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気付いてるのに
(気付いてるのに、だ…)
 出会えない日ってのは、あるもんだな、とハーレイがフウと零した溜息。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 今日は会えずに終わったブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…あいつが気付いていなかっただけで…)
 俺の方では見てたんだよな、と今日の出来事を思い出す。
 ブルーに会えずに終わったけれども、姿だけなら目にしていた。
 授業の合間の空き時間に通った、ブルーの教室の横にある廊下、其処の窓から。
(たまたま、用事があって通ったら…)
 教室の中から、教師の声が聞こえて来た。
 つまり、ブルーは授業中。
(あいつがいるな、と思ったから…)
 足は止めずに、目だけで探した教室の中。
 「ブルーの席は、あの辺りだった筈なんだがな」と、古典の授業で覚えた席を。
 予想通り、其処に座っていたブルー。
 机の上に教科書を広げて、熱心に教師の方を見ていた。
(邪魔しちゃいかん、と早足になって…)
 通り過ぎたから、ブルーは気付かなかっただろう。
 今、廊下の方へ視線を向けたら、「ハーレイがいる」ということに。
 恋人の目が自分の方へと、向けられていた時間があったことにも。
(…だから、あいつは…)
 今日は「ハーレイ」を見てはいなくて、会えずに終わってしまった一日。
 家に寄ってもくれなかったから、今頃は不満たらたらだろう。
 「今日はハーレイに会えなかったよ」と、膨れっ面で。
(それとも、ションボリ項垂れちまって…)
 溜息を零して泣きそうな顔で、不運を嘆いているのだろうか。
 「ツイてないよ」と、「ハーレイに会えずに終わっちゃった」と。


 どちらなのかは分からないけれど、ブルーの気持ちは想像がつく。
 姿だけは見ていた自分の方でも、溜息をついていたのだから。
(…なまじ、気付いちまったしなあ…)
 余計に気分が参るのかもな、という気がする。
 これが全く出会わなかったら、「そういう日なんだ」と割り切れたろう。
 同じ学校に行っていたって、出会わない日は珍しくない。
 ブルーと自分が歩く場所やら、其処を歩いた時間によっては。
(…うまい具合に、って言い方はおかしいんだが…)
 互いが移動してゆく線が、交わらない日。
 留まる点も重ならないまま、学校にいる時間が終われば、そうなってしまう。
(すれ違い、っていうヤツだよな)
 そっちなら諦めもつくんだが…、と今日の不運に零れる溜息。
 ブルーの姿を目にした時には、「ツイているな」と思ったから。
 まさかそのまま、二度と会えずに…。
(終わっちまうとは、あの時、思いもしなかったんだ…)
 ツイているから、何処かで会えると浮き立った心。
 廊下でバッタリ顔を合わせるか、グラウンドや中庭で出会うことになるか。
 放課後は会議の予定だけれども、それが早めに終わってくれて、ブルーの家へと…。
(行けるかもな、と思ったのにな?)
 生憎と予想は悉く外れ、ブルーには二度と出会えなかった。
 ついでに、愛おしいブルーの方では、「ハーレイに会えずに終わった一日」。
(……なんてこった……)
 ただ会えないより酷いじゃないか、とコーヒーを一口、コクリと飲んだ。
 「なんて日なんだ」と、「俺は気付いてたっていうのに」と。
 確かにブルーの姿を見たのに、愛おしい人を目に出来たのに…。
(…会えずじまいで終わっちまった…)
 ツイてるどころか、その逆だったぞ、と神様を恨みたくもなる。
 想いが中途半端に残って、溜息ばかりが出て来るから。
 最初から会えずに終わっていたなら、「ツイてないな」で済んだのに。
 熱いコーヒーで気分転換、気持ちを別の方へと向けて。


(…こんな気分で、別のことをと言われてもなあ…?)
 何が浮かんでくると言うんだ、と心の中で愚痴った途端に、掠めた考え。
 「気付いてるのに、出会えなかったら?」と。
(……今日のは、まさにそれだったんだが……)
 自分とブルーは恋人同士で、ちゃんと互いを、よく知っている。
 今日は会えずに終わったけれども、明日には会えることだろう。
 学校では会えずに終わったとしても、放課後に用は入っていないし、家まで行ける。
 だから何処かで必ず会えるし、今日の不運は、今日だけでおしまいのなのだけれども…。
(そうじゃなくって、出会いの時から…)
 気付いてるのに出会えないんだ、と思い描いた「ブルーとの出会い」。
(俺があいつに、初めて出会ったのは…)
 今の学校に赴任して来て、ブルーの教室に入った日。
 忘れもしない五月の三日で、其処でブルーに現れた聖痕。
(あれでお互い、記憶が戻って…)
 めでたく恋人同士だけれども、それとは違った出会いだったら。
 何処かで、ブルーの姿を見掛けて…。
(その瞬間に、ブルーなんだ、と気が付いて…)
 聖痕などとは全く無縁で、けれど「ブルーだ」と気付く瞬間。
 前の生での記憶が戻って、「ブルーなんだ」と、愛おしい人の存在に気が付く。
 「あれはブルーだ」と。
 「俺のブルーが帰って来た」と、「あそこにいる」と心が跳ねて。
(でもって、駆け出して抱き締めたいのに…)
 それは叶わない、そういう出会い。
 「ブルーなんだ」と気付いているのに、手が届かないというケース。
(…全く無いとは言い切れないぞ…)
 あいつがバスに乗っているとか、と直ぐに浮かんだシチュエーション。
 今のブルーも身体が弱くて、バスで通学しているから。
(…俺の学校に通っているなら、バスの中でもいいんだが…)
 また会える日が来るからな、と頭にあるのは全く違う別のバス。
 それに乗っているブルーを見たって、手も足も出ない、悲しすぎる出会い。


