魂だけだったなら
(ちゃんと、ハーレイと会えたんだよね…)
今日は会い損なっちゃったけれど、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…学校でも、全然、会えなかったけど…)
でも、ハーレイは、ちゃんといるから、と視線を窓の方へと向けた。
何ブロックも離れた所だけれども、同じこの町に住んでいるハーレイ。
忘れもしない五月の三日に、学校の教室で再会出来た。
時の彼方で「ソルジャー・ブルー」の生を終えた時には、絶望の淵の底だったのに。
もうハーレイには二度と会えないと、「絆が切れてしまったから」と。
(…最後まで持っていたかった、ハーレイの温もり…)
それをキースに撃たれた痛みで失くしてしまって、泣きじゃくりながら死んだ前の自分。
なのに、気付いたら、ハーレイがいた。
前とそっくり同じ姿で、青い地球の上に生まれ変わったハーレイが。
(ぼくの方は、チビになっちゃったけれど…)
やはり同じに前の自分の姿ではある。
ちょっぴりチビだというだけで。
メギドで死んだ時と違って、アルタミラから逃れた頃の姿になってしまっただけで。
(神様が、会わせてくれたんだよね)
もうずっと一緒なんだから、と分かっているから、今日は会えなくても文句は言わない。
二度と会えないと思った恋人、その人が同じ町にいるから。
青い地球の上に二人で生まれて、一緒に生きてゆけるのだから。
(…ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
そして文句を言っちゃうけどね、と肩を竦めて苦笑する。
「仕方ないよね」と、「子供だもの」と。
子供は何かと欲張りなのだし、我慢も出来ないものなんだから、と。
此処にいるのが前の自分なら、文句は言わないことだろう。
ハーレイと再び出会えただけでも、思いがけない幸運だから。
ほんの一日、会えない程度で、頬っぺたを膨らませたりはしない。
(…だって、あっちは大人だものね)
今のぼくとは違うんだよ、と思ったはずみに、気が付いたこと。
「大人だった頃の自分」は、長い間、何処にいたのだろうか、と。
(……今のハーレイ、今のぼくより、二十四歳も年上だから……)
そのハーレイを追い掛けて生まれた自分は、二十四年も待った勘定になる。
青い地球の上に生まれて来る前、母の胎内に宿った時まで。
(…だけど、なんにも覚えてないよ…)
気が付いたら、学校の教室だったし、と自分の記憶が情けない。
生まれて来るより前のことなど、まるで覚えていないから。
(二十四年も待ってたんなら、今のハーレイが育っていくのを…)
側で見ていたかもしれないのにね、と思うけれども、そんな記憶は何処にも無い。
覚えていたなら、今のハーレイと思い出話が出来るのに。
「ハーレイ、ホントに、凄い悪ガキだったよね」と、自分が見ていた光景を。
(…そういうのも、楽しそうなのに…)
ちょっと残念、と思う間に、別の方へと向かった思考。
「身体があるとは限らないんだ」と。
今のハーレイと巡り会えた時、この肉体を持っているとは限らない。
魂だけだった頃の自分が、子供の頃のハーレイを眺めていたかもしれないように…。
(…ハーレイの方が、魂だけだ、ってことも…)
有り得たかもね、と考え付いた。
前の自分は、前のハーレイよりも遥かに年上。
神様が、それを忠実になぞっていたなら、十四歳の、今の自分が出会えるハーレイは…。
(……生まれてなくって、魂だけ……)
そんなハーレイになっちゃうんだ、と大きく頷く。
神様の粋な計らいのお蔭で、逆さになってしまっただけ。
前の生の通りになるのだったら、ハーレイは、「まだまだ、魂だけだよ」と。
もしも、再び出会えたハーレイが、肉体を持っていなかったら。
生まれ変わる前で、魂だけだったなら、どんな出会いになるのだろうか。
