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あの人がいたなら
(きっと、ぼくたちしかいないんだよね…)
 今の世界には、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は会えずに終わったハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた人だけれども…。
(ハーレイには、ちゃんと会えたんだけど…)
 それだけだよね、と白いシャングリラで共に生きた仲間の顔ぶれを思う。
 彼らは、きっと何処にもいない、と。
 もしも彼らがいるのだったら、とっくに会えていそうだから。
(……ぼくの聖痕……)
 現れた時は酷い痛みで気絶したけれど、お蔭で戻った前の生の記憶。
 ハーレイの記憶も戻ったのだし、他の仲間が何処かにいるなら、彼らの記憶も戻っただろう。
 なにしろ神が起こした奇跡で、今の自分を青い地球にまで連れて来たほど。
 時の彼方で離れてしまった、ハーレイも先に生まれ変わらせて。
 ちゃんと二人が会えるようにと、出会いの場所まで設けてくれて。
(それほど凄い神様だから…)
 他の者たちがいるというなら、会わせてくれないわけがない。
 彼らの記憶も蘇らせて、他の星に住んでいるのだったら、地球に向かわせて。
(神様だったら、そのくらいは簡単…)
 記憶が戻って来たのだったら、彼らは地球を目指すだろう。
 前の生では死の星だった、母なる地球。
 それが今では青い星になり、誰でも自由に行くことが出来る。
 人間が全てミュウになった今は、とても平和な時代だから。
 「地球へ行こう」と思いさえすれば、宇宙船の切符を買うだけでいい。
(…絶対、行きたくなるだろうから…)
 後は地球に着いた彼らを、この町へ誘導してくるだけ。
 「ブルー」か「ハーレイ」に、バッタリ出会えるように。
 この町へ行きたい気分になった彼らを、「次の角を、右へ」といった具合に移動させて。


 神の手ならば、いとも容易く出来そうなこと。
 記憶が戻った懐かしい仲間を、この町へ連れて来るということ。
(…一人、そうやって連れて来たなら…)
 他の者たちも、続々と姿を現しそうな気がする。
 最初に来たのがヒルマンだったら、旅の途中で、宙港でゼルに出会うとか。
 そのゼルが「この前、エラに会ったぞ」といった具合に、どんどん縁が繋がって。
(……アッという間に、揃っちゃいそう……)
 シャングリラにいた仲間たちが、と思うからこそ、「誰もいない」と思いもする。
 誰一人として、来てはくれないから。
 ハーレイも自分も、未だに誰とも会えていないから。
(…ちょっと残念…)
 独りぼっちじゃないからいいんだけれど、とハーレイの顔を思い浮かべる。
 前の生の最期に切れたと思った、ハーレイとの絆は、ちゃんと繋がっていた。
 青い地球の上で再び出会えて、今度こそ一緒に生きてゆける。
 チビの自分が、結婚出来る年になったなら。
 誰にも恋を隠すことなく、二人で結婚指輪を嵌めて。
(だから充分、幸せだけど…)
 他のみんなにも会いたかったな、と贅沢なことを思ってしまう。
 せっかく青い地球があるのに、他のみんなはいないだなんて、と。
(…みんなに会えたら…)
 同窓会が出来るのにな、と懐かしくなる仲間たち。
 白いシャングリラで目指した地球で、同窓会が出来たなら、と。
(あちこちの星から、みんなが、この町にやって来て…)
 何処かのホテルの宴会場とかで、それは賑やかな同窓会。
 あの時代には無かった料理やお菓子を、会場にドッサリ用意して。
 「これも食べてみてよ」と、日本の文化を復活させている、この地域の名物料理も出して。
(…今の時代だから、みんな知ってはいるだろうけど…)
 実際には食べたことが無い、という料理だって多いだろう。
 宇宙は広くて、文化も山ほどあるものだから。
 SD体制があった時代とは、まるで違った世界だから。


