臆病だよね
「ねえ、ハーレイって…」
臆病だよね、と小さなブルーが恋人にぶつけた言葉。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に何の前触れも無く。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(臆病だって?)
この俺がか、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
言われた言葉が、あまりにも信じられなくて。
「臆病だよね」などと指摘されても、心当たりは全く無い。
自分の場合は、どちらかと言えば…。
(…臆病じゃなくて、豪胆ってヤツで…)
ブルーも知ってる筈なんだが、と解せないブルーの言葉。
何処からそういうことになるのか、何故、言われたのか。
(……嫌な予感しかしないんだがな……)
こいつに直接、訊くしかないか、とハーレイは腹を括った。
聞こえなかったふりをしたって、無駄だろうから。
案の定、じっとこちらを見ているブルー。
恋人が何と返して来るのか、待ち構えていると分かる表情。
ハーレイは大きく息を吸い込み、赤い瞳を見詰めて尋ねた。
「お前なあ…。臆病って、誰が臆病なんだ?」
「誰って、ちゃんと言ったじゃない!」
ハーレイがだよ、とブルーの答えに迷いは無い。
恋人の視線を真っ直ぐ捉えて、瞳を逸らそうともしない。
自信満々といった姿勢で、ブルーは再び口を開いた。
「ハーレイ、ホントに憶病だもの。…そう思わない?」
それとも自分じゃ分からないかな、とブルーは首を傾げる。
「自分じゃ強いと思ってるかも」と、「ありがちだよ」と。
「おいおいおい…。お前、本気で言ってるのか?」
俺が臆病なヤツだなんて、とハーレイが指差す自分の顔。
「いったい、何処が臆病なんだ」と、「逆だろうが」と。
けれどブルーは、「ううん」と首を左右に振った。
「そう言ってるけど、臆病だよ」と。
「ホントは夜道も怖いかもね」と、「お化けが出るし」と。
(…お化けが出るから、夜道が怖い、と…?)
だったら、此処にも通えないぞ、とハーレイは呆れた。
ブルーの家を訪ねた時には、いつも夕食を御馳走になる。
それから帰ってゆくわけだから、帰りは、当然…。
(夜道になってしまうんだが…!)
いくら車で帰るとはいえ、夜道は夜道。
お化けは車を避けないだろうし、出る時は出て来るだろう。
道の真ん中に立ち塞がったり、上から落ちて来たりして。
(しかし俺はだ、いつも夜道を帰って行って…)
怖いと言ったことなど無いが、とブルーをまじまじと見る。
「何を考えてるのか、サッパリ分からん」と。
なのにブルーは、畳み掛けるように、こう言った。
「どう考えても、臆病だとしか思えないけど?」
絶対、ぼくにキスしないもの、と勝ち誇った顔で。
「キスして、歯止めが利かなくなるのが怖いんでしょ」と。
「だから怖くてキスしないんだよ」と、「臆病だから」と。
(そう来たか…!)
とんでもないことを言いやがって、とハーレイは頭が痛い。
確かに、当たっていないこともないのが、ブルーの台詞。
(うっかり唇にキスしちまったら…)
止まらなくなってしまいそうだ、と恐れていることは事実。
そうならないよう作った決まりが、「キスはしない」こと。
チビのブルーが、前のブルーと同じ背丈に育つまで。
キスだけで止まらなくなってしまっても、大丈夫なように。
(…当たってはいるが、不本意すぎるぞ…!)
臆病はともかく、夜道の方は…、と嘆いた途端に閃いた。
「これだ」と、素晴らしいが反論が。
勝った気でいるチビのブルーを、ペシャンコにする方法が。
(よし…!)
やるぞ、とハーレイは、「困った表情」を浮かべてみせた。
「…降参だ。隠してたんだが、バレちまったか…」
するとブルーの顔が輝き、「じゃあね…」と微笑む。
「臆病だなんて、柔道部員にバレたら困るでしょ?」
キスの代わりにデートでいいよ、と出された条件。
「それで黙っておいてあげる」と、ドライブでもいい、と。
(やっぱり、そういう魂胆か…!)
そうはいかん、とハーレイは、ゆったり腕組みをした。
「いや、俺は臆病者だから…。バレたからには…」
もういいよな、とニヤニヤと笑う。
「実は、夜道が怖いんだ」と。
「晩飯を食ってから、夜道を帰るのは怖すぎてな」と。
「えっ、ちょっと…!」
待って、とブルーは真っ青だけれど、知らんぷり。
「これからは、外が明るい間に帰らせて貰うぞ」」と。
「仕事の帰りも寄らないから」と、「暗くなるしな」と…。
臆病だよね・了
臆病だよね、と小さなブルーが恋人にぶつけた言葉。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に何の前触れも無く。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(臆病だって?)
