「ねえ、ハーレイ。神様ってさ…」
ちょっと酷くない、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然、真剣な顔で。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「酷いって…。いったい何があったんだ?」
今日のお前は元気そうだが、とハーレイの方も首を傾げた。
いきなり「神様は酷い」と言われても、意味が掴めない。
ブルーが風邪でも引いていたなら、直ぐに納得するけれど。
(せっかくの休日に風邪だなんて、と言うのなら…)
不満たらたらになって当然、神様を恨みもするだろう。
とはいえ、今日のブルーは至って普通。
虚弱な身体の持ち主にしても、この様子なら充分、健康。
(なのに、神様は酷いってか?)
分からんぞ、と首を捻っていると、ブルーが重ねて言った。
「だって、本当に酷いんだもの」と。
「あのね…。ハーレイは、今は、何歳?」
急に投げ掛けられた質問。
「神様は酷い」と、どう繋がるのか分からない。
けれど、答えないと、話は進んでくれないだろうし…。
「俺の年なら、お前と同じでウサギ年だから…」
二十四歳、足すだけだな、と指を右手で二本、左手で四本。
「干支が二回り違うんだから、そうなるだろう」と。
「ほらね、やっぱり酷いんだってば」
神様はさ、とブルーは桜色の唇を尖らせた。
「違いだけでも二十四年」と、「ぼくは十四歳なのに」と。
「なるほどな…。お前の不満は、だいたい分かった」
チビに生まれたのが嫌なんだな、とハーレイは大きく頷く。
「俺より遥かに年下のチビで、子供な件か」と。
「そう! だって、あんまりすぎるんだもの」
不公平だよ、とブルーは膨れた。
「ハーレイだけ、先に大人にして」と、「酷いってば」と。
ブルーが言うには、条件は、もっと平等にすべき。
同じに生まれ変わらせるのなら、年齢の方も公平に、と。
「そう思わない? ちょっと酷いと思うんだけど…!」
この年の差はどうかと思う、とブルーは更に言い募る。
「もっと縮めてくれなくっちゃ」と、「公平にね」と。
(…要するに、自分がチビなのが嫌で…)
もっと大人でいたいんだろうが…、とハーレイにも分かる。
ブルーの気持ちは理解出来るし、確かに思わないでもない。
「ブルーが、もっと大人だったら良かったのに」と。
結婚出来る十八歳になっていたなら、今頃は、とうに…。
(一緒に暮らしていたんだろうしな)
ちゃんと結婚式を挙げて、と思ったことは何度もある。
「どうして、こうなっちまったんだ」と。
ブルーが二十四歳も年下の、チビに生まれて来るなんて。
この差が、せめてニ十歳なら、結婚出来る年なのに、と。
「黙っちゃったってことは、ハーレイだって同じでしょ?」
そうなんでしょ、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
「神様は、ちょっと酷いと思う」と「不公平だよ」と。
(……うーむ……)
確かにな、と頷きそうになるのだけれども、どうだろう。
ブルーと自分を、生まれ変わらせてくれた存在が、神。
青く蘇った水の星の上に、前の生と同じ姿までつけて。
(この上、俺まで文句を言ったら…)
バチが当たってしまいそうだ、と頭の中で懸命に考える。
どうすれば「不公平」な現状を、違うと否定出来るかと。
(公平だったら、どうなるんだろうな?)
年の差が二十四も無ければ…、と数える数字。
「ニ十歳でも、大きすぎるか」と、「不公平だな」と。
(…そうなってくると…)
妥当な数字は、五年くらいといった所か。
いや、五年でも大きいだろうか、三年くらい…。
(そうだな、三年くらいとすると…)
どんなもんだ、と想像してみて、「それだ!」と閃いた。
「公平だったら、大変だぞ」と。
「俺も、ブルーも、困っちまう」と、「とんでもない」と。
これならいける、とブルーを真っ直ぐ見詰めて言った。
「不公平な方がいいと思うぞ」と。
「えっ…?」
なんで、とブルーは即座に抗議したけれど。
「公平だったら、結婚だって出来ていたよ」と言うけれど。
「お前の目当ては、やっぱりソレか。しかしだな…」
公平にするなら、年の差は三年くらいだろう。
お前が十四歳だと、俺は十七、同じ学校の生徒だな。
つまり、お前が、前のお前と同じ姿になる頃も…。
俺は素敵に若いわけだが、それでいいのか、若い俺でも?
どうなんだ、と尋ねてやったら、ブルーは叫んだ。
「不公平でいい!」と。
「二十四歳違ってもいいよ」と、「公平だと、嫌」と。
「ほほう…。若い俺だと、頼りにならん、と」
「そうじゃないけど! そうじゃないんだけど…」
やっぱり嫌だ、と騒いでいるから、これでいい。
神様がくれた新しい命に、文句をつけてはいけないから。
たとえ少々不満があっても、そこは我慢をすべきだから…。
不公平だよ・了
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