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小人だったら
(寝ている間に、小人がだな…)
 色々なことをやってくれるって話があるんだよな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(生憎と俺は、小人の手助けが必要なほどには…)
 仕事を溜め込みはしないんだがな、と苦笑しながら、机の上を眺め回した。
 「片付けの必要も無さそうだぞ」と。
 ブルーに貰った白い羽根ペン、夏休みにブルーと一緒に写した写真。
 本なども置いてあるのだけれども、雑然としてはいない其処。
 たとえ小人がやって来たって、片付けて貰う物などは無い。
 書斎に並んだ本にしたって、整理してあるものだから…。
(小人の用事は、何も無いなあ…)
 他の部屋でも同じことだな、と考えてみるリビングやダイニング。
 それにキッチン、何処にも小人の出番などは無い。
 家事も雑事も、日頃からマメにやっているものだから。
(…こんな家には、小人なんかは…)
 来てくれないな、と改めて見渡していたら、ポンと頭に浮かんだこと。
 「あいつだったら?」と。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が恋をした人。
 今ではチビに生まれ変わって、同じ町に住んでいるのだけれど…。
(…前のあいつが、生まれ変わって来る代わりにだな…)
 小人になって現れたなら、と思い付いた「もしも」。
 再会出来ることは間違いないから、そういう出会いもアリかもしれない。
 神様の粋な計らいなのか、遊び心かは知らないけれど。
(……小人の、あいつなあ……)
 そいつも、ちょいといいかもしれん、と顎に当てた手。
 前のブルーは、強大なサイオンを誇っていたから、小さな小人になったって…。
(充分、手伝いが出来そうじゃないか)
 サイオンでやればいいんだからな、と考える。
 「小人のブルーが、俺の目の前に現れるってのも、素敵じゃないか」と。


 手伝いをしてくれる小人というのは、本来、姿を見せないもの。
 家の持ち主が眠っている間に、様々なことを手伝ってくれて、姿を消す。
 だから、手伝って貰った人間の方は、目が覚めてから…。
(昨夜は有難うございました、と…)
 お礼の品物を置いておくわけで、それも知らない間に消える。
 小人はコッソリ持って帰って、姿を見せたりしないから。
(…しかし、あいつが小人になるなら…)
 神様が巡り会わせてくれるわけだし、事情は全く違ってくる。
 小人のブルーは、最初から姿を見せるのだろう。
 ある日、いきなり、この書斎にでも。
 懐かしい声で、「ハーレイ?」と呼び掛けて。
 「ただいま」と、「ちゃんと帰って来たよ」と。
(…途端に、俺の記憶も戻って…)
 小人の正体も、時の彼方で恋をしたことも、何もかも思い出すのだろう。
 「俺のブルーが帰って来た」と。
 とても小さくなったけれども、「俺のブルーだ」と。
(小人だからなあ…)
 今のあいつどころじゃないチビだよな、と鳶色の瞳を瞬かせる。
 小人になってしまったブルーは、どのくらいのサイズなのだろう、と。
(俺の手のひらに乗るくらいなのか、もっと小さいか…)
 親指サイズじゃ小さすぎだぞ、と思いはしても、そう大きくもなさそうなブルー。
 なんと言っても小人なのだし、やはり親指くらいだろうか。
(…俺の親指サイズなら…)
 こんなものか、と右手を軽く開いて、「よし」と大きく頷いた。
 親指サイズのブルーだったら、手のひらに丁度いい具合。
 チョコンと座らせてやるにしたって、乗っけて移動するにしたって。
(うん、そのくらいのブルーってことで…)
 考えてみるか、と想像の翼を広げてゆく。
 小人になってしまったブルーと、どんな暮らしが始まるか。
 どういう日々が待っているのか、この思い付きを追ってみよう、と。


