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切っちゃおうかな

「あのね、ハーレイ…」
 ぼくの髪の毛なんだけど、と小さなブルーが指差した頭。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 髪の毛が、どうかしたのか?」
 何も絡まってはいないようだが、とハーレイも目を遣る。
 ブルーの綺麗な銀色の髪に。
 前のブルーと全く同じに、整えられたヘアスタイル。
 ブルーは、銀色の髪を示して、こう言った。
 「切っちゃおうかな?」と。
「髪の毛を…? 切りに行くには、まだ早くないか?」
 そんなに伸びてはいないだろう、とハーレイは首を傾げた。
 この前、ブルーが髪をカットしに行ったのは…。
(…今よりも、もっと伸びてた時で…)
 今だと、かなり早すぎるような…、とハーレイでも分かる。
 下手に切ったら、「ソルジャー・ブルー風」にならない髪。
 うんと短くなってしまって、ただのショートカットに…。
(…なりそうだがな?)
 どうなんだろう、と湧き上がる疑問。
 「それとも、プロだと違うのか?」とも。


 ハーレイには、行きつけの理髪店がある。
 店主は、キャプテン・ハーレイの熱烈なファン。
(俺が行くのを、楽しみに待っていてくれて…)
 それは見事に、キャプテン・ハーレイ風に仕上げてくれる。
 お蔭で、今でも前の生の頃と全く同じに…。
(キャプテン・ハーレイでいられるわけだが…)
 ブルーの場合も、その辺の事情は変わらない。
 「ソルジャー・ブルーにそっくりだから」と、今の髪型。
 幼い頃から、ずっと「ソルジャー・ブルー風」。
(…同じ店に通い続けているなら、担当もいるし…)
 少し早めに出掛けて行っても、普段通りになるのだろうか。
 「お待たせしました」と、ソルジャー・ブルー風の髪型に。
(…そりゃまあ、プロはプロだしなあ…)
 素人とは違うのかもしれん、と勝手に納得したのだけれど。
「ハーレイ、聞いてる?」
 切っちゃおうかと思うんだよ、とブルーが再び口を開いた。
 「今より、うんと短めに」と。
 クラスメイトがやってるみたいな、ショートカット、と。


「なんだって!?」
 本気で短くする気なのか、とハーレイは仰天してしまった。
 普通の男子生徒の髪と言ったら、ブルーの髪の長さの…。
(半分どころの騒ぎじゃなくて、だ…)
 生徒によっては、丸刈りに近い者だっている。
 其処まで短くしないにしたって、前のブルーとは…。
(似ても似つかない髪になっちまうんだが!)
 想像もつかん、とブルーの顔を、まじまじと見る。
 「いったい、どうなってしまうのだろう」と。
 「ちゃんとブルーに見えるだろうか」と、「別人かも」と。
 けれどブルーは、涼しい顔で頷いた。
 「ショートカットにしたって、いいと思うんだよね」と。
「だって、頑張って伸ばしていても…」
 手入れが面倒なんだもの、とブルーが指に絡めた髪。
 「寝癖もつくし」と、「ハーレイも前に見たじゃない」と。
(…それは確かに、そうなんだが…)
 寝癖がついたままのブルーは、見たことがある。
 つい、からかってしまったけれども、そんな髪でも…。


「もったいないとは、思わないのか?」
 せっかく、お前に似合ってるのに、とブルーを見詰めた。
 「何も短く切らなくても」と、「今のがいいのに」と。
 するとブルーは、「うーん…」と一人前に腕組み。
 「ぼくには、そうは思えないけど」と。
「今のハーレイ、ぼくの髪型なんか気にしてないでしょ?」
 チビだと思って、とブルーは上目遣いに見上げる。
 「だから、短く切ってしまっても、どうでも良さそう」と。
「おいおいおい…」
 俺は大いに気にしているぞ、とハーレイは慌てた。
 いくらチビでも、ブルーは「そっくり、そのまま」がいい。
 前のブルーに似ているのだから、変えるよりかは…。
(今のままがいいに決まってるだろう!)
 そう思うから、それを真っ直ぐ、ブルーにぶつけた。
 「そのままがいい」と。
 「俺は、そいつが気に入っている」と、「今のお前が」と。
 そうしたら…。


「それなら、キスをしてくれないと…」
 ぼくは信じやしないからね、と得意げに微笑んだブルー。
 「キスをちょうだい」と、「唇にだよ?」と。
(…この野郎…!)
 そういう魂胆だったのか、と、やっと分かったものだから。
 ブルーの狙いに気が付いたから、椅子から立ち上がって…。
「よしきた、それなら任せておけ」
 俺が上手に切ってやろう、とニヤリと笑った。
 「お母さんにハサミを借りて来よう」と。
 「無いなら、車でひとっ走りして買って来るから」と。
「ちょっと、ハーレイ…!」
 それは酷いよ、とブルーは悲鳴だけれど。
 「冗談だってば」と、「本気じゃないよ」と必死だけれど。
(たまには、しっかり懲りろってな!)
 今日はお灸をすえてやる、と浮かべた笑み。
 「まあ、任せろ」と。
 「丸刈りだっていいもんだぞ」と、「バリカンでな」と…。



         切っちゃおうかな・了








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