技を磨くのは
「ねえ、ハーレイ。技を磨くのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
いきなり何だ、とハーレイは目を丸くした。
急に聞かれたのも原因だけれど、それ以上に驚かされた点。
「技を磨く」という言葉。
向かいに座った、十四歳にしかならないブルーとは…。
(あまりにも、結び付かないんだが…!)
まるで全く、と心の中が「?」マークで溢れ返っている。
どう転がったら、ブルーが技を磨こうだなとど思うのか。
磨く必要など思い付かないし、第一、技というもの自体…。
(こいつには無いと思うんだがな?)
前のあいつなら、ともかくとして…、とブルーを見詰めた。
サイオンが不器用な今のブルーに、技があるとは思えない。
身体も弱いし、磨くような技を身につけるのも…。
(およそ無理だった筈なんだが…?)
それとも他の技なのだろうか、体力ではなくて手先とか。
書道の腕前が群を抜くとか、楽器の演奏が上手いとか。
(…そっちなのか?)
考えたことも無かったんだが、と思いながらも問い返した。
「技というのは、身につけている技のことか?」と。
するとブルーは、コクリと大きく頷いた。
「そうだけど…。ハーレイだったら、柔道かな?」
水泳の方もそうかもだけど、とブルーは真剣な瞳で答える。
「そういう技って、磨いていくのが大切だよね?」と。
「ああ、まあ…。それは基本というヤツだよな」
技ってヤツは磨いてこそだ、とハーレイも頷く。
「そいつは、とても大事なことだ」と、大真面目な顔で。
柔道にしても水泳にしても、技は磨いてゆかねばならない。
自分自身を鍛えて、磨いて、上を目指してゆく努力が大切。
「もう、このくらいでいいだろう」では、上には行けない。
行けないどころか、努力をしなくなった途端に…。
(坂を転がり落ちるみたいに、アッと言う間に…)
技は錆び付き、それまでの積み重ねが台無しになる。
だから毎日、せっせと磨いてゆかなくては。
技そのものは繰り出さなくても、土台になっているものを。
長年、柔道と水泳を続けて、部活の指導などもして来た。
その経験を踏まえた上で、ハーレイはブルーに教えてやる。
「いいか、お前が言った通りで、技というのは…」
磨かないと駄目になっちまうんだ、と自分の腕を指差して。
「この腕だって、磨いてやらないと、なまっちまう」と。
「柔道だけじゃなくて、水泳も同じ?」
プールには入っていないでしょ、とブルーは首を傾げた。
「水泳の腕、なまってしまわない?」と。
「そっちの方なら、心配無用だ」
泳がないと駄目ってわけでもない、とハーレイは笑う。
「たまに泳いでやればいいのさ」と、片目を瞑って。
「勘が鈍ってしまわないように、ちゃんと泳いでるぞ」
ジムに出掛けて…、と自慢の腕をポンと叩いてみせる。
「普段、きちんと鍛えているから、出来ることだな」と。
ブルーは「そうなんだ…」と、尊敬の眼差しになった。
「凄いね」と、「それが技を磨くってことなんだ」と。
「そうだぞ、日々の鍛錬ってヤツが大切だ」
どんな技でも磨かないと錆びてしまうしな、と笑んでやる。
「だから、お前も努力しろよ」と、ブルーに向かって。
「お前も技を持っているなら、磨いてこそだ」と。
「ありがとう。ハーレイも、努力してるんだよね?」
毎日、身体を鍛えたりして…、とブルーは瞳を輝かせる。
「だったら、ぼくも頑張らないと」と、嬉しそうに。
「ほほう…。その顔付きだと、お前にも、何か…」
技ってヤツがあるんだな、とハーレイは興味津々で訊いた。
「どんな技だ?」と、「是非とも教えて欲しいもんだ」と。
書道か、はたまた楽器なのかと、ワクワクと心を躍らせて。
ブルーの技は何だろうか、と楽しみに答えを待ったのに…。
「えっとね、ぼくの技なんだけど、磨いてないから…」
錆び付いちゃいそう、とブルーは顔を曇らせて言った。
「このままじゃ、駄目になっちゃうよ」と俯いて。
「そいつはいかんな。此処でサボっていないで、だ…」
早速、磨く努力をしろ、とハーレイは叱咤激励した。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイも協力してよ?」
ぼくのキスが下手にならないように、と微笑んだブルー。
「直ぐに練習を始めるから」と、立って、近付いて来て。
「馬鹿野郎!」
そんな技は錆びたままでいいんだ、とハーレイが握った拳。
ブルーの頭を、軽くコツンとやるために。
「今のお前の技じゃないだろ」と、「放っておけ」と…。
技を磨くのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
いきなり何だ、とハーレイは目を丸くした。
急に聞かれたのも原因だけれど、それ以上に驚かされた点。
「技を磨く」という言葉。
向かいに座った、十四歳にしかならないブルーとは…。
(あまりにも、結び付かないんだが…!)
