理不尽だよね
「理不尽だよね…」
ホントのホントに、とブルーがフウと零した溜息。
ハーレイの目の前で、浮かない顔で肩まで落として。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 理不尽って…」
何がだ、とハーレイはテーブルの上を見回した。
少し前に、ブルーの母が運んで来てくれた、午後のお茶。
熱い紅茶がカップに注がれ、ポットにもたっぷり。
ブルーのカップも、ハーレイのカップも、セットの品。
(…紅茶は全く同じだぞ?)
俺だけコーヒーってわけでもないし、とハーレイは悩む。
皿に載せられたケーキにしたって、何処も変わらない。
(お互い、ちょっとは食っちまったから…)
大きさに差が見えるけれども、元は同じな大きさだった。
ハーレイの分だけ大きめだった、ということはない。
なんと言っても、ブルーはケーキや甘いお菓子が大好物。
(たとえ食い切れないにしたって、差があったら、だ…)
機嫌が悪くなるのは確実、だから最初から差はつかない。
ブルーの具合が悪くない限り、いつも大きさは全く同じ。
そういったわけで、見たところ、理不尽な点は無かった。
ブルーが溜息を零す理由も、肩を落としてしまう原因も。
(…弱ったな…)
いったい何が理不尽なんだ、とハーレイには解せない。
ブルーの家に来てからだって、何も起きてはいない筈。
(俺だけ優遇されるようなことは…)
無かったよな、と順に振り返ってみる。
家に着いてブルーの部屋に通され、それから…、と。
午前中に此処で出て来たお茶もお菓子も、ブルーと公平。
昼食は、ブルーの分が少なめだったのだけれど…。
(そいつも、いつもと同じでだな…)
俺と同じな量だった方が理不尽だぞ、とハーレイは思う。
なにしろブルーは食が細くて、少しの量でお腹一杯。
昼食をたっぷり摂ろうものなら、午後のおやつは無理。
(朝飯の時に、お父さんの皿からソーセージを、だ…)
「これも食べろよ」と譲られただけでも苦労するらしい。
たった一本、増えただけなのに。
ハーレイにしてみれば、本当に「たった一本」なのに。
(そんなヤツだし、昼飯は少なくなっていないと…)
逆に困ってしまう筈だが、と謎は深まる。
けれど、昼食の量くらいしか思い付かないものだから…。
「おい。理不尽っていうのは、もしかして、だ…」
昼飯なのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
「俺の方が量が多かったんだが、それなのか?」と。
するとブルーは、「うん…」と小さく頷いた。
「そうなるの、仕方ないけれど…。だってハーレイは…」
ぼくと違って大きいもんね、とブルーは再び溜息をつく。
「大人は身体が大きいんだから、食べられる量も…」と。
「おいおいおい…」
そりゃまあ、俺は大人なんだが、とハーレイは苦笑した。
ブルーの言い分は分かるけれども、指摘したくなる。
「前のお前は…」と、時の彼方でのことを。
「いいか、お前が大人になったところで、大した量は…」
食えんだろうが、とクックッと笑う。
「前のお前も食が細くて、食えなかったぞ」と。
「俺と同じ量の朝飯なんかは、無理だったんだし」と。
そう言ってやると、ブルーは「でも…」と反論して来た。
「それはそうだけど、でも、ハーレイだけ…」
大人だっていうのは、理不尽だよ、と。
こんな差なんかつかなくっても、と頬を膨らませて。
「あのね、ぼくだけチビなんだよ?」
食事も少なくされるくらいの、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイは、とっくに大人なのに」と、睨み付けて。
「どうしてぼくだけ、まだチビなわけ?」と。
(…そこか…!)
理不尽だと言ってやがるのは、とハーレイも溜息をつく。
「またか」と、「キスが出来ない文句を言う気だ」と。
どうせそうなるに決まっているから、先に口を開いた。
「なるほど、お前も前と同じに大人が良かった、と」
そうなんだな、と確認すると、ブルーは大きく頷く。
「決まってるでしょ、その方が、ずっと…!」
いいんだもの、と言うから、ハーレイは笑って返した。
「そうだな、俺も暇になるしな」と。
「学校でまで、お前と顔を合わせもしないし」と。
仕事帰りにまで寄らなくてよくて、週末だけで、とも。
「ちょ、ちょっと…!」
そうなっちゃうの、とブルーが叫ぶから、ニヤリと笑う。
「当然だろうが」と、「お前は上の学校なんだし」と。
「そうそう会ってはいられないぞ」と。
「困るよ、それは…!」
このままでいい、とブルーは悲鳴を上げ続ける。
「それじゃ、結婚するまで、ずっと離れっ放しだよ」と。
「そんなの嫌だ」と、「チビでなくちゃ困る」と…。
理不尽だよね・了
ホントのホントに、とブルーがフウと零した溜息。
ハーレイの目の前で、浮かない顔で肩まで落として。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 理不尽って…」
何がだ、とハーレイはテーブルの上を見回した。
少し前に、ブルーの母が運んで来てくれた、午後のお茶。
熱い紅茶がカップに注がれ、ポットにもたっぷり。
ブルーのカップも、ハーレイのカップも、セットの品。
(…紅茶は全く同じだぞ?)