(…あいつのことだし、小人になって現れたって…)
 メギドで何が起こったのかは、きっと話しはしないだろう。
 「もういいだろう?」と、「ぼくは帰って来たんだから」と言うだけで。
 何もかも自分の胸に隠して、ニッコリ笑うに違いない。
 「ぼくは充分、幸せだから」と。
 「ちゃんとハーレイに会えたんだから」と、「それに地球にも来られたしね」と。
(…そう言われたら、俺も聞くわけにはいかないし…)
 メギドのことは、それっきり。
 「また会えたのだし、それだけでいい」と。
(でもって、あいつの寿命もだな…)
 小人の姿になった時点で、新しく貰った命なのだし、尽きたりはしない。
 前のブルーの姿のままでも、「ハーレイ」と一緒に生きてゆける命。
 先に燃え尽きてしまいはしないで、「ハーレイ」の命が終わる時まで。
(…ちと、小さすぎて…)
 キスをするのも難しいんだが、と思うけれども、それでも嬉しい。
 ブルーが戻って来たのだから。
 今度こそ一緒に生きてゆけるし、住んでいる場所も、青く蘇った地球の上。
 時の彼方で前のブルーと描いた幾つもの夢を、二人で叶えてゆくことが出来る。
 「いつか地球まで辿り着いたら」と、青い水の星に託した夢を。
(…なんたって、此処は地球なんだしな?)
 いくらでも夢は叶えられるさ、と自信はたっぷり。
 チビの子供になったブルーとも、沢山、約束しているけれど…。
(前のあいつが、小人になって現れるんなら…)
 待ち時間などは必要無い。
 チビのブルーに、「お前が大きく育ったらな」としか言えないのとは違う。
 最初から二人で暮らしてゆけるだけでも、大きな違い。
 小人のブルーなら、そのまま家に住み付けるから。
 結婚式を挙げていなくても、現れた日から、何の支障も無く。
 家の持ち主で恋人の「ハーレイ」、つまり「自分」が許可すればいい。
 「今日から、此処で暮らすんだろう?」と、「俺の家だし」と。


 もちろんブルーも、現れた時から、そのつもりだろう。
 「ハーレイの家で暮らしてゆこう」と、「地球で暮らせる」と。
 だから意見は一致しているし、ブルーが住む家は「ハーレイの家」。
(姿を見せずに暮らすんじゃなくて…)
 真昼間でも、小人のブルーは気にしない。
 来客があれば別だけれども、そうでない時は、姿を隠しはしない。
(そして、サイオンで…)
 俺の手伝いをするんだよな、と思ったけれども、それに関しては如何なものか。
 手伝うことが無いというのも、問題の一つではあるけれど…。
(…前のあいつは、裁縫の腕はからっきしで…)
 ボタンの一つも満足につけられはしなかった。
 キャプテンの制服の袖を直そうとして、直す前よりも酷くなったほど。
(それが可笑しくて、スカボローフェアを教えてやったら…)
 前のブルーはサイオンを使って、歌に出て来る無理難題をやり遂げた。
 「縫い目も針跡も無い、亜麻のシャツ」を作って、誇らしげに持って来たブルー。
 もっとも、難題は果たせたものの…。
(あのシャツ、着られなかったんだよなあ…)
 サイズぴったりの亜麻のシャツじゃな、とクックッと笑う。
 ボタンもファスナーも無かったシャツでは、頭から被って着るしかない。
 なのに、そのための「余裕」が無かった、奇跡のシャツ。
 被ろうとしたら、ビリビリと破れてしまうしかない、身体にぴったり過ぎたシャツ。
(…ああいうヤツだし、俺の手伝いは…)
 まるっきり期待出来そうにない、と天井を仰ぐ。
 サイオンで出来そうな手伝いと言えば…。
(…米も研げないし、包丁をサイオンで使われても…)
 なんだかなあ、と思うものだから、卵を割って貰うくらいだろうか。
 朝、オムレツをこしらえる前に、「ちょっと頼む」と。
 「卵を割っておいてくれるか」と、「今日は二個だな」と。
(……その程度だな)
 まあ、いいんだが、とマグカップを指でカチンと弾く。
 小人の手伝いは要らない家だし、特に何かをしてくれなくても、と。


