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小人だったなら
(夜、寝てる間に小人が出て来て、ぼくの代わりに…)
 いろんなことをしてくれる、って話があったっけ、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…小人さんの、お手伝い…)
 作りかけだった靴を仕上げたり、掃除をしたり、小人がしてくれる仕事は色々。
 この部屋にも、小人が住んでいたなら…。
(…ぼくの代わりに、何をしてくれるわけ?)
 ぼくは仕事をしていないから、と首を捻った。
 大人ではないから、仕事というものは全く無い。
 あえて言うなら勉強が仕事、今の自分は十四歳の子供に過ぎないから。
(でも、勉強は…)
 自分でやらないと身につかないし、小人に任せるわけにはいかない。
 宿題を代わりにやって貰うなど、言語道断。
 もっとも、その前に、自分の場合は…。
(夏休みとかの宿題だって、早めにやってしまうタイプで…)
 小人の助けが必要なほどに、溜め込むような子供ではない。
 つまり、小人がこの部屋に住んでいたって…。
(小人のお仕事、何も無いよね?)
 ちょっぴり残念、とガッカリと床に視線を落として、其処に見付けた小人の仕事。
 何かを床に落っことした時、拾える場所ならいいけれど…。
(ベッドの下とかに入ってしまって…)
 うんと奥の方に行ってしまったら、チビの自分の手は届かない。
 物差しを使って、精一杯に手を伸ばしたって、駄目な時にはどうしようもないから…。
(夜の間に、小人に拾って来て貰ったら…)
 いいわけだよね、と大きく頷く。
 今までにも、何度も代わりに拾って貰った、自分では取れなくなったもの。
 ハーレイに拾って貰ったことも、何度かあって…。


(…ハーレイ…?)
 もしも、ハーレイが小人だったら、とポンと頭に浮かんだ考え。
 今のハーレイは、小人などではないけれど…。
(神様だったら、そういうことも…)
 出来ちゃうよね、と閃いた。
 聖痕をくれて、ハーレイを生まれ変わらせてくれた凄い神様。
 青く蘇った水の星の上に、二人揃って連れて来てくれた力の持ち主。
(だったら、ハーレイを小人にするのも…)
 きっと簡単なんだから、と自信を持って言い切れる。
 「神様だったら、出来る筈だよ」と。
 チビの子供に生まれ変わった自分の部屋に、小人のハーレイを連れて来ることだって、と。
(小人だったなら、今のハーレイとは違うよね?)
 そもそも小人なんだから、と素敵な思い付きを追い掛けてみることにした。
 どんな出会いになるのだろうかと、二人の日々はどうなるのか、と。
(えーっと…?)
 小人のハーレイには、今のハーレイのような家族はいないのだろう。
 前のハーレイが小さくなって、そのまま部屋に現れる。
 それが一番、自然な形になるだろうから。
(小人の家族を作るよりかは、ハーレイだけを…)
 小人の姿に生まれ変わらせる方が、神様も楽に違いない。
 燃え上がる地球の深い地の底、其処で命尽きたという、前のハーレイ。
 その魂をそっと拾って、新しく与える小人の身体。
 ただし、記憶はそのままで。
 見た目もキャプテン・ハーレイそのまま、何処も全く変わることなく。
(最初から大人で、前の命の続きを新しく貰ったハーレイ…)
 そういう小人のハーレイなんだよ、と決めた設定。
 キャプテンの制服を着込んだ小人で、「前のハーレイが小さくなっただけ」と。
 そんなハーレイが、この部屋にやって来るのなら…。
(ぼくが寝ている間じゃないよね?)
 再会出来ないと駄目なんだもの、と眺め回した自分の部屋。
 「小人のハーレイが最初に現れる場所は、何処がいいかな?」と。


