会えなくなったなら
(今日はハーレイに会えなかったけど…)
きっと明日には会えるものね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…寄ってくれるかと思ってたのに…)
仕事の帰りに、と嘆いてみたって始まらない。
ハーレイは忙しかったのだろうし、そういう時には、どんなに文句を言ったって…。
(…ハーレイにだって、どうすることも出来ないよね…)
会議や柔道部のことだったなら、と分かっているから、どうしようもない。
他の先生たちと食事に出掛けて行ったのだとしても、それも大人の付き合いだから…。
(どんなにハーレイが楽しんでたって、ぼくには何にも…)
言えやしないよ、と充分、承知してはいる。
それでも時々、深い溜息をついている日もあるけれど。
「ハーレイ、ぼくを忘れてるかも」と、「他の先生たちと楽しく食事だもんね」と。
(…でも、今日は…)
そんな文句は言わない日、と気持ちを明日に切り替える。
明日は古典の授業があるから、ハーレイに会えることは確実。
(どんな雑談、してくれるかな?)
楽しみだよね、と期待に膨らむ胸。
ハーレイが授業で繰り出す雑談、それは生徒の集中力を取り戻すため。
皆の興味を惹き付けるように、色々な話題を持ち出して来る。
(食べ物の話かな、それとも昔の文化とかかな…?)
前のぼくも知らない話ばっかり、と耳にする前から、もう嬉しくてたまらない。
明日には、聞ける筈だから。
学校を休んだり、古典の時間に保健室に行ったりしていなければ。
(絶対、学校に行かなくちゃ…)
風邪なんか引いていられないよ、と決意を新たにする。
「今夜は、しっかり寝なくっちゃ」と。
そうは思っても、今の生でも弱い身体に生まれた自分。
運が悪いと、明日になったら、具合が悪いということもある。
(でも、きっと…)
学校を休んでしまったとしても、ハーレイには会えることだろう。
「ハーレイの授業を聞きたかったよ」と、昼間はベッドでしょげていたって。
(…よっぽど忙しくない限り…)
仕事の帰りに、ハーレイは見舞いに来てくれる。
他の先生との食事なんかは、断って。
会議があったり、柔道部の部活が長引いた時でも、よっぽど遅くならない限りは。
(…だって、ハーレイの授業がある日に…)
教室に「ブルー」の姿が無ければ、ハーレイにも直ぐに「身体の具合が悪い」と分かる。
熱があるのか、風邪を引いたか、とても心配してくれるだろう。
(だから、仕事が終わったら…)
急いで家まで来てくれる筈で、場合によっては、母に頼んでキッチンに立って…。
(野菜スープを作ってくれるんだよ)
前のぼくが大好きだったスープ、と緩む頬。
ほんの少しの塩味しかない、何種類もの野菜をコトコト煮込んだスープ。
前の自分が寝込んだ時には、ハーレイが作る、そのスープしか受け付けなかった。
(ホントに具合が悪すぎる、って時だけれどね…)
そうじゃない時は、他の食事も食べていたよ、と時の彼方に思いを馳せる。
身体を治すには、まず栄養をつけないと。
ノルディにも厳しく言われていたから、食べられる時は食べていた。
(…だけど、食べられない時だって…)
少なくはなくて、そういう時には、ハーレイのスープ。
今の自分も、その味わいを覚えていたから、ハーレイは、ちゃんと作ってくれる。
「これくらいなら、食えるだろ」と。
「明日には、お母さんが作る食事も食べるんだぞ」などと言いながら。
(…授業で会えるか、休んでしまって家で会うのか…)
明日にならないと分からないけれど、恐らく、会える。
「会えなかったよ」と、此処で嘆いていなくても。
「ハーレイは、ぼくのことなんか忘れてるんだ」と、恨まなくても。
明日になったら会える恋人。
そう考えたら、心はグンと軽くなる。
「ハーレイの授業まで、あと何時間?」と数えたりして。
運が良ければ、登校した時、朝のグラウンドで出くわすこともあるのだから。