まるで全く、と心の中が「?」マークで溢れ返っている。
どう転がったら、ブルーが技を磨こうだなとど思うのか。
磨く必要など思い付かないし、第一、技というもの自体…。
(こいつには無いと思うんだがな?)
前のあいつなら、ともかくとして…、とブルーを見詰めた。
サイオンが不器用な今のブルーに、技があるとは思えない。
身体も弱いし、磨くような技を身につけるのも…。
(およそ無理だった筈なんだが…?)
それとも他の技なのだろうか、体力ではなくて手先とか。
書道の腕前が群を抜くとか、楽器の演奏が上手いとか。
(…そっちなのか?)
考えたことも無かったんだが、と思いながらも問い返した。
「技というのは、身につけている技のことか?」と。
するとブルーは、コクリと大きく頷いた。
「そうだけど…。ハーレイだったら、柔道かな?」
水泳の方もそうかもだけど、とブルーは真剣な瞳で答える。
「そういう技って、磨いていくのが大切だよね?」と。
「ああ、まあ…。それは基本というヤツだよな」
技ってヤツは磨いてこそだ、とハーレイも頷く。
「そいつは、とても大事なことだ」と、大真面目な顔で。
柔道にしても水泳にしても、技は磨いてゆかねばならない。
自分自身を鍛えて、磨いて、上を目指してゆく努力が大切。
「もう、このくらいでいいだろう」では、上には行けない。
行けないどころか、努力をしなくなった途端に…。
(坂を転がり落ちるみたいに、アッと言う間に…)
技は錆び付き、それまでの積み重ねが台無しになる。
だから毎日、せっせと磨いてゆかなくては。
技そのものは繰り出さなくても、土台になっているものを。
長年、柔道と水泳を続けて、部活の指導などもして来た。
その経験を踏まえた上で、ハーレイはブルーに教えてやる。
「いいか、お前が言った通りで、技というのは…」
磨かないと駄目になっちまうんだ、と自分の腕を指差して。
「この腕だって、磨いてやらないと、なまっちまう」と。
「柔道だけじゃなくて、水泳も同じ?」
プールには入っていないでしょ、とブルーは首を傾げた。
「水泳の腕、なまってしまわない?」と。
「そっちの方なら、心配無用だ」
泳がないと駄目ってわけでもない、とハーレイは笑う。
「たまに泳いでやればいいのさ」と、片目を瞑って。
「勘が鈍ってしまわないように、ちゃんと泳いでるぞ」
ジムに出掛けて…、と自慢の腕をポンと叩いてみせる。
「普段、きちんと鍛えているから、出来ることだな」と。
ブルーは「そうなんだ…」と、尊敬の眼差しになった。
「凄いね」と、「それが技を磨くってことなんだ」と。
「そうだぞ、日々の鍛錬ってヤツが大切だ」
どんな技でも磨かないと錆びてしまうしな、と笑んでやる。
「だから、お前も努力しろよ」と、ブルーに向かって。
「お前も技を持っているなら、磨いてこそだ」と。
「ありがとう。ハーレイも、努力してるんだよね?」
毎日、身体を鍛えたりして…、とブルーは瞳を輝かせる。
「だったら、ぼくも頑張らないと」と、嬉しそうに。
「ほほう…。その顔付きだと、お前にも、何か…」
技ってヤツがあるんだな、とハーレイは興味津々で訊いた。
「どんな技だ?」と、「是非とも教えて欲しいもんだ」と。
書道か、はたまた楽器なのかと、ワクワクと心を躍らせて。
ブルーの技は何だろうか、と楽しみに答えを待ったのに…。
「えっとね、ぼくの技なんだけど、磨いてないから…」
錆び付いちゃいそう、とブルーは顔を曇らせて言った。
「このままじゃ、駄目になっちゃうよ」と俯いて。
「そいつはいかんな。此処でサボっていないで、だ…」
早速、磨く努力をしろ、とハーレイは叱咤激励した。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイも協力してよ?」
ぼくのキスが下手にならないように、と微笑んだブルー。
「直ぐに練習を始めるから」と、立って、近付いて来て。
「馬鹿野郎!」
そんな技は錆びたままでいいんだ、とハーレイが握った拳。
ブルーの頭を、軽くコツンとやるために。
「今のお前の技じゃないだろ」と、「放っておけ」と…。
技を磨くのは・了
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