「ねえ、ハーレイ」
少し気になっていたんだけど、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、ハーレイを見詰めて。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(…来た、来た、来た…)
いつものヤツが、とハーレイは心で苦笑した。
これからブルーが投げて来るのは、唐突な質問。
休日の午後によくあることで、中身の方も分かっている。
(どうせ、ロクでもないヤツで…)
真面目に聞くだけ無駄ってモンだ、と学習済み。
とはいえ、無視することも出来ないし…。
「気になるって、いったい何が気になるんだ?」
一応、話を聞いてやろう、と微笑み掛けた。
「話して、お前の気が済むならな」と。
そう言ってやれば、答えが返ると思ったのに。
勢い込んで喋り出しそうなのに、そうではなかった。
ブルーは逆に黙ってしまって、おまけに顔も俯き加減。
(…どうなってるんだ?)
もしかして深刻な問題だろうか、と急に心配になって来た。
いったい何処から話せばいいのか、悩むくらいの心配事。
「…おい。そいつは、俺には話し辛いのか?」
どんなことだって聞いてやるが、とブルーの瞳を覗き込む。
「ダテに長生きしちゃいないしな」と。
「今の俺なら、お前より、ずっと年上なんだ」と。
するとブルーは、「怒らない?」と赤い瞳を瞬かせた。
「ハーレイの御機嫌、悪くなるかも」と、真剣な顔で。
「ホントに前から気になってたけど、言えなくって」と。
(…うーむ…)
こいつは判断に迷う所だ、と悩ましい。
ロクでもないことが待っているのか、そうではないのか。
(…しかしだな…)
本当に深刻な悩みだったら、放っておくなど、男が廃る。
これでもブルーの恋人なのだし、おまけに教師。
(よし…!)
正面から受け止めてみるとするか、と腹を括った。
「怒らないから話してみろ」と、笑みを浮かべて。
「俺の心は、そんなに狭くはないからな」と。
「前から気になっていたと言ったな、何なんだ?」
どうやら俺のことらしいが、と尋ねたら、ブルーは頷いた。
「そうなんだけど…。ハーレイ、ぼくが嫌いなんでしょ?」
「はあ?」
「だからね、ぼくが嫌いなんでしょ?」
そうだよね、と俯いてしまったブルー。
「きっとそうだと思ってるから」と、「ぼくが嫌い」と。
「なんだって…?」
どうして、そういうことになるんだ、と驚いたハーレイ。
ブルーを嫌ったことなど無いし、もちろん嫌いな筈が無い。
前の生から愛し続けて、再び巡り会えたのに。
小さなブルーと出会った時から、恋の続きをしているのに。
嫌うことなど有り得ないのに、何故、勘違いされるのか。
けれどブルーは、俯いたまま。
「…ホントのことなんか、言えないよね」と呟いて。
「だって、ハーレイ、守り役だから」と。
「おいおいおい…。俺はお前を嫌っちゃいないぞ」
嫌ったことなど一度も無いが、とブルーに語り掛けた。
「前からだなんて、とんでもない」と。
「でも…。それ、前のぼくがいたからでしょ?」
だからだよね、とブルーは顔を伏せたまま。
「今のぼくとは違うんだもの」と、「何もかも、全部」と。
(…こいつは困った…)
ますます答えに悩んじまう、とハーレイが眉間に寄せた皺。
ブルーには何か魂胆があるのか、本当に勘違いなのか。
勘違いをしているのだったら、急いで誤解を解かなければ。
(しかしだ、何か企んでるなら…)
好きだと答えを返したが最後、ブルーの罠に落っこちる。
(ホントに好きなら、証拠をちょうだい、って…)
言い出すんだぞ、と読めているから、動けない。
下手に動けば罠に落ちるし、もしも罠ではなかった時は…。
(…やっぱり、ぼくが嫌いなんだ、と…)
誤解したままになっちまうし、と眉間の皺が深くなる。
気付いたブルーは、「やっぱりね…」と溜息を零した。
「ハーレイ、答えられないんでしょ?」
嫌いだなんて言えないから、と赤い瞳に滲んだ涙。
「ごめんね」と、「ハーレイを困らせちゃって」と。
「御機嫌、悪くなっちゃったでしょ」と。
「そうじゃないんだ…!」
俺はお前が嫌いじゃない、と思わず腰を浮かせたハーレイ。
「ずっと好きだ」と。
「お前がチビでも大好きなんだ」と、「お前だしな」と。
そうしたら…。
「本当に?」
パッと輝いたブルーの顔。
「それじゃ、キスして」と、「好きな証拠に」と。
「馬鹿野郎!」
いつものヤツか、とブルーの頭に落とした拳。
「悩んだ分だけ損をしたぞ」と、「してやられた」と。
銀色の頭に軽くコツンと、ブルーにお仕置きするために…。
嫌いなんでしょ・了