 前のハーレイの記憶を持った、小人のハーレイ。
 キャプテン・ハーレイの姿で出て来て、「ブルー!」と呼んでくれるのだろう。
 現れる場所は、読書をしている机の上が良さそうな感じ。
 読書中だし、勉強の邪魔にはならない時間。
 しかも机の上だったならば、床と違って、知らずに踏んでしまう心配などは要らないから。
 小人だから、声は小さいけれども、呼び掛ける声は、ちゃんと耳まで届く筈。
 ハーレイの声を聞いた瞬間、チビの自分の記憶が戻って来るのだと思う。
 聖痕の代わりに、ハーレイの声が切っ掛けになって。
 遠く遥かな時の彼方で、恋をしていた人の懐かしい声で。
(…それもいいかも…)
 聖痕と違って痛くないし、とキュッと握った小さな右手。
 前の生の終わりに冷たく凍えた、悲しい思い出を秘めた手なのだけれど…。
(小人のハーレイが、来てくれたなら…)
 メギドのことなんか、どうでもいいや、という気がする。
 ハーレイと再び出会えたのなら、もうそれだけで充分だろう。
 たとえハーレイが小人だろうが、今の自分が十四歳の子供だろうが。
(…小人だったなら、恋は出来ても…)
 キスは無理そう、と苦笑する。
 なにしろハーレイは小さすぎるし、再会のキスも出来そうにない。
 会えて、どれほど嬉しくても。
 小人のハーレイを手のひらに乗せて、「会いたかったよ」と顔の側まで持って来たって。
(…キスは駄目だ、って叱られなくても…)
 とても小さいハーレイだしね、とハーレイのサイズを考えてみる。
 手伝いをしてくれる小人のサイズは、どのくらいだろう、と絵本なんかを思い出して。
(……ぼくの親指くらいかな?)
 十四歳の子供の手だから、もう少しくらい大きいだろうか。
 手のひらに乗せるには、多分、そのサイズが一番、お似合い。
 小さすぎもせず、大きすぎもしない、親指より少し大きいハーレイ。
 キャプテンの制服を着込んでいたって、小さな小人。
 けれど誰よりも愛していた人、小人になっても愛おしい人。
 キスも出来ないサイズになっても、手のひらに乗っかる恋人でも。


(…ぼくの手のひらに、小人のハーレイ…)
 再会したなら、手のひらに乗っけて、懐かしみながら眺め回すことになるだろう。
 「うんと小さいけど、ハーレイなんだ」と。
 「また会えるなんて思わなかった」と、「絆は切れていなかったんだ」と。
(……きっと、泣いちゃう……)
 瞳から涙がポロポロ零れて、止まらなくなってしまいそう。
 メギドで泣いた時とは違って、嬉しくて、懐かしくて、幸せ過ぎて。
(ぼくが泣いてたら、小人のハーレイが…)
 どうしたんです、と優しく尋ねてくれるだろうから、ますます止まらない涙。
 「ホントに本物のハーレイなんだ」と、心が一杯になってしまって。
(…メギドで、キースに撃たれちゃったこと…)
 ハーレイを心配させたくなくても、話さずには、きっといられない。
 今の自分はチビの子供で、前の自分とは違うから。
 何もかも胸に秘めておくには、あまりにも幼すぎるから。
(……ぼくの右手、凍えちゃったんだよ、って……)
 打ち明けたならば、小人のハーレイは怒り心頭、キースを憎むだろうけれど…。
(キース、何処にもいないしね?)
 だから安心、とホッと息をつく。
 もしもキースが、今の時代に、何処かに生まれていたならば…。
(小人のハーレイ、仇を討ちに行きそうだから…)
 うんと怒って、と可笑しくなる。
 今は平和な時代なのだし、仇を討ちに出掛けたところで、キースを殺しはしない筈。
 日頃、今のハーレイが言っているように、一発、お見舞いする程度。
(でも、小人だから…)
 渾身の一撃をお見舞いしたって、キースには堪えないだろう。
 虫に刺された程度くらいの、小人のハーレイに殴られたダメージ。
 顔の真ん中に食らったとしても、ちょっぴり赤くなるだけで。
 ガツンと鈍い音もしなくて、せいぜい「パチン」か「ピシャン」くらいで。
(…キースがいたなら、面白いかもね?)
 そういうのも、楽しそうだから、と思うけれども、キースはいない。
 小人のハーレイがキースを殴りたくても、今の世界の、何処を探しても。