(…聖痕なんかは、出ないだろうし…)
ある日、突然、ハーレイが現れるのかもしれない。
魂だけだし、思念体のような姿で、この部屋にでも。
(探しましたよ、って…)
ハーレイに呼び掛けられる声を待たずに、記憶が戻って来るのだと思う。
現れた人が、誰なのか。
どんなに会いたい人だったのかも、会えるとは思っていなかったことも。
(…きっと、涙がポロポロ出ちゃって…)
ハーレイに縋り付きたくなるだろうけれど、生憎と、魂だけだから…。
(すり抜けちゃって、触れなくって…)
懐かしい声も、耳で聞き取ることは出来ない。
今の生では、もう補聴器は要らないのに。
自分の鼓膜で、ハーレイの声を受け止めることが出来るのに。
(…残念だけど…)
うんとサイオンが不器用な自分が、「ハーレイ」の姿を見られるだけでも奇跡だろう。
思念の声を聞き取れることも、神様に感謝しなくては。
(…前のぼくなら、そんなの、朝飯前なんだけどね…)
今のぼくだと、ホントに不器用なんだから、と可笑しくなる。
「きっと、ハーレイも笑うよね」と。
不器用になってしまった恋人、それが「ソルジャー・ブルー」だなんて、と。
(…だけど、笑われちゃったって…)
会えただけで幸せなんだから、と「ハーレイ」との再会に思いを馳せる。
「魂だけでも、嬉しいよね」と。
ハーレイは、どんな姿だろうかと、「やっぱり、キャプテンの制服だよね?」と。
(…だって、ハーレイ、生まれ変わっていないんだから…)
今の時代の服を着ているわけがない。
キャプテンだった頃と全く同じに、濃い緑色だったマントまで着けて。
ついでに、言葉遣いの方も、当時と変わっていないのだろう。
(敬語のままで、きっとソルジャー・ブルー向け…)
なんだか色々と違うみたい、と思う新鮮な出会い。
今の自分が教室で再会した「ハーレイ」とは違うようだと、「面白いかも」と。
十四歳にしかならないチビに向かって、律義に敬語で話すハーレイ。
「あちこち探したのですよ」と、「会えて良かった」と。
前のハーレイは、ずっと敬語を使っていたから、その通りに。
(…敬語で話さなくていいよ、って言ったって…)
そう簡単には直りそうにもない敬語。
いくら相手がチビになっても、十四歳の子供でも。
(なんだか、くすぐったい感じ…)
ハーレイの方が、うんと年上なのに、と魂の年齢を数えてみる。
時の彼方での年に加えて、今の時代までの長い長い時間。
それを加えた分まであるのに、チビに敬語で話さなくても、と。
(だけど、ハーレイなんだしね?)
直らないかも、とクスクス笑った。
「いつまで経っても、敬語で話し続けるんだよ」と、「習慣になっていますから、って」と。
(…敬語で喋って、キャプテンの服で…)
そういうハーレイが側にいる日々。
魂だけの姿なのだし、他の人には見えないけれど。
(…何処に行くのも、ハーレイと一緒…)
学校にだって、魂だけのハーレイと一緒に出掛けてゆく。
家からバス停までを歩いて、路線バスに二人で乗り込んで。
(バスの中でも、思念でお喋り…)
ハーレイとなら大丈夫、と自分の思念の不器用さは心配していない。
魂だけのハーレイだったら、ちゃんと「ブルー」の思念を捉えてくれるだろう。
不器用になったブルーにも届く、思念を紡いでくれるのだから。
(初めて学校に一緒に行く日は、ガイドさんみたいになっちゃいそう!)
あそこに見える建物はね、などと説明して。
お店や公園、窓から見えるものを次々、初めて眺めるハーレイに教えて。
そうやって学校に辿り着いても、観光ガイドは続くのだろう。
グラウンドや中庭、今の自分の教室がある校舎など。
(友達に会ったら、お喋り、中断しちゃうけど…)
ハーレイは笑顔で待っていてくれて、授業の間は、まるで参観日の保護者みたいに…。
(教室の一番後ろに立って、授業を眺めてるんだよね?)
