忍者ブログ

あいつが行くなら
(あいつと、地球に来られたんだが…)
 それも蘇った青い地球に、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(青い地球といえば、前のあいつの憧れの星で…)
 前の俺だって憧れたんだ、と今もハッキリと覚えている。
 遠く遥かな時の彼方で、前のブルーと描いた夢を。
 「いつか、地球まで辿り着いたら」と、青い水の星に焦がれたことを。
 なのに、青い地球は何処にも無かった。
 白いシャングリラから目にしたものは、毒素を含んだ海と砂漠に覆われた星。
 死に絶えたままの赤茶けた星が、前の自分たちの時代の地球。
(そいつが青く蘇ってくれて、今の俺たちが暮らしてるんだが…)
 実に素晴らしいことなんだが、と頬を緩めて、「しかし…」と思考を元へと戻す。
 「あいつと生まれ変われるんだったら、地球でなくても良かったよな」と。
 前の生から恋をしていた、愛おしい人。
 生まれ変わって、また巡り会えた、大切なブルー。
 今ではチビの子供だけれども、ブルーと一緒に暮らせるのならば、別の星でも構わない。
 地球からは遠く離れ過ぎていて、そう簡単には行けない星でも。
(…今は平和な時代なんだし、うんと離れていたってだな…)
 長い人生を生きる間には、地球へ行ける日も来るだろう。
 伴侶になったブルーを連れて、憧れの地球を見に行くために旅をする。
 シャングリラの舵輪を握る代わりに、快適な宇宙船の乗客になって。
(それであいつが、地球をすっかり気に入っちまって…)
 地球に住みたいと言い出したならば、迷うことなく地球に引っ越す。
 それまで暮らした星での仕事も、住み慣れた家も、あっさりと捨てて。
 地球で新しい仕事を探して、ブルーの望みの地域に住んで。
(…今の時代なら、そう厄介なことじゃないしな?)
 仕事探しも、引っ越しだって…、と大きく頷く。
 「あいつが望むなら、お安い御用だ」と、「地球で一から、また始めるさ」と。


 今の自分でも、同じ選択は出来ると思う。
 地球とは違った何処か別の星で、ブルーが暮らしたいのなら。
 「あの星で暮らせたらいいな」と、前の生で地球に焦がれていたのと、同じ瞳をするのなら。
(…絶対、有り得ないんだが…)
 あいつの憧れは青い地球だし、と分かってはいても、「俺にだって出来るさ」と溢れる自信。
 ブルーが行きたいと言うのだったら、どんな星にでも、一緒に引っ越してゆく。
 古典の教師の仕事は捨てて、長く暮らした家さえも捨てて。
(…親父とおふくろも、置いてっちまうことになるんだが…)
 マメに連絡すればいいさ、と思い浮かべる、隣町に住む両親の顔。
 「遠くへ引っ越すことにしたんだ」と言っても、きっと許してくれる、と。
(俺の親父と、おふくろだしな?)
 引っ越す理由を口にしたなら、「頑張れ」と励ますことだろう。
 伴侶になったブルーの望みを、ちゃんと叶えてやるべきだ、と。
(幸せにしてやるんだぞ、と…)
 父にバンバン背中を叩かれ、母からも貰う励ましの言葉。
 「しっかり仕事を探しなさいよ」と、「ブルー君を幸せにしてあげなさいね」と。
(…引っ越し先には、古典の教師の仕事なんかは無くっても…)
 なんとかなるさ、と眺める両手。
 「力仕事も充分出来るし、料理も、そこそこ出来るんだしな」と。
 ブルーを食べさせてゆける仕事を見付けて、家も見付けて、二人で暮らす。
 地球からは遠く離れた星でも、其処でブルーが暮らしたいなら。
 今のブルーの夢の星なら、たとえ砂漠の星であろうと。
(…そうさ、あいつが行くと言うなら…)
 何処へだって行くさ、とマグカップの縁をカチンと弾く。
 「あいつが行くなら、何処へだって」と。
 地球でなくても、どんな場所でも、ブルーが行くなら、一緒にゆく。
 迷うことなく、瞬時に決めて。
 「お前が行くなら、俺も行くさ」と、とびきりの笑顔をブルーに向けて。


