「ねえ、ハーレイ…」
ちょっとお願いがあるんだけれど、とブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、愛らしく。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(…お願いだって?)
こいつはロクなことではないぞ、と内心、思ったハーレイ。
小さなブルーの「お願い」とくれば、まず間違いなく…。
(ぼくにキスして、というヤツなんだ!)
その手に乗るか、とハーレイは腕組みをして問い返した。
「ほほう…。今日は、どういうお願いなんだ?」
中身によっては聞いてやろう、と先に釘を刺す。
「聞けるお願いと、そうでないのがあるからな」と。
するとブルーは、「分かってるよ」と素直に頷いた。
「だって、ハーレイのお腹にも、都合があるもんね」と。
「はあ?」
あまりにも予想外の返事に、ハーレイがポカンと開けた口。
腹具合とは、いったい何のことだろう、と。
(昼飯だったら、さっき食ったし、今はケーキで…)
今日のケーキも美味いんだが、と眺めるベリーのケーキ。
もちろん、ブルーの母の手作り、当然、美味しい。
(…だが、俺の腹具合とブルーに、何の関係が…?)
分からんぞ、と首を捻っていたら、ブルーが重ねて言った。
「ぼくが欲しいの、ハーレイのケーキなんだけど」と。
「ケーキだって?」
お願いというのはソレなのか、とハーレイの目が丸くなる。
そんな「お願い」は、考えさえもしなかったから。
けれどブルーは、ハーレイの皿を指差して…。
「あのね、そこのベリーが挟まってるトコ…」
美味しそうだよ、と無邪気に微笑む。
「ぼくのケーキも美味しいんだけど、ハーレイのがね」と。
(……ふうむ……)
言われてみれば、と改めてブルーのと比べたケーキ。
どちらもベリーをサンドしたもので、切り分けた一切れ。
(確かに、同じケーキからカットしたって…)
見た目は、ちょいと変わってくるよな、と納得した。
ブルーの皿のケーキに比べて、ベリーが少し多めな印象。
(こいつは、ブルーが欲しくなるのも…)
無理はないかもしれないな、と可笑しくなった。
「なるほど、それで腹具合か」と。
ブルーにケーキを分けてやったら、その分、取り分が減る。
たかがケーキを少しとはいえ、ブルーにすれば…。
(食が細いから、うんと大きな量ってわけだ)
俺が腹ペコになる可能性、と想像がつくブルーの思考。
「ぼくがケーキを分けて貰ったら、お腹が減るかも」と。
「ハーレイは、身体が大きいものね」などと。
(可愛いじゃないか)
たまにはマトモなことも言うな、と嬉しくなった。
「今日の「お願い」は普通だったか」と。
しかもケーキが欲しいだなんて、子供らしくて可愛いから。
そういうことなら、とハーレイは大きく頷いた。
「よしきた、俺のケーキだな?」
お前は、どのくらい食えるんだ、とケーキを指差す。
「欲しい分だけ切ってやるから」と、「一口分か?」と。
「えっとね…。食べ過ぎちゃうと駄目だから…」
一口分で、とブルーが言うから、フォークで切った。
欲しいと言われたベリーの部分を、「これでいいか?」と、
ベリーが多めに入るようにと、加減して。
「ほら、ご注文のケーキだぞ」
皿を寄越せ、とケーキをフォークに刺そうとしたら…。
「それじゃ駄目だよ!」
フォークじゃ駄目、と抗議の声を上げたブルー。
「お皿に移すっていうのも駄目」と、「それは違うよ」と。
「なんだって?」
じゃあ、どうやって食うと言うんだ、と首を捻った。
フォークも駄目で、皿に移すのも駄目だなんて、と。
そうしたら…。
「決まってるでしょ、口移しだよ!」
まず、ハーレイの口に入れてね、と赤い瞳が煌めいた。
「それから、ぼくの口に入れてよ」と、笑みを浮かべて。
「小鳥みたいで、ちょっといいでしょ」と。
「そうやって餌を持って来るよね」と、得意そうに。
(口移しだと…!?)
つまりキスってことじゃないか、と分かったから。
ブルーの魂胆が判明したから、軽く握った右手の拳。
「馬鹿野郎!」
その手に乗るか、とブルーの頭をコツンとやった。
口移しでケーキを食べようだなんて、早すぎるから。
「お前にキスは早すぎるんだ」と、「口移しもな」と…。
一口ちょうだい・了