君が行くなら
(ハーレイと一緒に、地球まで来られたんだよね…)
身体は新しくなっちゃったけど、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったけれども、ハーレイは同じ町にいる。
青く蘇った地球の上にある、ごくごく普通の町の一つに。
(…夢がホントになっちゃった…)
前のぼくの、と遠く遥かな時の彼方に思いを馳せる。
白いシャングリラで、どれほど地球に焦がれたことか。
いつか行きたいと夢を描いて、前のハーレイと交わした約束。
「いつか地球まで辿り着いたら」と、数え切れないほどの夢を託して。
(でも、前のぼくは…)
地球への夢を、諦めざるを得なかった。
寿命が足りなくなってしまって、行けないと悟った夢の星。
(…もしも、メギドで死ななかったら…)
あるいは行けていたのかも、と考えて、直ぐに首をブンブンと左右に振った。
「そんなのは、無理」と。
前の自分が命を捨ててメギドを止めなかったら、ミュウは滅びていただろう。
白い箱舟も焼かれてしまって、宇宙の藻屑。
(…ハーレイと地球まで行けるどころか、ハーレイだって…)
ナスカで死んでしまっておしまい、と分かっているから、後悔は無い。
前の生の終わりに、泣きじゃくりながら死んでいったことも、後悔なんかは…。
(多分、していなかったよね?)
あまり自信が無いのだけれども、恐らく、してはいないと思う。
ハーレイとの絆は切れてしまっても、ミュウの未来は守れたから。
大勢の仲間を乗せた箱舟を、ハーレイが地球まで、きっと運んでくれるから。
(…だから、それでいい、って…)
前の自分は納得していて、其処で終わりの筈だった。
ハーレイと過ごした幸せな日々も、最後まで持っていたかった恋も。
ところが、終わらなかった恋。
気付けば自分は青い地球にいて、ハーレイまでがついて来た。
(ちょっぴりチビなのが、残念だけど…)
育つまで結婚はお預けどころか、キスさえ、お預け。
それでも、前の自分の夢は…。
(ちゃんと叶っているんだよ)
ハーレイと地球に来られたものね、と今の幸せを噛み締める。
前の生でハーレイと交わした沢山の約束、「地球に着いたら」と描いた夢が叶う人生。
チビの自分が大きくなったら、今のハーレイが叶えてくれる。
旅行に行ったり、ドライブしたりと、計画を立てて。
(生まれて来た星が、地球で良かった…)
夢を叶えるには一番の場所、と嬉しくなる。
他の星に二人で生まれていたなら、前の生での約束を果たそうと思ったら…。
(…地球まで、出掛けて行かないと…)
地球での夢は叶わないから、とても大変だったろう。
ハーレイの仕事が休みになる度、長期の旅行。
夏休みくらいしか、無理かもしれない。
(そうなると、年に一回だけしか…)
地球への旅は出来ないわけだし、旅行の時は予定がビッシリ。
叶えたい約束をギュウギュウ詰め込み、あちこちの地域を駆け回って。
(考えただけでも、忙しそう…)
バテちゃいそうだよ、と思うけれども、ハーレイと一緒に暮らせるのなら…。
(地球でなくても、気にならないよね?)
