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会えなくなったら
(…今日は会えずに終わっちまったが…)
 明日は間違いなく会えるだろうさ、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で、コーヒー片手に。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人、それがブルー。
 十四歳の子供になってしまったけれども、ブルーは帰って来てくれた。
 青く蘇った水の星の上で、新しい命と身体を貰って。
 今は自分の教え子のブルー。
 学校に行けば、大抵、会うことが出来る。
 会えないままで放課後が来ても、仕事の帰りにブルーの家に寄ることも出来る。
(今日は、どっちもダメだったんだが…)
 きっと明日には会える筈だぞ、と自分の仕事に感謝した。
 今の仕事は古典の教師で、明日はブルーのクラスでの授業。
(あいつが欠席してない限りは…)
 其処で会えるし、もしもブルーが休んでいたなら、仕事帰りに見舞いに出掛ける。
 明日は会議などの予定も無いから、柔道部の部活を済ませた後で。
(…頼むから、誰も怪我してくれるなよ?)
 でないと俺の予定がパアだ、と柔道部の部員の無事を祈った。
 誰かが怪我でもしようものなら、病院に連れて行かねばならない。
 すると時間を取られてしまって、ブルーの家に出掛けるどころか…。
(…怪我した生徒を家まで車で送り届けて、そいつの家で…)
 お茶を御馳走になる羽目に…、と分かっているから、部員には無事でいて貰わねば。
 部活の後には、ブルーの家へ。
 ブルーが元気に登校していても、それとこれとは話が別。
(学校じゃ、教師と教え子だしなあ…)
 そういう風にしか振る舞えなくて、会話にしたって、ブルーは敬語を使って話す。
 遠い昔に、前の自分が、前のブルーにそうしたように。
 ソルジャーとキャプテンの恋というのは、誰にも知られてはならなかったから。
 教師と教え子の恋と同じで、秘めておかねばいけなかったから。
(…遠慮なく、あいつと話すためには…)
 あいつの家に行くしかないしな、と苦笑する。
 「だから、明日には会いに行くんだ」と、「誰も怪我してくれるんじゃないぞ」と。


 明日には会える筈の恋人。
 どうせだったら、風邪など引かずに、元気に登校して来て欲しい。
 学校では教師と教え子だけれど、それでもブルーの席に姿が無かったら…。
(…残念なんてモンじゃないんだ)
 他の生徒の手前もあるから、もちろん顔には出したりしない。
 「ふむ、今日はブルーは欠席なんだな」と、教卓の上で欠席の印を書き込むだけ。
 誰かが「風邪を引いたらしいです」とでも教えてくれたら、「そうか」と静かに頷いて。
 心配でも、それは口には出さずに、「授業を始める」と話を切り替えて。
(でもって、平気な顔して、授業を…)
 するのだけれども、視線は何度も、ブルーのいない席を捉えることだろう。
 風邪を引いたというのだったら、熱は高くないか、辛くないか、と。
 特に病名を聞かなかったら、「腹を壊したか、風邪でも引いたか…」と気になって。
(学校が終わったら、あいつの家まで一直線だな)
 顔を見るまで落ち着かないぞ、と自分でもよく分かっている。
 今日のように会えずに終わった日だって、ブルーが気になって仕方ないから。
 夜にこうして思い出すほど、ブルーの顔を見たいのだから。
(…前の俺だと、あいつに会えない日なんかは…)
 一日だって無かったからな、と時の彼方に思いを馳せる。
 恋人同士だったことは伏せていたけれど、前のブルーには、毎日会えた。
 ソルジャーとキャプテン、白いシャングリラの頂点に立つ二人だったから。
 毎日、一度は顔を合わせて、色々なことを話し合うべき、と船の仲間たちは考えた。
(そういう方針だったからなあ…)
 忙しい日でも、そのための時間を確保出来るよう、朝食の席が選ばれた。
 朝食は必ず食べるものだし、青の間で会食すればいい、と。
(…朝食係まで拵えちまって…)
 青の間の奥の小さなキッチン、其処で作られていた朝食。
 それをブルーと二人で食べた。
 毎朝、必ず、顔を合わせて。
 どんなに多忙な時であろうと、朝は青の間に出掛けて行って。


 残念なことに、今はそういうわけにはいかない。
 いくらブルーの守り役とはいえ、「毎日、必ず会って下さい」とは言われていない。
(…そう言われていりゃ、なんとしてでも…)
 時間を作って、会えるんだがな、と少しばかり、もどかしい気持ち。
 今日は忙しかったけれども、何処かで時間は作れただろう。
 ブルーが欠席だったとしたって、授業の合間の空き時間になら、家まで行ける。
 ちょっと車を走らせたならば、ブルーの家に着けるから。
 ブルーの顔を見て、僅かな時間でも言葉を交わして、急いで学校に戻ればいい。
 元気に登校していた時でも、仕事を全部済ませた後で…。
(遅くなりましたが、会いに来ました、と…)
 訪ねてゆくのが許される上に、それが役目なら、歓待されることだろう。
 ブルーの両親に感謝されて。
 「お忙しいのに、本当にありがとうございます」と、夕食まで用意されたりして。
(ところがどっこい、そんな役目は…)
 俺は貰っちゃいないんだ、と残念至極。
 お蔭で、今日のように会えない日だって珍しくない。
 前の生なら、毎日、必ず会えたのに。
 ブルーが深く眠ってしまって、何年も目覚めずにいた時だって。
(…あいつに会えなくなっちまったのは…)
 いなくなっちまった後なんだよな、と零れる溜息。
 前のブルーはメギドへと飛んで、二度と戻って来なかった。
 長い長い時を共に過ごして、深い眠りに沈んでしまっていても、いてくれたのに。
 青の間を訪ねて行きさえすれば、前のブルーは、其処にいた。
 まるで目覚めることが無くても、儚く消えてしまったりはしないで。
 手を伸ばしたなら、いつでも頬に、その手に触れることさえも出来て。
(…そういうモンだと思っていたから…)
 失った後は、前の自分も死んでしまった。
 身体は生きていたのだけれども、魂は死んだ「生ける屍」。
 今の自分は、そんな羽目には陥るわけもないけれど…。