今の時代は、どんな授業をしているのかと、興味津々で。
SD体制が無くなった世界で、他の子供と変わらない暮らしをする恋人を。
(ハーレイに、いいトコ、見せなくっちゃ…!)
うんと張り切って、手を挙げて、それから質問だって。
先生に褒めて貰えるように、いつも以上に頑張って。
(…お昼休みになったら、食堂…)
友達と出掛けてゆくのだけれども、ハーレイも一緒。
ランチプレートは、前の自分たちの頃のと、大して変わっていないから…。
(ぼく、食堂では、注文したことないけれど…)
注文するなら、うどんか蕎麦か、ラーメンだろうか。
どれも、ハーレイは知らないから。
前の自分たちが生きた時代は、麺と言ったら、パスタだったから。
(…どうせだったら、天麩羅うどん?)
天麩羅も無かった時代だもんね、と遥かな時の彼方を思う。
多様な文化を消してしまった、機械が統治していた世界。
(これは、日本のフライなんだよ、って…)
元は厨房出身だった、ハーレイに指差して教えてあげたい。
友達に変に思われないよう、注意しながら。
「その内、ママが作るだろうから、作り方は、その時、見るといいよ」と。
(…ハーレイ、それまで我慢出来るかな?)
食堂の厨房を見に行っちゃいそう、と思わないでもない。
研究熱心なキャプテンだったし、厨房時代も、あれこれと試作していたから。
天麩羅の作り方にしたって、知りたくなったら、頑張りそうで。
(…ふふっ…)
魂だけのハーレイでも、充分、幸せだよね、と笑みが零れる。
触れ合えなくても、キスさえ贈って貰えなくても。
(…魂だけだったなら、ぼくにキスしてくれなくっても…)
どうせ元から、触れないんだし…、と納得出来そう。
守護天使みたいに側にいるだけ、そういうハーレイ。
(何処に行くにも、二人一緒で…)
他の人には見えないだけで、ハーレイは側にいてくれる。
どんな時でも、何があっても、恋人の「ブルー」を気遣って。
熱が出て寝込んでしまっていたって、ベッドの側で見守ってくれて。
(……うんと幸せ……)
それでもいいや、と思ったけれど。
ちゃんとハーレイに出会えたのだし、幸せな日々、と考えたけれど…。
(…ちょっと待ってよ?)
ハーレイと再会出来たからには、いずれハーレイも生まれ変わって来るのだろう。
同じ青い地球の上に生まれて、ブルーと暮らしてゆくために。
時の彼方で二人で描いた、幾つもの夢を叶えるために。
(…前のぼくとハーレイの年の差の分、時が過ぎたら…)
ハーレイは微笑んで、お別れを告げに来ることになる。
「少し待っていて下さいね」と。
「もうすぐ、生まれ変わりますから」と、「急いで育って、直ぐにあなたを迎えに来ます」と。
(…そう言われたって、直ぐじゃないから…!)