 キースを一発殴りたいのに、殴れないのが小人のハーレイ。
 そうする代わりに、右手を温めてくれるのだろう。
 小人の手だから、ギュッと握って包み込むことは出来なくても。
 右手をすっぽり包みたくても、自分の身体が親指サイズのハーレイでも。
(手のひらの上で、せっせと擦ってくれそうな感じ…)
 小さな両手で、マッサージして。
 「少し温かくなりましたか?」と、「一番冷たい所は、何処です?」と。
(…ハーレイ、汗だくになっちゃいそう…)
 ぼくの右手は大きいものね、と右手を広げて眺めてみる。
 小人には、とても大きそうだと、「ハーレイを乗っけられるくらいだもの」と。
 それほど大きな右手の持ち主、けれどもチビで幼い子供。
 前の生の終わりに凍えた右手は、やっぱりハーレイに温めて欲しい。
 ハーレイが小人になっていたって、小さな身体でマッサージくらいしか出来なくても。
(…うんと甘えん坊な、ぼく…)
 だけどハーレイなんだもの、と欲張りな気持ちは止められない。
 メギドのことも話してしまうし、右手が凍えたことも喋ってしまう。
 前の生から愛した人には、どうしても甘えてしまうから。
 ソルジャー・ブルーだった頃のようには、今の自分は振る舞えないから。
(…そうだ、ハーレイの敬語…!)
 それは直させなくっちゃね、と気が付いた点。
 いくらキャプテンの制服姿で、前のハーレイの命の続きを生きていたって…。
(小人のハーレイは、新しく生まれて来たんだから…)
 新しい命と身体を持っているのだし、敬語は直すべきだと思う。
 チビの自分は、「ソルジャー・ブルー」ではないのだから。
 敬語を使って話す必要など、欠片もありはしない今。
 ハーレイが敬語で話し掛けたら、「違うよ」と、即座に直さなければ。
 小人のハーレイが使う言葉が、今のハーレイのようになるまで。
 自分のことを「俺」と言うようになって、「ブルー」を「お前」と呼び始めるまで。
 でないと、きっと嬉しさ、半減。
 敬語を話すハーレイのままでは、お手伝いの小人と変わらないから。


(…お手伝いをしてくれる小人だったら、敬語でも…)
 いいんだけどね、と思う反面、小人のハーレイと暮らすのならば…。
(…お手伝いだって、してくれるよね?)
 落っことした物を拾うだけでも、とベッドの下を覗いてみる。
 小人のハーレイがヒョイと入って、「ほら」と渡してくれる鉛筆や消しゴム。
 「けっこう重いな」と、「今の俺には、これでも充分、重労働だ」と笑いながら。
(…もっと身体を鍛えないと、ってトレーニングとかするのかな?)
 この部屋の中を走り回ったり、あちこち、登って下りたりして。
 落とし物を軽々と拾えるようにと、身体を鍛える姿が目に浮かぶよう。
 今も昔も、ハーレイは、とても努力家だから。
(…そうやって鍛えた身体を使って、本のページも…)
 ぼくの代わりに捲ってくれそう、と広がる想像の翼。
 灯りなどを点けるスイッチの類も、小人のハーレイに頼んだならば…。
(お安い御用だ、って小さな身体で…)
 点けたり、消したり、お手伝いしてくれると思う。
 「俺のブルーのためなんだしな」と、小人に出来ることなら、何でも。
(…それも楽しそう…)
 唇にキスは貰えないけど、と夢を見たくなる、小人になったハーレイとの日々。
 「もしもハーレイが小人だったなら、こんな風かな?」と。
 「小人でも、きっと幸せだよ」と、「小人でも、ハーレイはハーレイだもの」と…。



           小人だったなら・了


※再会したハーレイが小人だったなら、と想像してみたブルー君。親指サイズのハーレイ。
 キスも出来ない恋人ですけど、それはそれで幸せな日々になりそう。ハーレイは、ハーレイv










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