(…会えなくなったら、どうするんだ?)
 頭を過っていった考え。
 もしもブルーに会えなくなったら、と。
(……今の俺には、そんなことなど……)
 起こらないと分かっているんだがな、と言えるからこそ、「もしも」と思った。
 そういうことが起きたとしたなら、今の自分はどうするのだろう、と。
(…たまたま、教師だったから…)
 ブルーの学校に赴任した日に、今のブルーと再会出来た。
 その後も、教師と教え子として、毎日のように学校で会える。
 今日のように会えない時が続いたとしても、せいぜい数日。
(…しかしだな…)
 自分の仕事や、暮らしている場所。
 それによっては、今のブルーと再会出来ても…。
(ほんの数日、この町にいられるというだけで…)
 とても幸せな日々が過ぎたら、離れるしかないということもある。
 同じ教師の仕事にしたって、遠い所の学校で教師をしていた場合など。
(この町には、研修に来たってだけで…)
 本来だったら、ほんの一泊二日くらいでの出張。
 それをブルーと出会ったからと、何か理由を付けて延長。
(休暇だったら、取れないこともないからなあ…)
 同僚たちを拝み倒して、何日か。
 再会を遂げた愛おしい人と、思い出話などをして過ごすために。
(なんたって、ブルーはチビだから…)
 いくら前の生での恋人とはいえ、連れて帰るというわけにはいかない。
 休暇が終われば、「またな」と手を振り、住んでいる土地へ戻るしかない。
 其処へ帰れば、当分の間、ブルーに会うことは出来ないのに。
 次に会える日は、週末どころか、長期休暇しか無いだろう。
 夏休みだとか、冬休みといった学校が長い休みの時。
 その間だけ、また、この町に来る。
 少しでも長く側にいられるよう、懸命に仕事を片付けて。
 何処かに安い宿でも取って、其処からブルーの家に通って。


 そんなことなど、起こりはしない。
 ブルーに聖痕を与えた神なら、会えなくなるような出会いはさせない。
 そうだと分かっているのだけれども、考えてしまう。
 「ブルーに、会えなくなったら」と。
 いったい自分はどうするだろうと、どういう日々を送るのだろう、と。
(…同じ地球の上に、あいつがいるのに…)
 会いに行くことが出来ない暮らし。
 どんなにブルーの声が聞きたくても、顔を見たいと思っても。
(週末しか会えない、ってことになっても…)
 もう充分に辛いと思う。
 学校で顔を合わせることも出来なくて、ブルーの家にも寄れない毎日。
 会いに行けるのは土曜と日曜、そんな生活になっただけでも、きっと溜息が増えるだろう。
 日曜日の夜、家に戻る度、気分が暗く沈んでしまって。
 「また来週まで、ブルーに会えないわけだよなあ…」と、カレンダーの日付を眺めて。
(…ほんの一週間足らずでも…)
 そうなるんだ、と容易に想像がつく。
 今はブルーを軽くあしらい、「キスは駄目だ」と叱り付けたりしているけれど…。
(…週末どころか、長い休みまで会えないってことになっちまったら…)
 果たしてブルーを叱れるだろうか、今の自分と同じ調子で。
 「まだキスは早い!」と頭を小突いて、膨れっ面になるのを笑ったりもして。
(……キスは許してやれないんだが……)
 頭ごなしには叱れんかもな、と額を指でトントンと叩く。
 キスをしたいとは思わないけれど、離れたくない気持ちはあるから。
 「また帰らないといけないのか」と心が痛くて、ブルーを抱き締めたくもなるから。
(…会えなくなったら、そうなるだろうなあ…)
 今は書こうとも思わないブルー宛の手紙を、せっせと書いては、投函するとか。
 強請られても入れてやらない通信、それを自分から入れるとか。
 ブルーの声が聞きたくて。
 手紙にしたって、ブルーの返事が来るだろうから、ブルーが書いたそれを見たくて。


 会えなくなったら、きっとそうなる。
 ブルーに会えずに過ごすしかない、毎日が辛く、空虚になって。
 同僚と笑い合っていたって、心がお留守になったりもして。
(…生ける屍とまでは、いかないだろうが…)
 前の俺よりマシなんだが、と思いはしても、それは勘弁願いたい。
 ブルーに会えない日が続くなんて、考えただけでも悲しいから。
 溜息に埋もれて過ごす日々など、絶対に御免蒙りたいから…。



           会えなくなったら・了


※ブルー君と、今のようには会えなくなったら、と考えてしまったハーレイ先生。
 起こるわけがないことですけれど、そうなった時は、かなり辛そうです。会えるのが一番v








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