(ぼくは、お酒は飲めないんだけど…)
 ハーレイたちは、地球の銘酒をズラリと並べて楽しんでいそう。
 「ブルーは子供だから、飲んじゃ駄目だぞ」と、飲まないように目を光らせながら。
(…だけど、みんなが楽しいのなら…)
 ぼくはジュースで構わないや、と文句を言う気は全く無い。
 あちこちで「乾杯!」とやっていたって、ジュースを飲んでいればいいや、と。
(…そういえば、ゼルやヒルマンとかは…)
 前と同じに、すっかり年を取ってるのかな、と別の方へと向かった思考。
 若い姿の頃の彼らも、前の自分は知っているけれど…。
(…生まれ変わって来ていたって…)
 なんだか、年を取っていそう、と確信に満ちた思いがある。
 今のハーレイがそうだったように、「前の姿」が気に入っていて。
 記憶が戻っていない頃から、順調に年を重ね続けて。
(ゼルは禿げちゃって、ヒルマンも髭まで真っ白で…)
 それでも二人は、満足なのに違いない。
 「うんと貫禄があるじゃろうが」と、ゼルなんかは髭を引っ張って。
 ヒルマンだって、「お爺ちゃんらしくて、いいと思わないかね?」などと。
(……お爺ちゃん……)
 そうだ、とハタと手を打った。
 今の時代なら、ゼルもヒルマンも、本物の「おじいちゃん」になれる筈。
 若かった頃に結婚したなら、息子や娘が生まれたならば…。
(その子供たちが大きく育って、結婚して…)
 孫が生まれて、正真正銘、「おじいちゃん」。
 同窓会を開いたならば、そういうゼルやヒルマンが来て…。
(可愛いだろう、って…)
 自慢の孫の写真を見せて回るのだろうか、他の仲間に。
 「まだ幼稚園に行ってるんじゃが、利口な子でのう…」なんて。
(…女の子だったら、美人じゃろう、って…)
 自慢するよね、と可笑しくなる。
 きっとゼルなら、「どうじゃ、わしに似て美人じゃろうが」とやるだろうから。


(…ゼルに似てたら、とても大変…)
 女の子だよ、と思うけれども、「おじいちゃん」というのは、そんなもの。
 可愛い孫を自慢したくて、間違った方向へ突っ走ったり。
(ブラウとかが、「馬鹿じゃないのかい?」って笑うんだよ)
 「あんたに似てたら、美人どころじゃないだろう?」などと、遠慮なく。
 ヒルマンだって、「そうだよ、似ていないからこそ、美人じゃないかね」と。
(…ふふっ、おじいちゃんになった、ゼルやヒルマン…)
 似合いそう、と微笑ましい光景を考えていたら、違う思考が降って来た。
 「誰かが、孫になっちゃってたら?」と。
(…ゼルやヒルマンの孫なんだけど…)
 前の生での記憶を持った、白いシャングリラの仲間たちの誰か。
 そういうことだって、あるかもしれない。
 神様の粋な計らいのお蔭で、ニナやシドやら、ヤエやルリなど。
(……うん、それだって……)
 素敵かもね、と笑みが零れる。
 同窓会の席にヒルマンやゼルが、「孫なんだぞ」と連れて来る彼ら。
 まだ幼稚園に通っている利口なシドとか、美人になりそうなルリだとか。
(みんな、ビックリ…)
 おじいちゃんと、お孫さんだってビックリだけど、と記憶が戻った時のことを考えてみる。
 ある日突然、お互い、戻って来た記憶。
 白いシャングリラで生きた時代に、機関長や先生だった「おじいちゃん」に…。
(…教え子だった、シドやルリだよ?)
 幼稚園児のシドなんかだと、いくら利口でも、戸惑うだろうか。
 「おじいちゃん」が誰か、思い出したら。
 前の自分が誰だったのかが、鮮やかに頭に蘇ったら。
(…おじいちゃんの方でも、ビックリ仰天…)
 可愛い孫をどう扱ったらいいのだろう、と。
 なにしろ、シドやルリなのだから。
 可愛い孫には違いなくても、お互い、遠い時の彼方で、別の出会いをしていたのだから。