この俺がか、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
言われた言葉が、あまりにも信じられなくて。
「臆病だよね」などと指摘されても、心当たりは全く無い。
自分の場合は、どちらかと言えば…。
(…臆病じゃなくて、豪胆ってヤツで…)
ブルーも知ってる筈なんだが、と解せないブルーの言葉。
何処からそういうことになるのか、何故、言われたのか。
(……嫌な予感しかしないんだがな……)
こいつに直接、訊くしかないか、とハーレイは腹を括った。
聞こえなかったふりをしたって、無駄だろうから。
案の定、じっとこちらを見ているブルー。
恋人が何と返して来るのか、待ち構えていると分かる表情。
ハーレイは大きく息を吸い込み、赤い瞳を見詰めて尋ねた。
「お前なあ…。臆病って、誰が臆病なんだ?」
「誰って、ちゃんと言ったじゃない!」
ハーレイがだよ、とブルーの答えに迷いは無い。
恋人の視線を真っ直ぐ捉えて、瞳を逸らそうともしない。
自信満々といった姿勢で、ブルーは再び口を開いた。
「ハーレイ、ホントに憶病だもの。…そう思わない?」
それとも自分じゃ分からないかな、とブルーは首を傾げる。
「自分じゃ強いと思ってるかも」と、「ありがちだよ」と。
「おいおいおい…。お前、本気で言ってるのか?」
俺が臆病なヤツだなんて、とハーレイが指差す自分の顔。
「いったい、何処が臆病なんだ」と、「逆だろうが」と。
けれどブルーは、「ううん」と首を左右に振った。
「そう言ってるけど、臆病だよ」と。
「ホントは夜道も怖いかもね」と、「お化けが出るし」と。
(…お化けが出るから、夜道が怖い、と…?)
だったら、此処にも通えないぞ、とハーレイは呆れた。
ブルーの家を訪ねた時には、いつも夕食を御馳走になる。
それから帰ってゆくわけだから、帰りは、当然…。
(夜道になってしまうんだが…!)
いくら車で帰るとはいえ、夜道は夜道。
お化けは車を避けないだろうし、出る時は出て来るだろう。
道の真ん中に立ち塞がったり、上から落ちて来たりして。
(しかし俺はだ、いつも夜道を帰って行って…)
怖いと言ったことなど無いが、とブルーをまじまじと見る。
「何を考えてるのか、サッパリ分からん」と。
なのにブルーは、畳み掛けるように、こう言った。
「どう考えても、臆病だとしか思えないけど?」
絶対、ぼくにキスしないもの、と勝ち誇った顔で。
「キスして、歯止めが利かなくなるのが怖いんでしょ」と。
「だから怖くてキスしないんだよ」と、「臆病だから」と。
(そう来たか…!)
とんでもないことを言いやがって、とハーレイは頭が痛い。
確かに、当たっていないこともないのが、ブルーの台詞。
(うっかり唇にキスしちまったら…)
止まらなくなってしまいそうだ、と恐れていることは事実。
そうならないよう作った決まりが、「キスはしない」こと。
チビのブルーが、前のブルーと同じ背丈に育つまで。
キスだけで止まらなくなってしまっても、大丈夫なように。
(…当たってはいるが、不本意すぎるぞ…!)
臆病はともかく、夜道の方は…、と嘆いた途端に閃いた。
「これだ」と、素晴らしいが反論が。
勝った気でいるチビのブルーを、ペシャンコにする方法が。
(よし…!)
やるぞ、とハーレイは、「困った表情」を浮かべてみせた。
「…降参だ。隠してたんだが、バレちまったか…」
するとブルーの顔が輝き、「じゃあね…」と微笑む。
「臆病だなんて、柔道部員にバレたら困るでしょ?」
キスの代わりにデートでいいよ、と出された条件。
「それで黙っておいてあげる」と、ドライブでもいい、と。
(やっぱり、そういう魂胆か…!)
そうはいかん、とハーレイは、ゆったり腕組みをした。
「いや、俺は臆病者だから…。バレたからには…」
もういいよな、とニヤニヤと笑う。
「実は、夜道が怖いんだ」と。
「晩飯を食ってから、夜道を帰るのは怖すぎてな」と。
「えっ、ちょっと…!」
待って、とブルーは真っ青だけれど、知らんぷり。
「これからは、外が明るい間に帰らせて貰うぞ」」と。
「仕事の帰りも寄らないから」と、「暗くなるしな」と…。
臆病だよね・了
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