だって、ハーレイがいるんだもの、と大きく頷く。
前の生の終わりに切れたと思った、ハーレイとの絆。
それが切れずに繋がっていたら、もう、それだけで充分だろう。
地球からは遠い星に生まれてしまって、地球まで行くのが一苦労でも。
前の生での夢を叶えるのが、ハードスケジュールな旅になっても。
(…ハーレイさえ、一緒にいてくれるなら…)
ぼくは何処でも構わないや、と心から思うし、今の生でも、その点は同じ。
ハーレイの仕事に、転勤なんかは無いのだけれど…。
(同じ町にある学校の中で、勤める学校が変わるだけだし…)
他所の町には行かないけれども、仕事によっては、別の地域への転勤もある。
違う町どころか、海を渡った遥か遠くの、全く違う文化の地域へ。
(もしも、そういう仕事だったら…)
この町を離れて、引っ越す日がやって来たかもしれない。
「そんなに遠いの?」と思う地域へ、もしかしたら砂漠があるような所。
うんと暑くて、今の生でも弱い身体には、強い日差しが堪えるくらいに過酷な地域。
(住めば都だから、そういうトコにも…)
好きで暮らしている人は多いし、ハーレイが転勤するのだったら、一緒に行く。
毎日、「暑いよ」と、へばっていても。
ちょっと散歩に出掛けることさえ、昼間は暑くて無理な場所でも。
(…ハーレイが一緒なら、ぼくは幸せ…)
そのハーレイが行くと言うなら、何処へだってついて行くだろう。
「今度の転勤、お前には、ちょっとキツそうだから」と、残るようにと勧められても。
転勤が終わって帰って来るまで、両親の家で暮らすようにと、提案されても。
(ハーレイと離れるなんて、二度と嫌だよ)
メギドの時だけで充分だから、と決意をこめて握った右手。
前の生の終わりに、ハーレイの温もりを失くしてしまって、冷たく凍えてしまったから…。
(今度は、ハーレイの手を離さないってば)
どんな場所でも、ついて行くよ、と右手を見詰める。
「ハーレイが行くなら、何処だって行くよ」と。
(…君が行くなら、ぼくは必ず…)
一緒に行くって言うからね、と。
たとえハーレイが「駄目だ」と言おうが、絶対に「うん」と頷きはしない。
「お前の身体には、良くないから」と、難しい顔をされたって。
しょっちゅう寝込む羽目になろうが、ハーレイと離れるよりはいい。
ハーレイが仕事に行っている間は、一人きりでベッドの住人でも。
用意して行ってくれた食事を、食べる元気も出ない日々でも。
そう、ハーレイが行くと言うなら、何処であろうと一緒に行く。
「お前には無理だ」と説得されても、喧嘩になっても、諦めはしない。
「ぼくも一緒に行くんだから」と、言い張るだけ。
「でなきゃ、ハーレイも行かせやしないよ」と、まるで幼い子供みたいに駄々をこねて。
(…ハーレイが許してくれなくっても…)
なんとかして、ついて行くんだもんね、と決心は固い。
ハーレイが転勤して行った後で、自分もコッソリ纏めておいた荷物を送って…。
(其処へ行く便に乗って追い掛けて行けば、ハーレイだって…)
諦めるしかないだろう。
「ブルーの荷物」がドカンと届いて、本人もやって来たならば。
「今日から、此処で暮らすからね」と、悪びれもせずに、上がり込まれたならば。
(…ハーレイが、ぼくを置いて行くほどの場所だから…)
とても暑いとか、酷く寒いとか、とんでもない気候の場所だろう。
ハーレイを追い掛けて着いた途端に、「こんなトコなの?」と後悔しそうなほどに。
「ぼくの身体、ホントに大丈夫かな」と、クラリと眩暈を起こすくらいに。
(…路線バスとかで、ハーレイの家まで行こうとしてても…)
その計画を立てて来ていても、たちまち挫折する自分がいそう。
「そんなの無理だよ」と、手荷物さえも、もう重すぎて。
ヨロヨロしながらタクシーに乗るのが、精一杯で。
(だけど、ハーレイがいる場所なんだし…)