一年や二年じゃないんだから、と背中がたちまち冷たくなる。
「ぼくは何年待てばいいの」と、「独りぼっちになっちゃうじゃない!」と。
(…ハーレイが、ちゃんと育って迎えに来るまで…)
待つなんて、とても出来そうにない。
毎日、寂しくて、泣いて、泣きじゃくって、辛い日々が続くに決まっている。
「戻って来るよ」と分かっていたって、「また会えるから」と、確信していたって。
(…ハーレイが、魂だけだったなら…)
そうなっちゃいそう、と思うものだから、そんな出会いはしたくない。
魂だけのハーレイと出会えば、楽しい日々を送れそうでも。
今より新鮮な出会いだとしても、その後に来るのは、長く待たされる日々なのだから…。
魂だけだったなら・了
※再会したハーレイが魂だけの存在だったら、と想像してみたブルー君。面白いかも、と。
楽しくて幸せそうですけれど、ハーレイが生まれ変わって来るまでが大変。辛すぎますよねv
今日は会い損なっちゃったけれど、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…学校でも、全然、会えなかったけど…)
でも、ハーレイは、ちゃんといるから、と視線を窓の方へと向けた。
何ブロックも離れた所だけれども、同じこの町に住んでいるハーレイ。
忘れもしない五月の三日に、学校の教室で再会出来た。
時の彼方で「ソルジャー・ブルー」の生を終えた時には、絶望の淵の底だったのに。
もうハーレイには二度と会えないと、「絆が切れてしまったから」と。
(…最後まで持っていたかった、ハーレイの温もり…)
それをキースに撃たれた痛みで失くしてしまって、泣きじゃくりながら死んだ前の自分。
なのに、気付いたら、ハーレイがいた。
前とそっくり同じ姿で、青い地球の上に生まれ変わったハーレイが。
(ぼくの方は、チビになっちゃったけれど…)
やはり同じに前の自分の姿ではある。
ちょっぴりチビだというだけで。
メギドで死んだ時と違って、アルタミラから逃れた頃の姿になってしまっただけで。
(神様が、会わせてくれたんだよね)
もうずっと一緒なんだから、と分かっているから、今日は会えなくても文句は言わない。
二度と会えないと思った恋人、その人が同じ町にいるから。
青い地球の上に二人で生まれて、一緒に生きてゆけるのだから。
(…ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
そして文句を言っちゃうけどね、と肩を竦めて苦笑する。
「仕方ないよね」と、「子供だもの」と。
子供は何かと欲張りなのだし、我慢も出来ないものなんだから、と。
此処にいるのが前の自分なら、文句は言わないことだろう。
ハーレイと再び出会えただけでも、思いがけない幸運だから。
ほんの一日、会えない程度で、頬っぺたを膨らませたりはしない。
(…だって、あっちは大人だものね)
今のぼくとは違うんだよ、と思ったはずみに、気が付いたこと。
「大人だった頃の自分」は、長い間、何処にいたのだろうか、と。
(……今のハーレイ、今のぼくより、二十四歳も年上だから……)
そのハーレイを追い掛けて生まれた自分は、二十四年も待った勘定になる。
青い地球の上に生まれて来る前、母の胎内に宿った時まで。
(…だけど、なんにも覚えてないよ…)
気が付いたら、学校の教室だったし、と自分の記憶が情けない。
生まれて来るより前のことなど、まるで覚えていないから。
(二十四年も待ってたんなら、今のハーレイが育っていくのを…)
側で見ていたかもしれないのにね、と思うけれども、そんな記憶は何処にも無い。
覚えていたなら、今のハーレイと思い出話が出来るのに。
「ハーレイ、ホントに、凄い悪ガキだったよね」と、自分が見ていた光景を。
(…そういうのも、楽しそうなのに…)
ちょっと残念、と思う間に、別の方へと向かった思考。
「身体があるとは限らないんだ」と。
今のハーレイと巡り会えた時、この肉体を持っているとは限らない。
魂だけだった頃の自分が、子供の頃のハーレイを眺めていたかもしれないように…。
(…ハーレイの方が、魂だけだ、ってことも…)
有り得たかもね、と考え付いた。
前の自分は、前のハーレイよりも遥かに年上。