(…今日はたまたま、会えなかっただけで…)
会える日の方が多いもんね、と大きく頷く。
たまに会えない日が続いたって、一週間も続きはしない。
週末は、学校が休みだから。
其処でハーレイが家に来てくれるし、週末に何か用事があるなら…。
(それよりも前に、何処かの平日に時間を作って…)
必ず、寄ってくれるんだもの、と分かっているから安心出来る。
会えないままで、一週間も過ぎてしまうことは、有り得ないから。
寂しいのを何日か我慢したなら、優しい笑顔を見られるから。
(…うんと幸せ…)
前のぼくよりは、ちょっぴり寂しい毎日だけど、と白いシャングリラを思い出す。
ミュウの箱船では、会えない日などは無かったから。
どんなにハーレイが多忙な時でも、朝の食事は一緒に食べた。
そういう決まりになっていたから。
シャングリラの頂点に立つソルジャーとキャプテン、二人が会う場は必要だろう、と。
(だけど、今だと、そういう決まりは…)
誰も作ってくれなかったわけで、いくらハーレイが「守り役」でも…。
(毎日、必ず、会って下さい、って、病院の先生も言わなかったし…)
聖痕を診た主治医が決めなかった以上、学校だって、其処まで配慮はしてくれない。
ハーレイが「ブルー」を特別扱い、そうすることは認めていても。
特定の教え子にだけ親切なのを、咎めることはしないけれども。
(…ちょっぴり残念…)
決まりがあったら良かったよね、と思いはしても、仕方ない。
それは贅沢というものだから。
会えない時でも、一週間も空きはしないのだから。
だから我慢、と思ったはずみに、頭の中を掠めた考え。
「ハーレイに会えなくなったなら」と。
今はどんなに間が空いても、一週間も会えないままになったりはしないのだけれど…。
(…ハーレイが、ぼくの学校の先生だったから…)
そうなっただけで、今のハーレイの仕事によっては、もっと間が空くのかも、と。
(プロのスポーツ選手だったら、遠征試合に出掛けちゃったら…)
行き先は遠い他所の星だし、いつ帰るかも分からないほど。
星から星へと転戦してゆくのなら、そのシーズンが終わるまで…。
(…地球には、帰って来なくって…)
会えなくなっちゃう、と愕然とする。
この地球の上で遠征したって、他の地域へ出掛けてゆくなら、一週間では戻れない。
その上、スポーツ選手だったら、練習のための合宿期間だってある。
(…合宿する場所が、この町でなければ…)
合宿の間も会えやしない、と気が付いた。
「それは困るよ」と、「やっぱり、ハーレイは先生でなくちゃ」と。
(……だけど……)
同じ古典の教師にしたって、遠い町で教師をしていた時には、どうなるだろう。
日帰りするのは厳しいくらいに、うんと離れた町だったなら。
(…そういう所の先生だって、研修とかだと、この町に…)
やって来ることも少なくないから、巡り会うのは、研修でこの町に来ている時。
研修の合間の休憩時間に、ハーレイが何処かを散歩していて…。
(ぼくとバッタリ出会った途端に、ぼくに聖痕…)
それで互いの記憶が戻って、もちろんハーレイは、血まみれになった「ブルー」と一緒に…。
(救急車に乗って、病院までついて来てくれて…)
その後も、ちゃんと付き添っていてくれるだろう。
研修先に連絡を入れて、「目の前で子供が大怪我をしたから」と事情を伝えて。
一段落したら、研修先に戻ってゆくのだろうけれど…。
(記憶が戻って来たんだし…)
何か理由を考え出して、休暇を取ってくれると思う。
ほんの二日か三日だけでも、研修の後で、色々、話が出来るようにと。
(…そこまでは、一緒にいられるけれど…)
ハーレイの休暇が終わってしまえば、離れ離れになるしかない。
なにしろ、ハーレイが勤めているのは、遠い町にある学校だから。
其処で生徒たちが待っているから、休暇が済んだら、戻らなければ。
どれほど「ブルー」に未練があっても、仕事を放り出すことは…。
(……出来ないよね?)