きっと心は幸せ一杯、「やっと来られた」と弾んでいることだろう。
前の自分が、憧れの地球に着いたみたいな気分になって。
どんなに過酷な気候の場所でも、ハーレイと一緒に暮らせるから。
(前のぼくにとっての、地球とおんなじ…)
ハーレイさえいれば、それで充分、と自信はある。
「ぼくは絶対、後悔しない」と。
寝込んでばかりの日々になっても、身体が悲鳴を上げ続けても。
ハーレイに「やっぱり、お前は帰った方がいい」と心配されても、「嫌だよ」と言うだけ。
快適な暮らしが待っていたって、其処にハーレイはいないから。
毎日、通信を入れてくれても、慰めになりはしないから。
(…君が行くなら、ホントに、どんな所へだって…)
ぼくは必ずついて行くよ、と思ったはずみに、ハタと気付いた。
今の自分が生まれて来たのは、青い地球。
ハーレイも一緒について来たわけで、聖痕をくれた神様が起こした奇跡のお蔭。
二人で地球に生まれる前には、きっと天国にいたのだろう。
何処にも生まれ変わりはしないで、長い長い時を待っていた。
青く蘇った水の星の上に、前の自分たちとそっくりに育つ身体が用意されるまで。
神様がそれを創り出すまで、天国でずっと待ち続けて…。
(やっと生まれて来て、此処で暮らして…)
生を終えたら、ハーレイと一緒に天国へ帰る。
今度はけして離れることなく、呼吸も鼓動も、同時に止めて。
二人一緒に身体を離れて、神の許へと戻ってゆく。
問題は、それから後のこと。
ずっと天国で暮らしてゆくのか、また青い地球に生まれて来るか。
あるいは他の星に生まれて、心機一転、新しい暮らしをしてみるだとか。
(どうするにしても、ハーレイと一緒…)
それは絶対、譲らないからね、と思うけれども、ハーレイはどれを選ぶだろうか。
のんびり天国で暮らしてゆくのか、地球に行くのか。
(…今度はスポーツ選手もいいな、って…)
言い出すかもね、と平和な暮らししか浮かばないけれど、なにしろ、天国なのだから…。
(…他の世界も見えちゃうのかな?)
平和になってはいない世界、と心配になる。
神様が見ている世界の中には、そういう場所もあるかもしれない。
前の自分たちが生きた世界みたいに、虐げられる人々が今もいる世界。
ミュウが迫害されていたように、容赦なく殺されてゆくような。
(…もしも、そういう世界があったら…)
ハーレイが、それに気が付いたならば、其処へ行こうと考え始めることだろう。
とても放ってはおけないから。
前のハーレイが、そうだったように。
燃えるアルタミラで、他の仲間を助けなければ、と口にしたのはハーレイだから。
(…前のぼくには、そんな考えなんかは無くって…)
ただぼんやりと座り込んでいたのに、前のハーレイの言葉で、二人一緒に駆け出した。
他のシェルターに閉じ込められた仲間を、一人でも多く助け出そうと。
燃え上がる地面を二人で走って、崩れ落ちて来る瓦礫なんかは気にもしないで。
(…だから、ハーレイなら、きっと…)
今も苦しんでいる人々を放っておけずに、「俺は、あそこに行って来る」と言うのだろう。
「なあに、その内に帰って来るさ」と笑みを浮かべて。
「あそこのヤツらを助け出せたら、大急ぎで此処に戻るから」と。
それまで天国で待っているよう、とても優しい笑顔を向けて。
「ほんの少しの間だしな」と、「お前には危険すぎるから」と。
(…転勤先の気候が、ぼくには厳しすぎるから、って…)
両親の家で暮らした方がいい、と提案するのと、全く変わらない顔をして。
「俺なら一人で大丈夫だから」と、「一人暮らしは得意だってな」と。
(…だけど、そんなの、嫌だから…!)
ハーレイだけが危険な場所に行くなど、我慢が出来るわけがない。
自分はのんびり天国暮らしで、ハーレイだけ苦労するなんて。
危ない目に遭ったり、怪我をするのを、天国から見ているだけだなんて。
(…君が行くなら、ぼくだって行くよ!)
