた場合…、と沈黙を守る間に、質問が来た。
「無視しないでよ」と、ブルーが頬を膨らませる。
「ぼくは真面目に訊いてるんだよ」と、睨むようにして。
「勉強の話の何処が駄目なの」と、「先生でしょ?」と。
「あのね、生徒の質問を、無視するだなんて…」
先生だとも思えないけれど、とブルーは半ば怒っている。
「どういうつもり?」と、「お休みだから?」と。
ブルーが言うには、休日だろうが、教師は教師。
生徒が質問して来た時には、きちんと答えを返すべき。
でないと生徒も困ってしまう、という主張。
「だって、そうでしょ? お休みの日に予習をしてて…」
分からなかったらどうするわけ、とブルーは詰った。
「教科書を読んでも分からなくって、参考書だって…」
理解出来ない時もあるでしょ、と痛い所を突いて来る。
「なのにハーレイ、無視しちゃうわけ?」と。
「休みの日は、俺も休みなんだ」で済ませちゃうの、と。
「す、すまん…!」
本当に予習の話だったのか、とハーレイは慌てた。
まさかそうとは思わないから、招いてしまった今の状態。
ブルーはすっかり御機嫌斜めで、爆発寸前かもしれない。
これはマズイ、と急いで詫びて、宥めにかかる。
「すまない、俺が悪かった! お前は、とても優秀で…」
予習を欠かしはしないだろ、とブルーを持ち上げた。
「俺の古典の授業もそうだし、他の科目も」と。
「先生たちが揃って褒めているぞ」と「いいことだ」と。
素晴らしい心がけじゃないか、と褒めてやる。
「予習をしてこない生徒も多いが、お前は違う」と。
懸命に詫びたら、ブルーは「当然でしょ」と答えた。
「きちんと予習をしておかないと、自分が困るよ?」
授業が分からなくなって…、とブルーは真剣で大真面目。
「そうなってからでは遅いんだから」と、いうのも正論。
(…しまった、俺としたことが…)
ちょいと深読みしすぎちまった、とハーレイは情けない。
先走って考えすぎたあまりに、生徒のブルーの質問を…。
(無視した上に、よからぬ方向に考えちまって…)
この有様だ、と居たたまれない気分になる。
いつも授業で、予習の大切さを説いているのに。
「予習しないから、こうなるんだぞ」と、叱ったりも。
(……参ったな……)
完全に怒らせちまったかもな、とブルーの顔色を伺う。
赤い瞳は、まだ穏やかになってはいない。
(…どうしたもんだか…)
俺のケーキを分けてやっても無駄だろうし、と心で溜息。
どうすればブルーの機嫌が直るか、頭の中はそれで一杯。
困り果てていたら、ブルーが念を押すように言った。
「ハーレイ、予習は大切だよね?」
そう思うでしょ、と確認されたから、「うむ」と返した。
「予習はとても大事なことだぞ、欠かしちゃいかん」
無理をしすぎない程度に頑張るんだぞ、と励ましてやる。
「今のお前も努力家だから、その調子でな」と。
するとブルーは、嬉しそうに顔を輝かせた。
「ハーレイも、そう思うでしょ? じゃあ、手伝って!」
お休みの日だけど、ぼくの予習を、と身を乗り出す。
「キスの予習もしておかないと」と、「今の間に」と。
「馬鹿野郎!」
そういう魂胆だったか、とハーレイは銀色の頭を叩いた。
コツンと、痛くないように。
「そんな予習は、俺は手伝わないからな!」
第一、必要無いだろうが、とチビのブルーを叱り付ける。
「お前にキスは早すぎるんだ」と、「必要無い」と…。
予習するのは・了
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