今のハーレイも真面目だものね、とハーレイの性格を改めて思う。
キャプテン・ハーレイだった頃と同じで、とても責任感が強いハーレイ。
やっている仕事が違うというだけ、仕事にかける思いは同じ。
(教え子たちを放って、ぼく一人には…)
絶対、かまけてくれやしない、と容易に想像がつく。
再会出来て喜んだ後は、別れが待っているのだと。
「じゃあな」と手を振り、ハーレイは行ってしまうのだ、と。
(…遠い町だから、週末の度に来るなんてこと、出来やしないし…)
次に会えるのは、長期休暇の時だろう。
夏休みだとか、冬休み。
学校が長い休みに入って、ハーレイが旅をしてもいい時。
(…それまで、会えなくなったなら…)
いったい自分はどうするだろうか、ハーレイが行ってしまったら。
一週間どころか、何ヶ月も会えなくなってしまって、それが普通の二人だったら。
(…どんなに会いたくなったって…)
今の自分の弱い身体では、ハーレイが暮らしている町まで旅をするのは厳しい。
なんとか辿り着けたとしたって、寝込んでしまうことだろう。
(ハーレイが来られないんなら、って…)
週末に会いに出掛けたつもりが、宿で寝込んで、ハーレイに心配をかけるだけ。
おまけに、一回、それをやったら…。
(…パパとママは二度目を、絶対、許してくれないし…)
ハーレイにだって、釘を刺されてしまう筈。
「こんな無茶、二度とするんじゃないぞ」と。
「俺の方から会いに行くから、それまで大人しく待つんだな」と。
そのハーレイが会いに来てくれるのは、何ヶ月も先のことになるのに。
(……そんなの、困る……)
会えなくなったら困っちゃうよ、と思うけれども、有り得た話。
今のハーレイが、別の仕事をしていたら。
同じ古典の教師にしたって、遠く離れた町にいたなら。
(…神様が、ちゃんとしてくれたから…)
一週間も会えずに終わることなど、ないけれど。
何処かで必ず会えるけれども、ハーレイに会えなくなったなら…。
(…手紙に、通信…)
ハーレイが書いた返事を見たくて、せっせと手紙を書いて投函するのだろう。
まるで日記をつけるみたいに、毎日のように郵便ポストに行って。
家に帰ったら門扉の脇のポストを覗いて、返事が届いていないかを見て。
(ポストの中が空っぽだったら…)
玄関の扉を開けるなり、「手紙は来てた?」と叫ぶのだろうか、母に向かって。
もしも手紙が届いていたなら、何よりも先に読みたいから。
(それに、通信…)
ハーレイが家にいて、忙しくなさそうな時間を選んで、入れる通信。
「あのね」と、「ハーレイ、元気にしてる?」と。
ちゃんと手紙を貰っていたって、ハーレイの声が聞きたくて。
(声を聞けたら、とても嬉しくなるだろうけど…)
手紙と通信だけの日々など、我慢出来るとは思えないから。
ハーレイに会いたくて堪らなくなって、泣いてしまう夜もありそうだから…。
(一週間も空けずに会えるだけでも…)
幸せなんだと思わなくちゃね、と自分に向かって言い聞かせる。
もしもハーレイに会えなくなったなら、きっと耐えられはしないから。
長い休みにしか会えないだなんて、もう絶対に御免だから…。
会えなくなったなら・了
※ハーレイ先生に会えなくなったなら、と想像してみたブルー君。遠くに離れて暮らしていて。
会えるのは長い休みの時だけ、それまでは我慢するしかない日々。耐えられませんよねv
きっと明日には会えるものね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…寄ってくれるかと思ってたのに…)
仕事の帰りに、と嘆いてみたって始まらない。
ハーレイは忙しかったのだろうし、そういう時には、どんなに文句を言ったって…。
(…ハーレイにだって、どうすることも出来ないよね…)
会議や柔道部のことだったなら、と分かっているから、どうしようもない。
他の先生たちと食事に出掛けて行ったのだとしても、それも大人の付き合いだから…。
(どんなにハーレイが楽しんでたって、ぼくには何にも…)
言えやしないよ、と充分、承知してはいる。
それでも時々、深い溜息をついている日もあるけれど。
「ハーレイ、ぼくを忘れてるかも」と、「他の先生たちと楽しく食事だもんね」と。
(…でも、今日は…)
そんな文句は言わない日、と気持ちを明日に切り替える。
明日は古典の授業があるから、ハーレイに会えることは確実。
(どんな雑談、してくれるかな?)