(…行った先で、少々、苦労しようが…)
 苦労の内にも入らないよな、と心から思う。
 ブルーの望みを叶えるためなら、どんな苦労も厭いはしない。
 前の生からそうだったのだし、今の生でも同じこと。
(砂漠で暮らして、毎日、水汲みから始まるようになってもだな…)
 水場が遠くて大変だろうと、其処がブルーの望みの場所なら、気にしない。
 ブルーは、其処がいいのだから。
 砂まみれになって暮らす日々でも、幸せ一杯でいてくれるなら。
(…まあ、あいつだって、そんな人生は…)
 望まないだろうし、一生、地球で平和に行くさ、と思ったところで、ハタと気付いた。
 「じゃあ、この次はどうなんだ?」と。
 青い地球の上で共に暮らして、此処での生を終えた後。
 ブルーの望みは、「ハーレイが死ぬ時は、ぼくも一緒」で、同時に逝くこと。
 二人揃って、この青い星に別れを告げるのだけれど、そうして身体を離れた後は…。
(…まずは天国に戻って行って…)
 それから先は、どうするのだろう。
 ずっと天国で暮らしてゆくのか、また青い地球に戻るのか。
 あるいは別の星に行くのか、そういったことは、どうなるのだろう、と。
(俺たちは多分、地球に来るまで…)
 一度も、何処にも生まれちゃいない、と確信に満ちた思いがある。
 前の自分たちと同じ姿に育つ肉体、それを得られる時が来るまで待っていたのだ、と。
(…神様が、そのように計らって下さって…)
 長い時間を天国で待って、今の時代に生まれて来たのに違いない。
 ブルーと二人で、今度こそ幸せに生きられるよう。
 前の生で夢を描いていた星、青く蘇った水の星の上で。
(…俺たちの望みは、叶ったんだし…)
 ブルーだって、きっと大満足の人生を送ってゆける。
 前の生で地球に抱いていた夢、それを端から叶えていって。
 今ならではの沢山の夢も、全て叶えて、幸せ一杯。
 最高の人生を送ったブルーは、また天国に戻った後は、どんな選択をするのだろう。
 もう一度、地球に行こうとするのか、天国でのんびり暮らしてゆくか。


(…さてな…?)
 こればっかりは、俺には分からん、とコーヒーのカップを傾ける。
 いくらブルーのことが好きでも、自分は「ブルー」ではないのだから。
 ブルーが何を考えているか、どう望むのかは、ブルー自身にしか分からない。
(…心を読むのとは、別問題で…)
 あいつにしか分かりはしないしな、と思うけれども、ブルーが選んだ道ならば…。
(俺は一緒について行くだけで、ずっと一緒だ)
 さっきも考えていた通りにな、と迷いなどは無い。
 ブルーが、また地球に生まれたいなら、自分も地球に生まれて来る。
 のんびり天国暮らしをするなら、ブルーと一緒にのんびり暮らす。
(…あいつが行くなら、何処だって行くさ)
 砂漠の星でも気にしないぞ、と脳裏に描いた、死の星だった地球。
 「ああいう星でも、行ってやるさ」と、「あいつが行きたいと言うんならな」と。
(…今の時代じゃ、あんな星なんか…)
 何処にも無いと思うんだがな、と分かるけれども、ブルーが「次」を決める所は…。
(天国って所で、此処とは違って…)
 ありとあらゆる様々な世界、それを見渡せる場所かもしれない。
 平和などとは縁遠い星や、前の自分たちが生きていた頃の世界みたいに…。
(…迫害されて、片っ端から殺されていく人間たちが…)
 いる世界だって、もしかしたら、今もあるかもしれない。
 全く違った別の世界なら、それも有り得る。
 天国という場所から広く見渡せば、目に入る世界の中の一つに。
(あいつが、それを見付けちまったら…)
 行こうとするかもしれないな、と零れた溜息。
 「なにしろ、あいつなんだから」と。
 今は我儘な甘えん坊のチビで、サイオンも不器用な子供であっても、中身は「ブルー」。
 遠く遥かな時の彼方で、「ソルジャー・ブルー」と呼ばれた人。
(…うんと幸せに暮らした後だと…)
 きっと放っておけないだろうな、と容易に分かる。
 「次に選ぶのは、その世界だろう」と。
 恐ろしい世界に生まれ変わって、迫害されている人々を助けようとするのだろう、と。