神様が、それを忠実になぞっていたなら、十四歳の、今の自分が出会えるハーレイは…。
(……生まれてなくって、魂だけ……)
そんなハーレイになっちゃうんだ、と大きく頷く。
神様の粋な計らいのお蔭で、逆さになってしまっただけ。
前の生の通りになるのだったら、ハーレイは、「まだまだ、魂だけだよ」と。
もしも、再び出会えたハーレイが、肉体を持っていなかったら。
生まれ変わる前で、魂だけだったなら、どんな出会いになるのだろうか。
(…聖痕なんかは、出ないだろうし…)
ある日、突然、ハーレイが現れるのかもしれない。
魂だけだし、思念体のような姿で、この部屋にでも。
(探しましたよ、って…)
ハーレイに呼び掛けられる声を待たずに、記憶が戻って来るのだと思う。
現れた人が、誰なのか。
どんなに会いたい人だったのかも、会えるとは思っていなかったことも。
(…きっと、涙がポロポロ出ちゃって…)
ハーレイに縋り付きたくなるだろうけれど、生憎と、魂だけだから…。
(すり抜けちゃって、触れなくって…)
懐かしい声も、耳で聞き取ることは出来ない。
今の生では、もう補聴器は要らないのに。
自分の鼓膜で、ハーレイの声を受け止めることが出来るのに。
(…残念だけど…)
うんとサイオンが不器用な自分が、「ハーレイ」の姿を見られるだけでも奇跡だろう。
思念の声を聞き取れることも、神様に感謝しなくては。
(…前のぼくなら、そんなの、朝飯前なんだけどね…)
今のぼくだと、ホントに不器用なんだから、と可笑しくなる。
「きっと、ハーレイも笑うよね」と。
不器用になってしまった恋人、それが「ソルジャー・ブルー」だなんて、と。
(…だけど、笑われちゃったって…)
会えただけで幸せなんだから、と「ハーレイ」との再会に思いを馳せる。
「魂だけでも、嬉しいよね」と。
ハーレイは、どんな姿だろうかと、「やっぱり、キャプテンの制服だよね?」と。
(…だって、ハーレイ、生まれ変わっていないんだから…)
今の時代の服を着ているわけがない。
キャプテンだった頃と全く同じに、濃い緑色だったマントまで着けて。
ついでに、言葉遣いの方も、当時と変わっていないのだろう。
(敬語のままで、きっとソルジャー・ブルー向け…)
なんだか色々と違うみたい、と思う新鮮な出会い。
今の自分が教室で再会した「ハーレイ」とは違うようだと、「面白いかも」と。
十四歳にしかならないチビに向かって、律義に敬語で話すハーレイ。
「あちこち探したのですよ」と、「会えて良かった」と。
前のハーレイは、ずっと敬語を使っていたから、その通りに。
(…敬語で話さなくていいよ、って言ったって…)
そう簡単には直りそうにもない敬語。
いくら相手がチビになっても、十四歳の子供でも。
(なんだか、くすぐったい感じ…)
ハーレイの方が、うんと年上なのに、と魂の年齢を数えてみる。
時の彼方での年に加えて、今の時代までの長い長い時間。
それを加えた分まであるのに、チビに敬語で話さなくても、と。
(だけど、ハーレイなんだしね?)
直らないかも、とクスクス笑った。
「いつまで経っても、敬語で話し続けるんだよ」と、「習慣になっていますから、って」と。
(…敬語で喋って、キャプテンの服で…)
そういうハーレイが側にいる日々。
魂だけの姿なのだし、他の人には見えないけれど。
(…何処に行くのも、ハーレイと一緒…)
学校にだって、魂だけのハーレイと一緒に出掛けてゆく。
家からバス停までを歩いて、路線バスに二人で乗り込んで。
(バスの中でも、思念でお喋り…)
ハーレイとなら大丈夫、と自分の思念の不器用さは心配していない。
魂だけのハーレイだったら、ちゃんと「ブルー」の思念を捉えてくれるだろう。
不器用になったブルーにも届く、思念を紡いでくれるのだから。
(初めて学校に一緒に行く日は、ガイドさんみたいになっちゃいそう!)
あそこに見える建物はね、などと説明して。
お店や公園、窓から見えるものを次々、初めて眺めるハーレイに教えて。
そうやって学校に辿り着いても、観光ガイドは続くのだろう。
グラウンドや中庭、今の自分の教室がある校舎など。
(友達に会ったら、お喋り、中断しちゃうけど…)
ハーレイは笑顔で待っていてくれて、授業の間は、まるで参観日の保護者みたいに…。
(教室の一番後ろに立って、授業を眺めてるんだよね?)
