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言い付けてやる

「あのね、ハーレイのお父さんとお母さんって…」
 怒ると怖い? と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に何の前触れも無く。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
 ハーレイの両親の話などは、していなかったものだから…。
「はあ? いきなり、急にどうしたんだ?」
 なんだって親父たちなんだ、とハーレイは目を丸くした。
 ブルーの両親の話も出てはいないし、まるで無い切っ掛け。
 けれどブルーは「気になったから」と、赤い瞳を瞬かせた。
 「ハーレイのお父さんたちは、怖いの?」と。
 普段は優しそうだけれども、怒った時には怖いのかな、と。
「俺の親父と、おふくろか…」
 それは、まあな、とハーレイは苦笑しながら頷いた。
 生徒の前では言えないけれども、ブルーだったら、と。


「いいな、他の生徒には言うんじゃないぞ?」
 絶対、調子に乗りやがるからな、とブルーに釘を刺す。
 「ハーレイ先生の威厳が台無しだしな」と、キッチリと。
「うん、分かってる。それで、本当に怖いわけ?」
 小さなブルーは興味津々、身を乗り出して聞いている。
「いつもは怒らないんだが…。俺が悪さをした時には…」
 そりゃ怖かったな、文字通りに雷が落ちるというヤツだ。
 おやつ抜きとかは当たり前だったし、お前の両親とは…。
 随分違うな、とブルーに微笑み掛ける。
 「お前なんかは、叱られたって怖くないだろう?」と。
 おやつ抜きの刑を食らいはしないし、甘い筈だ、と。
「うん、パパとママは優しいよ。叱るだけだし」
 罰は無いよね、とブルーは両親を自慢した。
 「ホントに、とっても優しいんだから」と、得意そうに。


「そりゃ良かった。俺も安心していられるな」
 優しいお父さんたちで、とハーレイの胸も温かくなる。
 ブルーが幸せでいてくれることが、何よりだから。
 するとブルーは、首を傾げて、こう言った。
「でしょ? だからね、言い付けようと思うんだ」
「言い付ける?」
 誰に、何を、とハーレイはポカンと口を開いた。
「決まってるでしょ、ハーレイのお父さんたちにだよ」
 ハーレイがとっても意地悪なこと、とブルーは胸を張る。
 「キスをくれないことはともかく、ゲンコツだってば」と。
 いつも頭をコツンとやるから、叱って貰う、と。
「なるほどなあ…。それは親父も怒りそうだが…」
 お前を苛めているとなったら、とハーレイは吹き出した。
 「だが、どうやって、言い付けるんだ?」と。
 「親父たちの家、知っているのか」と、「連絡先は?」と。


「あっ…」
 どっちも知らない、とブルーがしょげるものだから。
 「それじゃ叱って貰えないよ」と小さな肩を落とすから…。
「ふむ、今回は俺の勝ちだってな」
 だからゲンコツはお見舞いしないし、安心しろ。
 それにいつでも言い付けていいぞ、とクックッと笑う。
 「親父たちは、とても怖いからな」と。
 「未来の嫁さんを苛めたとなれば、ゲンコツだろう」と。
 言い付けられるわけがないから、可笑しくて。
 連絡先が分かる頃には、キスを交わしているだろうから…。




          言い付けてやる・了












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