(…ハーレイと一緒に、地球にいるんだよね…)
今日は会えずに終わっちゃったけど、と小さなブルーが思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
大好きで、たまらないハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた、愛おしい人。
長い長い時を二人で飛び越え、この地球の上で再び出会った。
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が焦がれた星で。
(神様からの、うんと素敵なプレゼント…)
二人で地球に来られたなんて、と考えただけで嬉しくなる。
前の生では、どう頑張っても手が届かなくて、諦めるしかなかった地球。
まだ座標さえも掴めない内に、前の自分の寿命が尽きてしまうと分かって。
青い水の星は夢でしかなくて、肉眼で見ることは叶わないのだと。
(…そう思った時より、長生きしたけど…)
昏睡状態で眠り続けて十五年ほど、延びていた命。
けれども、それも失くしてしまった。
ミュウの未来を切り開くために、白いシャングリラを守った時に。
(…それは後悔しなかったけど…)
今でも悔いは無いのだけれども、とんだオマケがついて来た。
メギドでキースに撃たれた痛みで、右手に持っていた温もりを落として。
最後まで持っていたいと願った、愛おしい人の温もりを。
(ハーレイとの絆が切れちゃった、って…)
泣きじゃくりながら死んでいった時、地球のことなど微塵も思いはしなかった。
ハーレイに二度と会えないことが、悲しくて。
深い悲しみと激しい絶望、地球のことなど、針の先ほども…。
(考えないまま、死んじゃったのに…)
神様は、ちゃんと覚えていてくれたらしい。
前の自分が焦がれた星を。
「いつか行きたい」と願い続けた、青く輝く母なる地球を。
そして起こった、素晴らしい奇跡。
神様がくれた、最高の御褒美。
(…ハーレイに会えて、二人とも、地球に生まれて来てて…)
これから二人で生きてゆくのは、焦がれ続けた青い地球の上。
前の自分が幾つもの夢を描き続けた、憧れの星。
(ホントに、最高…!)
チビだったのは、ちょっぴり残念だけど、と細っこい自分の手足を眺める。
せっかくハーレイと再会したのに、今の自分はチビだった。
十四歳にしかならない子供で、まだハーレイと暮らせはしない。
結婚出来る年になるまで、それはお預け。
(でも、ハーレイに会えただけでも、うんと幸せ…)
それに地球だし、と見回す部屋。
今の自分の、小さなお城。
カーテンが閉まった窓の向こうには、地球の夜空があるだろう。
前の自分が見たいと願った、地球の星座が輝く星空。
(ホントのホントに、最高だよね…)
こうして地球に来られたなんて、と緩んだ頬。
白いシャングリラで暮らした頃には、地球と言えば夢の星だったのに。
(…それに、前のぼくが、地球に行けても…)
青い地球など無かったのだ、と今の自分は知っている。
ハーレイからも聞いたけれども、歴史の授業でも教わったこと。
SD体制が敷かれた時代に、青い水の星は何処にも無かった。
地球を蘇らせるために作られたシステム、それは結果を生み出さなかった。
(死の星のままで、生き物は何も生きられなくて…)
砂漠と毒の海に覆われた地球。
皮肉なことに、SD体制が崩壊したのが、再生の引き金になったという。
グランド・マザーを失い、真っ赤に燃え上がった地球。
まるで不死鳥が蘇るように、炎の中から、青い水の星が復活した。
だから今では、青い地球がある。
今の自分が生まれて来た星、ハーレイと再び出会えた星が。
(今度は、最初から地球の上だし…)
青い地球で生きていけるんだよね、と神様の奇跡に感謝する。
なんて素晴らしい奇跡なのかと、地球までついて来ただなんて、と。
(神様が、覚えていてくれたから…)
青い地球の上に生まれたんだよ、と嬉しいけれども、一番の幸せは、今のハーレイ。
またハーレイと出会えた上に、二人で生きてゆけるから。
今度は恋を隠すことなく、大きくなったら結婚して。
(…地球に来られても、ハーレイがいなきゃ…)
きっと幸せじゃなかったよね、と心から思う。
どんなに地球が素敵な星でも、前の自分の夢が叶っても。
(ハーレイとの絆が、切れちゃっていたら…)
記憶が戻った今の自分は、泣き暮らすことになっただろうか。
両親の前では、平気な顔をしていても。
夜が来る度、この部屋で一人、ハーレイを想って、涙を流して。
「どうしてハーレイは、此処にいないの」と、「ぼくだけ、地球に来ただなんて」と。
(…絶対、そう…)
そうなってたよ、とハッキリと分かる。
「青い地球より、ハーレイの方が大事なんだよ」と。
ハーレイがいない青い地球など、アルテメシアよりも味気ない。
前の生で長い時を暮らした、あの雲海の星よりも。
(……あれ?)
だったら、地球じゃなくっても…、と別の方へと向かった思考。
今のハーレイさえいてくれたならば、二人で生まれて来られた星は…。
(……地球じゃなくっても、かまわないのかも……)
そうじゃないの、と自分自身に問い掛けた。
「どうしても、地球じゃなくちゃ駄目?」と。
地球とは違った、何処か、別の星。
そういう所に生まれていたなら、どうだったのか、と。
ハーレイとは巡り会えたけれども、地球までは、うんと遠いとか。
二人で夜空を見上げてみたって、太陽の姿も見えないだとか。
(…その可能性も、あったんだよね…)
神様の考え方によっては、と今更ながらに気が付いた。
「地球だとは、限らなかったかも」と。
宇宙はとても広いのだから、暮らしやすい星は幾つでもある。
わざわざ地球に限らなくても、大勢の人々が、幸せに暮らしている星が。
(そういう星の中の一つに…)
今の自分は、生まれ変わっていたかもしれない。
其処で育って、十四歳になったなら…。
(やっぱり、聖痕が現れちゃって…)
先に生まれていたハーレイと、無事に再会するのだろう。
地球とは違った、何処かの星の学校で。
きっとハーレイは古典の教師で、遅れて赴任して来た所で。
(きっと救急車は、何処の星でも同じだよね?)