楽しみだよね、と期待に膨らむ胸。
ハーレイが授業で繰り出す雑談、それは生徒の集中力を取り戻すため。
皆の興味を惹き付けるように、色々な話題を持ち出して来る。
(食べ物の話かな、それとも昔の文化とかかな…?)
前のぼくも知らない話ばっかり、と耳にする前から、もう嬉しくてたまらない。
明日には、聞ける筈だから。
学校を休んだり、古典の時間に保健室に行ったりしていなければ。
(絶対、学校に行かなくちゃ…)
風邪なんか引いていられないよ、と決意を新たにする。
「今夜は、しっかり寝なくっちゃ」と。
そうは思っても、今の生でも弱い身体に生まれた自分。
運が悪いと、明日になったら、具合が悪いということもある。
(でも、きっと…)
学校を休んでしまったとしても、ハーレイには会えることだろう。
「ハーレイの授業を聞きたかったよ」と、昼間はベッドでしょげていたって。
(…よっぽど忙しくない限り…)
仕事の帰りに、ハーレイは見舞いに来てくれる。
他の先生との食事なんかは、断って。
会議があったり、柔道部の部活が長引いた時でも、よっぽど遅くならない限りは。
(…だって、ハーレイの授業がある日に…)
教室に「ブルー」の姿が無ければ、ハーレイにも直ぐに「身体の具合が悪い」と分かる。
熱があるのか、風邪を引いたか、とても心配してくれるだろう。
(だから、仕事が終わったら…)
急いで家まで来てくれる筈で、場合によっては、母に頼んでキッチンに立って…。
(野菜スープを作ってくれるんだよ)
前のぼくが大好きだったスープ、と緩む頬。
ほんの少しの塩味しかない、何種類もの野菜をコトコト煮込んだスープ。
前の自分が寝込んだ時には、ハーレイが作る、そのスープしか受け付けなかった。
(ホントに具合が悪すぎる、って時だけれどね…)
そうじゃない時は、他の食事も食べていたよ、と時の彼方に思いを馳せる。
身体を治すには、まず栄養をつけないと。
ノルディにも厳しく言われていたから、食べられる時は食べていた。
(…だけど、食べられない時だって…)
少なくはなくて、そういう時には、ハーレイのスープ。
今の自分も、その味わいを覚えていたから、ハーレイは、ちゃんと作ってくれる。
「これくらいなら、食えるだろ」と。
「明日には、お母さんが作る食事も食べるんだぞ」などと言いながら。
(…授業で会えるか、休んでしまって家で会うのか…)
明日にならないと分からないけれど、恐らく、会える。
「会えなかったよ」と、此処で嘆いていなくても。
「ハーレイは、ぼくのことなんか忘れてるんだ」と、恨まなくても。
明日になったら会える恋人。
そう考えたら、心はグンと軽くなる。
「ハーレイの授業まで、あと何時間?」と数えたりして。
運が良ければ、登校した時、朝のグラウンドで出くわすこともあるのだから。
(…今日はたまたま、会えなかっただけで…)
会える日の方が多いもんね、と大きく頷く。
たまに会えない日が続いたって、一週間も続きはしない。
週末は、学校が休みだから。
其処でハーレイが家に来てくれるし、週末に何か用事があるなら…。
(それよりも前に、何処かの平日に時間を作って…)
必ず、寄ってくれるんだもの、と分かっているから安心出来る。
会えないままで、一週間も過ぎてしまうことは、有り得ないから。
寂しいのを何日か我慢したなら、優しい笑顔を見られるから。
(…うんと幸せ…)