今の時代は、どんな授業をしているのかと、興味津々で。
SD体制が無くなった世界で、他の子供と変わらない暮らしをする恋人を。
(ハーレイに、いいトコ、見せなくっちゃ…!)
うんと張り切って、手を挙げて、それから質問だって。
先生に褒めて貰えるように、いつも以上に頑張って。
(…お昼休みになったら、食堂…)
友達と出掛けてゆくのだけれども、ハーレイも一緒。
ランチプレートは、前の自分たちの頃のと、大して変わっていないから…。
(ぼく、食堂では、注文したことないけれど…)
注文するなら、うどんか蕎麦か、ラーメンだろうか。
どれも、ハーレイは知らないから。
前の自分たちが生きた時代は、麺と言ったら、パスタだったから。
(…どうせだったら、天麩羅うどん?)
天麩羅も無かった時代だもんね、と遥かな時の彼方を思う。
多様な文化を消してしまった、機械が統治していた世界。
(これは、日本のフライなんだよ、って…)
元は厨房出身だった、ハーレイに指差して教えてあげたい。
友達に変に思われないよう、注意しながら。
「その内、ママが作るだろうから、作り方は、その時、見るといいよ」と。
(…ハーレイ、それまで我慢出来るかな?)
食堂の厨房を見に行っちゃいそう、と思わないでもない。
研究熱心なキャプテンだったし、厨房時代も、あれこれと試作していたから。
天麩羅の作り方にしたって、知りたくなったら、頑張りそうで。
(…ふふっ…)
魂だけのハーレイでも、充分、幸せだよね、と笑みが零れる。
触れ合えなくても、キスさえ贈って貰えなくても。
(…魂だけだったなら、ぼくにキスしてくれなくっても…)
どうせ元から、触れないんだし…、と納得出来そう。
守護天使みたいに側にいるだけ、そういうハーレイ。
(何処に行くにも、二人一緒で…)
他の人には見えないだけで、ハーレイは側にいてくれる。
どんな時でも、何があっても、恋人の「ブルー」を気遣って。
熱が出て寝込んでしまっていたって、ベッドの側で見守ってくれて。
(……うんと幸せ……)
それでもいいや、と思ったけれど。
ちゃんとハーレイに出会えたのだし、幸せな日々、と考えたけれど…。
(…ちょっと待ってよ?)
ハーレイと再会出来たからには、いずれハーレイも生まれ変わって来るのだろう。
同じ青い地球の上に生まれて、ブルーと暮らしてゆくために。
時の彼方で二人で描いた、幾つもの夢を叶えるために。
(…前のぼくとハーレイの年の差の分、時が過ぎたら…)
ハーレイは微笑んで、お別れを告げに来ることになる。
「少し待っていて下さいね」と。
「もうすぐ、生まれ変わりますから」と、「急いで育って、直ぐにあなたを迎えに来ます」と。
(…そう言われたって、直ぐじゃないから…!)
一年や二年じゃないんだから、と背中がたちまち冷たくなる。
「ぼくは何年待てばいいの」と、「独りぼっちになっちゃうじゃない!」と。
(…ハーレイが、ちゃんと育って迎えに来るまで…)
待つなんて、とても出来そうにない。
毎日、寂しくて、泣いて、泣きじゃくって、辛い日々が続くに決まっている。
「戻って来るよ」と分かっていたって、「また会えるから」と、確信していたって。
(…ハーレイが、魂だけだったなら…)
そうなっちゃいそう、と思うものだから、そんな出会いはしたくない。
魂だけのハーレイと出会えば、楽しい日々を送れそうでも。
今より新鮮な出会いだとしても、その後に来るのは、長く待たされる日々なのだから…。
魂だけだったなら・了
※再会したハーレイが魂だけの存在だったら、と想像してみたブルー君。面白いかも、と。
楽しくて幸せそうですけれど、ハーレイが生まれ変わって来るまでが大変。辛すぎますよねv
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