もう一度、メギドみたいなことになっても…、と握り締める右手。
ハーレイの側から離れてしまって、一人きりで死ぬ羽目になろうと…。
(……安全な場所から、見ているだけの暮らしなんかは……)
ぼくには絶対、出来やしない、と分かっているから、ついて行く。
ハーレイが、その道を選ぶなら。
(…絶対、ついて来るんじゃないぞ、って言われるに決まっているけれど…)
コッソリついて行くんだもんね、とニコリと微笑む。
「君が行くなら、ぼくも行くから」と。
「前みたいな地獄が待っていたって、君と一緒なら、天国だから」と…。
君が行くなら・了
※ハーレイ先生が行くのだったら、砂漠だろうと、ついて行くのがブルー君。反対されても。
前の生のような世界だろうと、やはり一緒に行くのです。止められても、コッソリとv
身体は新しくなっちゃったけど、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったけれども、ハーレイは同じ町にいる。
青く蘇った地球の上にある、ごくごく普通の町の一つに。
(…夢がホントになっちゃった…)
前のぼくの、と遠く遥かな時の彼方に思いを馳せる。
白いシャングリラで、どれほど地球に焦がれたことか。
いつか行きたいと夢を描いて、前のハーレイと交わした約束。
「いつか地球まで辿り着いたら」と、数え切れないほどの夢を託して。
(でも、前のぼくは…)
地球への夢を、諦めざるを得なかった。
寿命が足りなくなってしまって、行けないと悟った夢の星。
(…もしも、メギドで死ななかったら…)
あるいは行けていたのかも、と考えて、直ぐに首をブンブンと左右に振った。
「そんなのは、無理」と。
前の自分が命を捨ててメギドを止めなかったら、ミュウは滅びていただろう。
白い箱舟も焼かれてしまって、宇宙の藻屑。
(…ハーレイと地球まで行けるどころか、ハーレイだって…)
ナスカで死んでしまっておしまい、と分かっているから、後悔は無い。
前の生の終わりに、泣きじゃくりながら死んでいったことも、後悔なんかは…。
(多分、していなかったよね?)
あまり自信が無いのだけれども、恐らく、してはいないと思う。
ハーレイとの絆は切れてしまっても、ミュウの未来は守れたから。
大勢の仲間を乗せた箱舟を、ハーレイが地球まで、きっと運んでくれるから。
(…だから、それでいい、って…)
前の自分は納得していて、其処で終わりの筈だった。
ハーレイと過ごした幸せな日々も、最後まで持っていたかった恋も。
ところが、終わらなかった恋。
気付けば自分は青い地球にいて、ハーレイまでがついて来た。
(ちょっぴりチビなのが、残念だけど…)
育つまで結婚はお預けどころか、キスさえ、お預け。
それでも、前の自分の夢は…。
(ちゃんと叶っているんだよ)
ハーレイと地球に来られたものね、と今の幸せを噛み締める。
前の生でハーレイと交わした沢山の約束、「地球に着いたら」と描いた夢が叶う人生。
チビの自分が大きくなったら、今のハーレイが叶えてくれる。
旅行に行ったり、ドライブしたりと、計画を立てて。
(生まれて来た星が、地球で良かった…)
夢を叶えるには一番の場所、と嬉しくなる。
他の星に二人で生まれていたなら、前の生での約束を果たそうと思ったら…。
(…地球まで、出掛けて行かないと…)
地球での夢は叶わないから、とても大変だったろう。
ハーレイの仕事が休みになる度、長期の旅行。
夏休みくらいしか、無理かもしれない。
(そうなると、年に一回だけしか…)
地球への旅は出来ないわけだし、旅行の時は予定がビッシリ。
叶えたい約束をギュウギュウ詰め込み、あちこちの地域を駆け回って。
(考えただけでも、忙しそう…)
バテちゃいそうだよ、と思うけれども、ハーレイと一緒に暮らせるのなら…。
(地球でなくても、気にならないよね?)