前のぼくよりは、ちょっぴり寂しい毎日だけど、と白いシャングリラを思い出す。
ミュウの箱船では、会えない日などは無かったから。
どんなにハーレイが多忙な時でも、朝の食事は一緒に食べた。
そういう決まりになっていたから。
シャングリラの頂点に立つソルジャーとキャプテン、二人が会う場は必要だろう、と。
(だけど、今だと、そういう決まりは…)
誰も作ってくれなかったわけで、いくらハーレイが「守り役」でも…。
(毎日、必ず、会って下さい、って、病院の先生も言わなかったし…)
聖痕を診た主治医が決めなかった以上、学校だって、其処まで配慮はしてくれない。
ハーレイが「ブルー」を特別扱い、そうすることは認めていても。
特定の教え子にだけ親切なのを、咎めることはしないけれども。
(…ちょっぴり残念…)
決まりがあったら良かったよね、と思いはしても、仕方ない。
それは贅沢というものだから。
会えない時でも、一週間も空きはしないのだから。
だから我慢、と思ったはずみに、頭の中を掠めた考え。
「ハーレイに会えなくなったなら」と。
今はどんなに間が空いても、一週間も会えないままになったりはしないのだけれど…。
(…ハーレイが、ぼくの学校の先生だったから…)
そうなっただけで、今のハーレイの仕事によっては、もっと間が空くのかも、と。
(プロのスポーツ選手だったら、遠征試合に出掛けちゃったら…)
行き先は遠い他所の星だし、いつ帰るかも分からないほど。
星から星へと転戦してゆくのなら、そのシーズンが終わるまで…。
(…地球には、帰って来なくって…)
会えなくなっちゃう、と愕然とする。
この地球の上で遠征したって、他の地域へ出掛けてゆくなら、一週間では戻れない。
その上、スポーツ選手だったら、練習のための合宿期間だってある。
(…合宿する場所が、この町でなければ…)
合宿の間も会えやしない、と気が付いた。
「それは困るよ」と、「やっぱり、ハーレイは先生でなくちゃ」と。
(……だけど……)
同じ古典の教師にしたって、遠い町で教師をしていた時には、どうなるだろう。
日帰りするのは厳しいくらいに、うんと離れた町だったなら。
(…そういう所の先生だって、研修とかだと、この町に…)
やって来ることも少なくないから、巡り会うのは、研修でこの町に来ている時。
研修の合間の休憩時間に、ハーレイが何処かを散歩していて…。
(ぼくとバッタリ出会った途端に、ぼくに聖痕…)
それで互いの記憶が戻って、もちろんハーレイは、血まみれになった「ブルー」と一緒に…。
(救急車に乗って、病院までついて来てくれて…)
その後も、ちゃんと付き添っていてくれるだろう。
研修先に連絡を入れて、「目の前で子供が大怪我をしたから」と事情を伝えて。
一段落したら、研修先に戻ってゆくのだろうけれど…。
(記憶が戻って来たんだし…)
何か理由を考え出して、休暇を取ってくれると思う。
ほんの二日か三日だけでも、研修の後で、色々、話が出来るようにと。
(…そこまでは、一緒にいられるけれど…)
ハーレイの休暇が終わってしまえば、離れ離れになるしかない。
なにしろ、ハーレイが勤めているのは、遠い町にある学校だから。
其処で生徒たちが待っているから、休暇が済んだら、戻らなければ。
どれほど「ブルー」に未練があっても、仕事を放り出すことは…。
(……出来ないよね?)
