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大きくなるには
「ねえ、ハーレイ。草や木とかが育つのには…」
 光や水が必要だよね、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、窓の外へと目を遣って。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「ああ、まあ…。簡単に言えば、そういうことだな」
 光と水があれば、最低限はいける筈だ、とハーレイは頷く。
 草や木などの植物たちは、光合成をして生きるもの。
 太陽の光を、生きる力に変えてゆく。
 光合成をするために必要な葉を、育ててゆくには…。
(水ってことだな)
 そいつがあれば、種から芽が出てくるから、と。
(…しかし、今日のは…)
 随分と変わった話題じゃないか、と不思議ではある。
 ブルーは植物に無関心ではないけれど…。
(…季節の花とか、珍しい植物とか…)
 その手の話が多いタイプで、育つ過程はさほどでもない。
(はて…?)
 何かあったか、とブルーに尋ねてみることにした。
 どうして、植物が育つ話なのか。


「草や木が育つのに光や水って、急に、どうしたんだ?」
 種か苗でも貰ったのか、と真正面から投げ掛けた問い。
 一番有り得るのが、それだと思ったから。
 ブルー自身が貰わなくても、母が貰って来ただとか。
 けれどブルーは、「ううん」と首を左右に振った。
「そんなの、貰わないけれど?」
「じゃあ、なんだって、光や水って…」
 何処から思い付いたんだ、と重ねて尋ねる。
 植物を育てるアテも無いのに、いきなりどうした、と。
「えっとね…。光や水だけで、ちゃんと育つと思う?」
 立派な植物、とブルーは窓の外の木を指差した。
 庭で一番大きな木。
 その木の下には、白いテーブルと椅子がある。
 ブルーと初めてのデートをした場所、ブルーのお気に入り。
「あの木か…。あれほど大きくなるには…」
 光と水だけじゃ、ちょっと無理だな、とハーレイは答えた。
 ブルーは質問に答えていなくて、逆に質問なのだけど…。
(無視するわけにもいかんしな?)
 きちんと答えてやらないと、と大きな木を眺めて説明する。
 「さっきも言ったが、光と水は最低限だ」と。
 「大きく立派に育つためには、養分も要る」と。


 光合成だけで生きる植物は、けして少ないとは言えない。
 とはいえ、野山や庭に生えている草木や、農作物などは…。
(…養分が無いと、サッパリなんだ)
 ブルーも知ってると思うんだが、と零れる苦笑。
 なにしろ理科の基本なのだし、下の学校で教わる内容。
「お前、学校で習っただろう? 光合成の他にもだな…」
 養分ってヤツが必要なこと、とブルーを見詰める。
 「まさか寝ていて、聞いてないわけじゃないだろう?」と。
「居眠りなんか、してないってば!」
 腐葉土とかが要るんだよね、とブルーは返した。
 「他にも色々」と、「痩せた土だと駄目なんだよ」と。
「なんだ、分かっているんじゃないか。なのにだな…」
 何を今更、俺に訊くんだ、と赤い瞳を覗き込む。
 「分かっているなら、訊かなくても」と。
 「何か育てるわけでもないのに、何故、訊くんだ」と。
するとブルーは、「分からない?」と瞬きをした。
 「全然、ちっとも育たないのが、此処にいるでしょ」と。
 「ぼくの背、少しも伸びないんだよ」と。
 再会した日から、一ミリさえも育たないのがブルーの背丈。
 それは間違いないのだけれど…。


(おいおいおい…)
 マズくないか、とハーレイの胸に嫌な予感が広がってゆく。
 植物の話だと思っていたのに、どうやら中身が違いそう。
 ハーレイの不安を見透かしたように、ブルーは口を開いた。
 「分かってるの?」と、とても真剣な顔で。
「いい、ハーレイ? 草や木だって、大きくなるには…」
 養分が欠かせないんだよ、とブルーの赤い瞳が瞬く。
 「ぼくが少しも育たないのは、養分不足なんだから」と。
「養分って…。お前、少ししか食わないんだし…」
 栄養が足りていないんだろう、と返したけれど。
 それで済むことを祈ったけれども、ブルーは首を横に振る。
「違うでしょ! ハーレイがキスしてくれないからだよ!」
 だから、いつまでもチビのまま、と頬を膨らませるブルー。
 「そのせいで背が伸びないんだよ」と、「養分不足」と。
 前のブルーのように育つには、愛情も要る、と。
 「そう思わない?」と、ブルーは譲らないけれど。
 「育たないのは、ハーレイのせい」と、言い張るけれど…。


「其処まで言うなら、今日から、食え」
 しっかりとな、とハーレイは腕組みをして、反撃に出た。
 「お母さんにも言っておくから、充分に食え」と。
「ちょ、ちょっと…!」
 そんなの無理、とブルーは慌てるけれども、ニヤリと笑う。
 「養分が足りていないんだろう?」と。
「まずは、一ヶ月ほど、しっかり食って様子を見よう」
 「それで駄目なら考えてもいい」と、「食うことだ」と。
 「柔道部員並みの量を食べれば、足りるだろう」と。
 お母さんにメニューを渡しておくから、努力しろよ、と…。



        大きくなるには・了






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