だって、ハーレイがいるんだもの、と大きく頷く。
前の生の終わりに切れたと思った、ハーレイとの絆。
それが切れずに繋がっていたら、もう、それだけで充分だろう。
地球からは遠い星に生まれてしまって、地球まで行くのが一苦労でも。
前の生での夢を叶えるのが、ハードスケジュールな旅になっても。
(…ハーレイさえ、一緒にいてくれるなら…)
ぼくは何処でも構わないや、と心から思うし、今の生でも、その点は同じ。
ハーレイの仕事に、転勤なんかは無いのだけれど…。
(同じ町にある学校の中で、勤める学校が変わるだけだし…)
他所の町には行かないけれども、仕事によっては、別の地域への転勤もある。
違う町どころか、海を渡った遥か遠くの、全く違う文化の地域へ。
(もしも、そういう仕事だったら…)
この町を離れて、引っ越す日がやって来たかもしれない。
「そんなに遠いの?」と思う地域へ、もしかしたら砂漠があるような所。
うんと暑くて、今の生でも弱い身体には、強い日差しが堪えるくらいに過酷な地域。
(住めば都だから、そういうトコにも…)
好きで暮らしている人は多いし、ハーレイが転勤するのだったら、一緒に行く。
毎日、「暑いよ」と、へばっていても。
ちょっと散歩に出掛けることさえ、昼間は暑くて無理な場所でも。
(…ハーレイが一緒なら、ぼくは幸せ…)
そのハーレイが行くと言うなら、何処へだってついて行くだろう。
「今度の転勤、お前には、ちょっとキツそうだから」と、残るようにと勧められても。
転勤が終わって帰って来るまで、両親の家で暮らすようにと、提案されても。
(ハーレイと離れるなんて、二度と嫌だよ)
メギドの時だけで充分だから、と決意をこめて握った右手。
前の生の終わりに、ハーレイの温もりを失くしてしまって、冷たく凍えてしまったから…。
(今度は、ハーレイの手を離さないってば)
どんな場所でも、ついて行くよ、と右手を見詰める。
「ハーレイが行くなら、何処だって行くよ」と。
(…君が行くなら、ぼくは必ず…)
一緒に行くって言うからね、と。
たとえハーレイが「駄目だ」と言おうが、絶対に「うん」と頷きはしない。
「お前の身体には、良くないから」と、難しい顔をされたって。
しょっちゅう寝込む羽目になろうが、ハーレイと離れるよりはいい。
ハーレイが仕事に行っている間は、一人きりでベッドの住人でも。
用意して行ってくれた食事を、食べる元気も出ない日々でも。
そう、ハーレイが行くと言うなら、何処であろうと一緒に行く。
「お前には無理だ」と説得されても、喧嘩になっても、諦めはしない。
「ぼくも一緒に行くんだから」と、言い張るだけ。
「でなきゃ、ハーレイも行かせやしないよ」と、まるで幼い子供みたいに駄々をこねて。
(…ハーレイが許してくれなくっても…)
なんとかして、ついて行くんだもんね、と決心は固い。
ハーレイが転勤して行った後で、自分もコッソリ纏めておいた荷物を送って…。
(其処へ行く便に乗って追い掛けて行けば、ハーレイだって…)
諦めるしかないだろう。
「ブルーの荷物」がドカンと届いて、本人もやって来たならば。
「今日から、此処で暮らすからね」と、悪びれもせずに、上がり込まれたならば。
(…ハーレイが、ぼくを置いて行くほどの場所だから…)
とても暑いとか、酷く寒いとか、とんでもない気候の場所だろう。
ハーレイを追い掛けて着いた途端に、「こんなトコなの?」と後悔しそうなほどに。
「ぼくの身体、ホントに大丈夫かな」と、クラリと眩暈を起こすくらいに。
(…路線バスとかで、ハーレイの家まで行こうとしてても…)
その計画を立てて来ていても、たちまち挫折する自分がいそう。
「そんなの無理だよ」と、手荷物さえも、もう重すぎて。
ヨロヨロしながらタクシーに乗るのが、精一杯で。
(だけど、ハーレイがいる場所なんだし…)
きっと心は幸せ一杯、「やっと来られた」と弾んでいることだろう。
前の自分が、憧れの地球に着いたみたいな気分になって。
どんなに過酷な気候の場所でも、ハーレイと一緒に暮らせるから。
(前のぼくにとっての、地球とおんなじ…)
ハーレイさえいれば、それで充分、と自信はある。
「ぼくは絶対、後悔しない」と。
寝込んでばかりの日々になっても、身体が悲鳴を上げ続けても。
ハーレイに「やっぱり、お前は帰った方がいい」と心配されても、「嫌だよ」と言うだけ。