(…最悪のヤツは、観光バスだな)
 俺が見付けたブルーが乗っているバスは、と考えただけで恐ろしくなる。
 そんな出会いになっていたなら、どうしようもない、と。
(…あいつの方でも、俺に気付いて…)
 明らかに表情が変わるのだけれど、それでおしまい。
 ブルーを乗せた観光バスは、信号で止まっていたか何かで…。
(…赤信号が青に変わったら、走り始めて…)
 あっという間にスピードを上げて、視界から消えてしまうのだろう。
 見付けたばかりの愛おしい人、前の生から愛し続けたブルーを乗せて。
 追い掛けて走って行こうとしたって、バスの方が遥かにスピードが上で。
(…その上、俺も焦っちまってて…)
 バスのナンバープレートどころか、どんなバスかも記憶に残っていないと思う。
 赤いバスだったか、青だったのかも、他の色かも分からないほどに。
(…そんなじゃ、まるで手掛かりがなくて…)
 ブルーを乗せたバスが何処から来たのか、それさえも掴むことが出来ない。
 この町に拠点があるバス会社か、他の町から来たバスなのかも。
(バスの会社が分からないんじゃ、乗客なんかは…)
 何処の誰だか、探す方法さえ無いことだろう。
 せめてブルーが今と同じに子供だったら、運が良ければ、少しくらいは絞り込める。
(ただし、旅行に来ていた時だな)
 遠足では駄目だ、と分かっている現実。
 学校単位で旅行に来ていて、この町に宿泊していた場合。
 そういう時だけ、幾つかの学校に絞れるけれども…。
(…それにしたって、学校から旅行に来ていた、という条件でしか…)
 無理なんだよな、とコーヒーを一口、飲み下した。
 「家族旅行じゃどうにもならん」と、「ツアーの観光バスではなあ…」と。
 旅行客を乗せた観光バスなど、それこそ星の数ほどあるから。
 バス会社さえも分からないのでは、文字通り、お手上げ。
 ブルーを乗せたバスの行方も、ブルーが何処から来たのかも。
 今も「ブルー」という名前なのか、それさえも分からないままで。


 あったかもしれない、そういう出会い。
 確かに「ブルー」に気付いて、見付けて、ブルーの方でも気が付いたのに。
 お互い、時の彼方の記憶も、恋の記憶も取り戻したのに。
(…あいつを乗っけたバスは、そのまま行っちまって…)
 追い付くことも出来なかったから、ブルーとの出会いはそれっきり。
 同じ世界に、あれほど愛した人がいるのに。
 今も恋しくて堪らないのに、ブルーには手が届かない。
 何処へ行ったか、何処から来たのか、手掛かりが何も無いものだから。
 どうやって「ブルー」を探せばいいのか、まるで見当も付かないから。
(…地球にいるのか、そうじゃないのか、それも謎だし…)
 本当に無理だ、と溜息が出る。
 同じ地域に住んでいるなら、新聞に投書するという手もあるけれど…。
(…ブルーの家でも、同じ新聞を取っていないと…)
 無駄足になる可能性が大。
 ブルーの知り合いの誰かが気付いて、ブルーに連絡しない限りは。
 「こういう投書が載っていたけど、心当たりが無いだろうか」と、親切な誰かが。
(アルビノだしなあ、あるいは、そういうことだって…)
 あるのかもな、と思うけれども、そうそう上手くはいかない出会い。
 「ブルー」を見付けることは出来ずに、時だけが空しく流れていって…。
(…ある時、ひょいと、また出会うんだ…)
 今度は宙港での出会いだろうか、飛び立ってゆく船に見付けるブルー。
 たまたま展望台に行ったら、離陸直前の船に「ブルー」がいる。
 窓の向こうから、展望台を見て驚く「ブルー」が。
 「ハーレイ」を確かに見付けたと分かる、そんな瞳をしている「ブルー」。
(…なのに、宇宙船は…)
 ブルーを乗せて飛び立ってしまい、追い掛けてゆくことは、もちろん出来ない。
 空を飛ぶことなど出来はしなくて、思念波だって…。
(…今の世界じゃ、宇宙船には…)
 届きはしなくて、ブルーとの出会いは其処までで終わる。
 お互い、相手に気が付いたのに。
 これが街角で出会ったのなら、駆け寄って抱き締められただろうに。


(…見付けられればいいんだがなあ、宇宙船に乗って行っちまった、あいつを…)
 あいつの方でも探してくれれば、と思うし、きっと「ブルー」も探すと思う。
 けれど、それでも、何年経っても、ずっと互いに出会えないままで…。
(…また何年か経った頃にだ、気付いてるのに、どうしようもないって出会いを…)
 やらかしそうで怖いんだがな、と背筋が寒くなるから、此処で打ち切り、と飲んだコーヒー。
 幸い、ブルーと、そんな出会いはしなかったから。
 ちゃんとお互い気が付いているし、明日には、きっと会えるのだから…。



           気付いてるのに・了


※ブルー君との出会いについて、考えてみたハーレイ先生。こんな出会いをしていたら、と。
 お互い、ちゃんと気付いているのに、抱き合うことは叶わない出会い。辛すぎですよね。








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