怪我だと思って運ばれちゃうんだ、とハーレイとの出会いを思い返した。
まるで違う星に生まれていたって、その辺りは変わらないだろう。
二人の記憶が戻って来たなら、その星の上で恋が始まる。
遠く遥かな時の彼方で、一度は失くしてしまった恋。
それの続きが、奇跡のように。
今のハーレイと出会えたならば、今の自分は、チビの生徒で。
(…他所の星でも、ハーレイはキスしてくれないだろうし…)
結婚出来る年も十八歳で、まだ先のこと。
それでも、幸せだと思う。
また、ハーレイに出会えただけで。
「切れてしまった」と思って泣いた絆が、切れずにいてくれたのだから。
(もうそれだけで、幸せなんだよ)
地球まで、うんと遠くたって…、と弾き出した答え。
「地球じゃなくっても、かまわないよ」と。
神様が新しい命をくれたのならば、それだけで。
ハーレイと二人で生きてゆけるのなら、その星が地球ではなかったとしても。
地球ではない、何処か別の星。
其処にハーレイと生まれて来たなら、どうだったろう。
(…地球じゃなくっても、かまわないけど…)
どんな暮らしになっていたかな、と想像してみることにした。
もちろん、ハーレイと生きてゆく日々を。
結婚出来る年になるまで、二人で待っている間は…、と。
(…もしも、太陽が見える星だったなら…)
ソル太陽系の中心に位置する、地球の太陽。
遠くの星から眺めたならば、夜空に輝く星たちの一つ。
(ハーレイが、家に来てくれた時に…)
夜に二人で見上げるだろう。
「あれが太陽?」と、博識なハーレイに確認しながら。
「あそこに、地球があるんだよね」と。
前の生では座標も知らずに、見られないままで終わった地球。
今も肉眼では見えないけれども、あの方向に「地球があるんだ」と。
(…家にあるような望遠鏡では、無理だよね…)
天文台に行かないと…、と考えるまでもない、地球を眺めるための方法。
そういう星に生まれたのなら、いつかデートに出掛ける時は…。
(地球が見たいな、って…)
強請ってみるのもいいかもしれない。
「地球を見られる天文台まで、連れて行ってよ」と。
ハーレイの車で夜のドライブ、地球が見られるシーズンに。
(…地球は、公転してるんだから…)
きっと、いつでも見られるわけではないだろう。
ついでに、自分たちが住んでいる星も、其処の太陽の周りを回る。
上手く季節が重ならないと、天文台に行ったって…。
(太陽は見えても、地球は何処にも…)
見えてくれないのに違いない。
どんなに凄い望遠鏡でも、季節はどうにも出来ないから。
地球が観測出来るかどうかは、きちんと調べて出掛けないと。
(…ふふっ…)
座標が分かっていたって駄目、と可笑しくなった、地球を見ること。
宙港に行けば、地球に向かう定期便があっても、見られない地球。
(もし、ハーレイが旅行したことがあったなら…)
せがんで、記憶を見せて貰おう。
前の自分が、フィシスの地球を見ていたように。
「ねえ、ハーレイの地球を見せてよ」と、手を差し出して。
(…ぼくのサイオン、うんと不器用だろうけど…)
足りない分は、ハーレイが補助してくれる筈。
「ほら、手を出せ」と、「お前、不器用になっちまったしな?」と。
(…今のハーレイが見て来た地球なら…)
機械がフィシスに植え込んだ記憶より、ずっと鮮明。
それに本物の地球の記憶で、今のハーレイのガイドもつく。
(食べた食事も、ちゃんと見せてよ、って…)
強請ってみたなら、レストランにも入ってゆけるに違いない。
もっと気さくな、露店などで食べた時の記憶も。
(そういうのを何度も見せて貰って、「行きたいな」って…)
ハーレイに言ったりするだろうけれど、その店でなくても、気にしない。
大きく育って、ハーレイと食事に出掛ける時には、生まれた星で、きっと満足。
「地球のお店の方がいいな」という、とても我儘な注文などは…。
(…きっと、しないよ)
運があったら、いつか行けるよ、と浮かんだ笑み。
「行けないままでも、かまわないもの」と。
一生、地球は遠いままでも、幸せに生きていけると思う。
今のハーレイと一緒なら。
結婚して、同じ家で暮らして、何処に行くのも二人なら。
(…地球じゃなくっても…)
ぼくは幸せ、と自信を持って言い切れる。
青い地球より、ハーレイの方が大切だから。
ハーレイさえ側にいてくれるのなら、地球は無くても気にしないから…。
地球じゃなくっても・了
※ハーレイ先生がいてくれるのなら、地球に生まれて来なくてもいい、と思うブルー君。
地球に生まれた今の暮らしは最高ですけど、ハーレイ先生が一緒でないと意味が無いのですv
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