俺だけコーヒーってわけでもないし、とハーレイは悩む。
皿に載せられたケーキにしたって、何処も変わらない。
(お互い、ちょっとは食っちまったから…)
大きさに差が見えるけれども、元は同じな大きさだった。
ハーレイの分だけ大きめだった、ということはない。
なんと言っても、ブルーはケーキや甘いお菓子が大好物。
(たとえ食い切れないにしたって、差があったら、だ…)
機嫌が悪くなるのは確実、だから最初から差はつかない。
ブルーの具合が悪くない限り、いつも大きさは全く同じ。
そういったわけで、見たところ、理不尽な点は無かった。
ブルーが溜息を零す理由も、肩を落としてしまう原因も。
(…弱ったな…)
いったい何が理不尽なんだ、とハーレイには解せない。
ブルーの家に来てからだって、何も起きてはいない筈。
(俺だけ優遇されるようなことは…)
無かったよな、と順に振り返ってみる。
家に着いてブルーの部屋に通され、それから…、と。
午前中に此処で出て来たお茶もお菓子も、ブルーと公平。
昼食は、ブルーの分が少なめだったのだけれど…。
(そいつも、いつもと同じでだな…)
俺と同じな量だった方が理不尽だぞ、とハーレイは思う。
なにしろブルーは食が細くて、少しの量でお腹一杯。
昼食をたっぷり摂ろうものなら、午後のおやつは無理。
(朝飯の時に、お父さんの皿からソーセージを、だ…)
「これも食べろよ」と譲られただけでも苦労するらしい。
たった一本、増えただけなのに。
ハーレイにしてみれば、本当に「たった一本」なのに。
(そんなヤツだし、昼飯は少なくなっていないと…)
逆に困ってしまう筈だが、と謎は深まる。
けれど、昼食の量くらいしか思い付かないものだから…。
「おい。理不尽っていうのは、もしかして、だ…」
昼飯なのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
「俺の方が量が多かったんだが、それなのか?」と。
するとブルーは、「うん…」と小さく頷いた。
「そうなるの、仕方ないけれど…。だってハーレイは…」
ぼくと違って大きいもんね、とブルーは再び溜息をつく。
「大人は身体が大きいんだから、食べられる量も…」と。
「おいおいおい…」
そりゃまあ、俺は大人なんだが、とハーレイは苦笑した。
ブルーの言い分は分かるけれども、指摘したくなる。
「前のお前は…」と、時の彼方でのことを。
「いいか、お前が大人になったところで、大した量は…」
食えんだろうが、とクックッと笑う。
「前のお前も食が細くて、食えなかったぞ」と。
「俺と同じ量の朝飯なんかは、無理だったんだし」と。
そう言ってやると、ブルーは「でも…」と反論して来た。
「それはそうだけど、でも、ハーレイだけ…」
大人だっていうのは、理不尽だよ、と。
こんな差なんかつかなくっても、と頬を膨らませて。
「あのね、ぼくだけチビなんだよ?」
食事も少なくされるくらいの、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイは、とっくに大人なのに」と、睨み付けて。
「どうしてぼくだけ、まだチビなわけ?」と。
(…そこか…!)
理不尽だと言ってやがるのは、とハーレイも溜息をつく。
「またか」と、「キスが出来ない文句を言う気だ」と。
どうせそうなるに決まっているから、先に口を開いた。
「なるほど、お前も前と同じに大人が良かった、と」
そうなんだな、と確認すると、ブルーは大きく頷く。
「決まってるでしょ、その方が、ずっと…!」
いいんだもの、と言うから、ハーレイは笑って返した。
「そうだな、俺も暇になるしな」と。
「学校でまで、お前と顔を合わせもしないし」と。
仕事帰りにまで寄らなくてよくて、週末だけで、とも。
「ちょ、ちょっと…!」
そうなっちゃうの、とブルーが叫ぶから、ニヤリと笑う。
「当然だろうが」と、「お前は上の学校なんだし」と。
「そうそう会ってはいられないぞ」と。
「困るよ、それは…!」
このままでいい、とブルーは悲鳴を上げ続ける。
「それじゃ、結婚するまで、ずっと離れっ放しだよ」と。
「そんなの嫌だ」と、「チビでなくちゃ困る」と…。
理不尽だよね・了
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