今のハーレイも真面目だものね、とハーレイの性格を改めて思う。
キャプテン・ハーレイだった頃と同じで、とても責任感が強いハーレイ。
やっている仕事が違うというだけ、仕事にかける思いは同じ。
(教え子たちを放って、ぼく一人には…)
絶対、かまけてくれやしない、と容易に想像がつく。
再会出来て喜んだ後は、別れが待っているのだと。
「じゃあな」と手を振り、ハーレイは行ってしまうのだ、と。
(…遠い町だから、週末の度に来るなんてこと、出来やしないし…)
次に会えるのは、長期休暇の時だろう。
夏休みだとか、冬休み。
学校が長い休みに入って、ハーレイが旅をしてもいい時。
(…それまで、会えなくなったなら…)
いったい自分はどうするだろうか、ハーレイが行ってしまったら。
一週間どころか、何ヶ月も会えなくなってしまって、それが普通の二人だったら。
(…どんなに会いたくなったって…)
今の自分の弱い身体では、ハーレイが暮らしている町まで旅をするのは厳しい。
なんとか辿り着けたとしたって、寝込んでしまうことだろう。
(ハーレイが来られないんなら、って…)
週末に会いに出掛けたつもりが、宿で寝込んで、ハーレイに心配をかけるだけ。
おまけに、一回、それをやったら…。
(…パパとママは二度目を、絶対、許してくれないし…)
ハーレイにだって、釘を刺されてしまう筈。
「こんな無茶、二度とするんじゃないぞ」と。
「俺の方から会いに行くから、それまで大人しく待つんだな」と。
そのハーレイが会いに来てくれるのは、何ヶ月も先のことになるのに。
(……そんなの、困る……)
会えなくなったら困っちゃうよ、と思うけれども、有り得た話。
今のハーレイが、別の仕事をしていたら。
同じ古典の教師にしたって、遠く離れた町にいたなら。
(…神様が、ちゃんとしてくれたから…)
一週間も会えずに終わることなど、ないけれど。
何処かで必ず会えるけれども、ハーレイに会えなくなったなら…。
(…手紙に、通信…)
ハーレイが書いた返事を見たくて、せっせと手紙を書いて投函するのだろう。
まるで日記をつけるみたいに、毎日のように郵便ポストに行って。
家に帰ったら門扉の脇のポストを覗いて、返事が届いていないかを見て。
(ポストの中が空っぽだったら…)
玄関の扉を開けるなり、「手紙は来てた?」と叫ぶのだろうか、母に向かって。
もしも手紙が届いていたなら、何よりも先に読みたいから。
(それに、通信…)
ハーレイが家にいて、忙しくなさそうな時間を選んで、入れる通信。
「あのね」と、「ハーレイ、元気にしてる?」と。
ちゃんと手紙を貰っていたって、ハーレイの声が聞きたくて。
(声を聞けたら、とても嬉しくなるだろうけど…)
手紙と通信だけの日々など、我慢出来るとは思えないから。
ハーレイに会いたくて堪らなくなって、泣いてしまう夜もありそうだから…。
(一週間も空けずに会えるだけでも…)
幸せなんだと思わなくちゃね、と自分に向かって言い聞かせる。
もしもハーレイに会えなくなったなら、きっと耐えられはしないから。
長い休みにしか会えないだなんて、もう絶対に御免だから…。
会えなくなったなら・了
※ハーレイ先生に会えなくなったなら、と想像してみたブルー君。遠くに離れて暮らしていて。
会えるのは長い休みの時だけ、それまでは我慢するしかない日々。耐えられませんよねv
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