(…同窓会には、絶対、連れて行ってよね、って…)
 駄々をこねられて、連れて来るのはいいのだけれども、困りそうな日常。
 おじいちゃんは強く出られないけれど、孫の方は遠慮しないから…。
(…前と同じで頑固で嫌い、って…)
 プイッとそっぽを向かれるだとか、ゼルの場合は、大いにありそう。
 ヒルマンだったら、上手くやれるだろうに。
(元々、子供たちの面倒を見てたし…)
 困ることなんて有り得ないよね、と頷いたけれど、どうだろう。
 「孫」になった子が「誰か」によっては、ヒルマンだって困るのだろうか。
(……えーっと…?)
 ジョミーだったら、と考えたけれど、困りそうには思えない。
 ソルジャー・シンが幼稚園児でも、少年くらいに育っていても…。
(ヒルマンだしね?)
 最初は驚いても、慣れてしまったら余裕たっぷり、いい「おじいちゃん」。
 お小遣いをあげたり、食事に連れて行ったりもして。
(前の君は、とても苦労をしたからね、って…)
 うんと甘くて、きっとジョミーが恐縮するほど、色々なことをしてあげそう。
 「同窓会で地球に行ったら、あちこち旅行してみるかね?」などと。
 同窓会が終わった後にも、青い地球に長く滞在して。
(…ヒルマンだもんね…)
 誰が「孫」でも、困らないよ、と思った所で、頭に浮かんだ別の顔。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分を撃った人間。
(……ヒルマンの孫、キースだったとか?)
 絶対、無いとは言えないよね、と気付いた「そのこと」。
 生まれ変わって記憶を取り戻すのは、ミュウだけだなんて限らない。
 人類だって、同じに生まれ変わっていそう。
 そして何処かで、前の生での記憶を持った知り合いと巡り会ったりもして。
(だから、キースが…)
 ヒルマンの孫でも変じゃないよね、と思い至った。
 今の平和な時代だったら、何の支障も無いのだから。


(…キースのおじいちゃんが、ヒルマン…)
 それって凄い、と見開いた瞳。
 いったい、どんな具合だろうかと、流石のヒルマンも困るだろうか、と。
(…孫なんだから、キースは、まだまだ子供で…)
 前のキースが水槽の中で過ごした年齢、そんな人生の真っ最中。
 幼稚園児ということだってあるし、前の時代なら目覚めの日にも届かない下の学校の子とか。
(十四歳になっていたって、今の時代じゃ、子供なんだし…)
 キースの方も、仰天するのに違いない。
 「どうなったんだ」と、「今の私は、子供なのか?」と。
 その上、「おじいちゃん!」と慕っている祖父が、なんとヒルマン。
 宿敵だったミュウの長老の一人で、もちろん「ソルジャー・ブルー」のことも…。
(よく知ってるから、困っちゃいそう…)
 前の「自分」が仕出かしたことを、なんと伝えたらいいのかと。
 「いっそ一生、黙っていようか」と、可哀想なくらいに悩んだりもして。
(…ヒルマンだって、キースなんだ、って分かるから…)
 突然、口数が少なくなった「孫」を心配することだろう。
 「何か悩みでもあるのかね?」と、優しく尋ねて、気分転換にと連れ出したりして。
(…やっぱり、ちょっぴり困るのかもね?)
 だけど、素敵なおじいちゃんだし、キースも幸せになれそうだよ、と嬉しくなる。
 ヒルマンの孫に生まれられたら、白いシャングリラの仲間たちにも馴染めそう、と。
(…ハーレイだって、キース嫌いが治るよね、きっと)
 そんな世界なら良かったのに、と夢を見るのが止まらない。
 「もしも、あの人がいたなら」と。
 白いシャングリラの仲間もそうだし、敵だった人類側の人間。
 キースやシロエや、それにマツカやグレイブたちにも、会ってみたいな、と…。



           あの人がいたなら・了


※シャングリラの仲間たちに会えたなら、という想像から、ブルー君が考え付いた「孫」。
 ヒルマンの孫がキースだったらビックリですけど、きっとキースには、いいおじいちゃんv








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