 平和な青い地球があるのに、のんびり天国にいてもいいのに、違う世界へ行くブルー。
 かつて背負って生きた重荷を、また背負うために。
 苦しむ人々を救って、逃がして、生きられる道へ導くために。
(…そうするために、あいつが行くなら…)
 俺も一緒に行くまでだ、とカップに入ったコーヒーを見詰める。
 「またコーヒーとも、おさらばかもな」と。
 時の彼方で暮らした船には、本物のコーヒーは無かったから。
 キャロブから作った代用品だけ、そんな暮らしが長かったから。
(そうなったとしても、本望ってヤツだ)
 ブルーと一緒に行けるのならな、と後悔しない自信はある。
 「次の人生でも、あいつの側にいられるんなら、コーヒーなんぞは、要りはしないさ」と。
 どうせブルーはコーヒーが苦手、次の生でも同じことだろう。
 それなら、コーヒーなどは無用の長物、代用品さえ無くてもいい。
(次は、ブルーもコーヒーが好きになってりゃ、別なんだがな)
 きっと必死にコーヒーを探す俺がいるさ、と思うくらいに、ブルーのことが、まずは第一。
 わざわざ重荷を背負いに行くなら、なおのこと。
 次は少しでも、重荷を軽くしてやりたい。
 最初から二人で行く世界だから、ブルーが背負うのだろう荷物を…。
(俺が半分、いや、俺の方が身体がデカい分だけ、余計にだ…)
 ブルーの肩から、背中から、ヒョイと取り上げて代わりに背負う。
 「このくらい、俺に任せておけ」と。
 「お前の身体は小さいんだから、無理をするな」と。
 とはいえ、相手は「ブルー」なのだし…。
(そうもいかん、という気もするが…)
 ついでに、俺の能力不足ということも…、と思っても決意は変わりはしない。
 「次こそは、俺が背負ってやる」と。
 ブルーにしか背負えないというのだったら、ブルーを背負う。
 「ブルー」を丸ごと背負ってやったら、重荷も一緒についてくる筈。
 「ハーレイ」の手には余るものでも、ブルーの心の重荷なら…。
(背負えるんだし、そうすりゃいいっていうだけのことだ)
 丸ごと広い背中に背負って、ブルーの辛い人生までをも、自分が背負ってやったなら。


(うん、それでいいな)
 それなら、あいつも辛くないさ、と固めた決心。
 今の平和な、地球での暮らしもいいけれど…。
(あいつが行くなら、前みたいな地獄に逆戻りでも…)
 次こそ、上手く生きてみせる、と一気に飲み干したコーヒーの残り。
 「またコーヒーとは、おさらばでもな」と。
 嗜好品などまるで無くても、ブルーと一緒にいられればいい。
 地獄のような世界でも。
 ブルーが重荷を背負ってゆくなら、それをブルーごと背負ってやって…。



         あいつが行くなら・了


※ブルー君が行くと言うなら、どんな場所でも一緒に行くのがハーレイ先生。砂漠の星でも。
 次の生でブルーが辛い人生を選び取っても、やはり一緒に行くのです。何処までも、二人でv








拍手[0回]

PR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
 管理人のみ閲覧
 
Copyright ©  -- つれづれシャングリラ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]