快適な暮らしが待っていたって、其処にハーレイはいないから。
毎日、通信を入れてくれても、慰めになりはしないから。
(…君が行くなら、ホントに、どんな所へだって…)
ぼくは必ずついて行くよ、と思ったはずみに、ハタと気付いた。
今の自分が生まれて来たのは、青い地球。
ハーレイも一緒について来たわけで、聖痕をくれた神様が起こした奇跡のお蔭。
二人で地球に生まれる前には、きっと天国にいたのだろう。
何処にも生まれ変わりはしないで、長い長い時を待っていた。
青く蘇った水の星の上に、前の自分たちとそっくりに育つ身体が用意されるまで。
神様がそれを創り出すまで、天国でずっと待ち続けて…。
(やっと生まれて来て、此処で暮らして…)
生を終えたら、ハーレイと一緒に天国へ帰る。
今度はけして離れることなく、呼吸も鼓動も、同時に止めて。
二人一緒に身体を離れて、神の許へと戻ってゆく。
問題は、それから後のこと。
ずっと天国で暮らしてゆくのか、また青い地球に生まれて来るか。
あるいは他の星に生まれて、心機一転、新しい暮らしをしてみるだとか。
(どうするにしても、ハーレイと一緒…)
それは絶対、譲らないからね、と思うけれども、ハーレイはどれを選ぶだろうか。
のんびり天国で暮らしてゆくのか、地球に行くのか。
(…今度はスポーツ選手もいいな、って…)
言い出すかもね、と平和な暮らししか浮かばないけれど、なにしろ、天国なのだから…。
(…他の世界も見えちゃうのかな?)
平和になってはいない世界、と心配になる。
神様が見ている世界の中には、そういう場所もあるかもしれない。
前の自分たちが生きた世界みたいに、虐げられる人々が今もいる世界。
ミュウが迫害されていたように、容赦なく殺されてゆくような。
(…もしも、そういう世界があったら…)
ハーレイが、それに気が付いたならば、其処へ行こうと考え始めることだろう。
とても放ってはおけないから。
前のハーレイが、そうだったように。
燃えるアルタミラで、他の仲間を助けなければ、と口にしたのはハーレイだから。
(…前のぼくには、そんな考えなんかは無くって…)
ただぼんやりと座り込んでいたのに、前のハーレイの言葉で、二人一緒に駆け出した。
他のシェルターに閉じ込められた仲間を、一人でも多く助け出そうと。
燃え上がる地面を二人で走って、崩れ落ちて来る瓦礫なんかは気にもしないで。
(…だから、ハーレイなら、きっと…)
今も苦しんでいる人々を放っておけずに、「俺は、あそこに行って来る」と言うのだろう。
「なあに、その内に帰って来るさ」と笑みを浮かべて。
「あそこのヤツらを助け出せたら、大急ぎで此処に戻るから」と。
それまで天国で待っているよう、とても優しい笑顔を向けて。
「ほんの少しの間だしな」と、「お前には危険すぎるから」と。
(…転勤先の気候が、ぼくには厳しすぎるから、って…)
両親の家で暮らした方がいい、と提案するのと、全く変わらない顔をして。
「俺なら一人で大丈夫だから」と、「一人暮らしは得意だってな」と。
(…だけど、そんなの、嫌だから…!)
ハーレイだけが危険な場所に行くなど、我慢が出来るわけがない。
自分はのんびり天国暮らしで、ハーレイだけ苦労するなんて。
危ない目に遭ったり、怪我をするのを、天国から見ているだけだなんて。
(…君が行くなら、ぼくだって行くよ!)
もう一度、メギドみたいなことになっても…、と握り締める右手。
ハーレイの側から離れてしまって、一人きりで死ぬ羽目になろうと…。
(……安全な場所から、見ているだけの暮らしなんかは……)
ぼくには絶対、出来やしない、と分かっているから、ついて行く。
ハーレイが、その道を選ぶなら。
(…絶対、ついて来るんじゃないぞ、って言われるに決まっているけれど…)
コッソリついて行くんだもんね、とニコリと微笑む。
「君が行くなら、ぼくも行くから」と。
「前みたいな地獄が待っていたって、君と一緒なら、天国だから」と…。
君が行くなら・了
※ハーレイ先生が行くのだったら、砂漠だろうと、ついて行くのがブルー君。反対されても。
前の生のような世界だろうと、やはり一緒に行くのです。止められても、コッソリとv
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