(そもそも、あいつがいてくれるだけで…)
 俺は充分に幸せなんだ、と「小人のブルー」との暮らしを追ってゆく。
 ブルーに手伝いをして貰うよりは、自分がブルーの役に立ちたい方だよな、と。
(小人なんだし、いくらサイオンが使えても…)
 この家で暮らしてゆこうとしたなら、前の生のようにはいかないだろう。
 「ハーレイ」のサイズに合わせて出来ている家は、小人のブルーには大きすぎるから。
 階段の上り下りにしたって、「えいっ!」と飛ばないと、一段さえも…。
(上れないよな、親指サイズじゃ…)
 ちと愉快だが、と階段を上ろうと頑張るブルーを想像してみる。
 サイオンを使って飛べばいいのに、断崖を登る登山家みたいに、ロープをかけているブルー。
(…でなきゃ、小さな箱でも積んで…)
 せっせと上っていくのだろうか、「やっと一段、上ることが出来た」と、二階に向けて。
 一段、上に上がることが出来たら、ロープや箱を引き上げながら。
(大仕事だよな、二階まで行くというだけで)
 それでも頑張って上りそうだ、と「前のブルー」の頑固さを思う。
 こうと決めたら、けして譲らなかったから。
 そのせいでメギドに行ってしまって、二度と戻りはしなかったから。
(だが、それは…)
 分かっちゃいるんだが、今度は俺が手助けするんだ、と思う「小人のブルー」との暮らし。
 ブルーが「一人で出来る」と言っても、手伝えることは手助わなくては。
(階段を一人で上ってる所を俺が見たなら、ヒョイと掴んで…)
 手のひらに乗せて、スタスタと二階へ上ってゆく。
 ブルーが使っていたロープや箱も、「置いておいたら、踏んじまうしな?」と一緒に持って。
 「お前は頑張らなくていいんだ」と、「今度は俺に頼ってくれ」と。
 帰って来てくれた愛おしい人に、二度と苦労をさせたくはない。
 どんな些細なことであろうと、ブルーに頑張らせるよりは…。
(俺が代わりに、あれこれやって…)
 あいつに楽をさせてやるさ、とコーヒーのカップを傾ける。
 「小人なんだし、何も頑張らなくてもな?」と。
 「俺の家には、小人の手伝いは要らないんだから」と。


 小人のブルーと暮らしてゆくなら、ブルーにも幸せでいて欲しい。
 青い地球の上をあちこち旅して、見せてやるのもいいけれど…。
(まずは、あいつの夢の朝食…)
 そいつを、うんと豪華にやるか、と広がる夢。
 前のブルーが夢見た朝食、本物の砂糖カエデから採れたメープルシロップと…。
(地球の草を食んで育った牛のミルクで作った、美味いバターと…)
 それを添えて食べるホットケーキが、前のブルーが地球に描いていた夢の一つ。
(小人のブルーじゃ、普通サイズのホットケーキでも…)
 ベッドよりデカいサイズだからな、と浮かぶ笑み。
 「帰って来たブルーが小人だったら、豪華なベッドをプレゼントだ」と。
 ホットケーキのベッドに転がり、好きなだけ食べてくれればいい。
 「食べ切れないよ」と言うだろうけれど、毎朝だってプレゼントする。
 ブルーと暮らしてゆけるのならば、もうそれだけで幸せだから。
 小人の姿で、キスさえ難しいようなブルーでも、いてくれるだけで充分だから…。



            小人だったら・了


※戻って来たブルーが小人だったら、と考えてみるハーレイ先生。ブルー君より小さな小人。
 キスをするのも難しいくらいに小さいですけど、それでも一緒に暮らせたら、幸せv








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