「ねえ、ハーレイ。ぼく、お料理は…」
全然、詳しくないんだけれど、とブルーが持ち出した話題。
二人きりで過ごす休日の午後に、何の前触れも無く。
料理の話はしていなかった筈だけれども、突然に。
だから、ハーレイは、首を傾げた。「料理だって?」と。
「なんだ、いきなり、どうしたんだ?」
「お料理だってば、ホントに分かってないんだけれど…」
前のぼくだった頃も含めて、と小さなブルーは肩を竦めた。
「ホントのホントに、全然、ダメ」と。
「ふうむ…。まあ、今のお前も、やってないしな」
お母さんが作ってくれるんだから、とハーレイは笑う。
「料理上手な人がいるんじゃ、そうなっちまう」と。
料理をするのが好きだったならば、別だけれども、と。
「そうなんだよね…。ハーレイは好きで、得意なんだよね」
今のハーレイも、前のハーレイも、と頷くブルー。
「料理には、うんと詳しそう」と。
(…いきなり料理の話と来たぞ)
お茶の時間の最中なんだが、とハーレイは首を捻った。
ブルーの母が焼いたケーキと、香り高い紅茶。
どちらも料理の話題には…。
(繋がりそうにないんだがな?)
昼飯だって普通だったぞ、と思い出すメニュー。
それとも今夜は、何か特別な料理が出ると言うのだろうか。
(…その可能性もあるが、どうなんだ?)
分からんな、と考えていたら、ブルーが続けた。
「詳しそうだから、確認だけど…。お料理の食材って…」
新鮮な方がいいんだよね、という質問。
「食べるんだったら、新鮮な間がいいんでしょ?」と。
「ほほう…。夕食は鍋なのか?」
鮮度の話が出るんだったら、魚介類か、と尋ねてみた。
「お父さんが釣りに出掛けたとか、そんなのか?」と。
「そうじゃないけど…。ちょっと質問」
晩御飯が何かは知らないよ、とブルーは首を横に振った。
「ママには何も聞いてないもの」と「関係無いよ」と。
「ただの興味というヤツか…。まあ、そうだな」
新鮮な間が一番だよな、とハーレイは大きく頷いた。
「古くなったら、美味くなくなっちまうから」と。
鮮度が落ちてしまわないよう、冷凍する手もあるけれど。
保存用に加工する手もあるのだけれども、食べるのが一番。
その食材が新鮮な間に、それに似合いの調理法で。
今ならではの食べ方だったら、魚なら、刺身。
「そっか、お刺身…。新鮮じゃないとダメだよね…」
「そうだろう? 活きのいい間に捌かないとな」
新鮮な魚は実に美味い、とハーレイは笑む。
「 釣った魚を、その場で食うのは最高だぞ」と。
「美味しそう! ハーレイのお父さん、釣り名人だし…」
いいよね、とブルーは羨ましそう。
「ハーレイも、食べたことがあるんだ」と、「いいな」と。
「美味いんだぞ。お前も、いつかは連れてってやる」
親父とおふくろに紹介したらな、と瞑った片目。
「そしたら、みんなで釣りに行こう」と。
「約束だよ? 凄く楽しみ!」
連れて行ってね、とブルーは大喜びで赤い瞳を輝かせた。
「ハーレイのお父さんに、釣りを教わるんだ」と。
「その前に、大きくならんとな? しっかり食って」
「うん。新鮮な間に食べるのがいいんだよね!」
そうなんでしょ、と確認されたから、苦笑した。
「おいおい、お母さん任せのくせに」と。
「お前は自分で作らないだろ」と、「昔も今も」と。
「…そうだけど…。ハーレイは自分で作れるから…」
特に今はね、と真っ直ぐ見詰めて来るブルー。
「家でお料理しているんでしょ」と、「殆ど毎日」と。
「当然だろうが、一人暮らしをしてるんだから」
食材にも気を付けているぞ、と自信たっぷりに返す。
「買い出しの時は、新鮮なのを選んでいるな」と。
魚はもちろん、野菜も、それに果物も、と。
そうしたら…。
「だったら、新鮮な間に食べるべきだよ」
鮮度が落ちたらダメなんでしょ、とブルーが言った。
「放っておくなんて、絶対、ダメ」と。
「…何の話だ?」
何処に、そういう食材が、とテーブルの上を確認する。
ケーキの上には、フルーツは載っていないのに、と。
「分からない? 此処にあるでしょ、新鮮なのが!」
ぼくの唇、とブルーが指差す自分の唇。
「ハーレイ、ちっとも食べないんだもの」と。
「育ったら鮮度が落ちてしまうよ」と、「新鮮な間に」と。
「馬鹿野郎!」
それは別だ、とブルーの頭にコツンと軽く落とした拳。
「ついでに言うなら、肉というヤツは違うんだ」と。
「肉ってヤツはな、熟成させてから食うモンだ!」
覚えておけ、と食材の知識もぶつけておいた。
「新鮮すぎる肉は、美味くないんだ」と。
「肉は熟成させるモンだ」と、「お前もだな」と…。
新鮮な間に・了