「ねえ、ハーレイ…」
ちょっと相談なんだけど、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「相談だって?」
もう、その手には乗らないぞ、とハーレイは顔を顰めた。
今までに何度、これでブルーにやられたことか。
(真面目に相談に乗ってやったのに、こいつときたら…)
ろくなことを考えていないんだしな、と軽くブルーを睨む。
「そういう意味では、立派な悪戯小僧だ」と。
けれどブルーは、全く気にも留めない様子で繰り返した。
「違うよ、ホントに大事な相談事なんだから」と。
あのね、と椅子に座り直したブルー。
「悔しいことがあるんだけれど…」と、赤い瞳を瞬かせて。
「はあ?」
それが相談事なのか、とハーレイは目を丸くした。
小さなブルーが悔しがるようなことと言ったら…。
(どうせ背丈が足りないだとか、伸びないだとか…)
そんなトコだな、と弾き出した頭。
「この相談は躱すに限る」と、「いつものパターンだ」と。
だからブルーをジロリと睨んで、腕組みをした。
「あのなあ…。お前、もう少し学習したらどうなんだ」
「学習って?」
勉強の悩みじゃないんだよ、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイ、真面目に聞いているの?」と、不満そうに。
「聞いているとも、だからこそ、学習しろと言うんだ」
日頃の失敗から学べ、と突き放す。
「お前の相談は、いつもそうだ」と、「俺は学んだ」と。
毎度バカバカしくなる、小さなブルーの相談事。
やってられるか、とハーレイは鼻を鳴らしたけれど…。
「そう言うんだったら、なおのことだよ!」
学習とは少し違うけれど、とブルーは食い下がった。
「悔しいことがあった時って、どうすべきなの?」と。
(なんだって…?)
どうも普段と違うようだな、と首を捻ったハーレイ。
ブルーお得意の「ぼくにキスして」に持ち込むアレとは…。
(違うんじゃないか?)
だったら、話を聞いてやらねばならないだろう。
悔しいことがあると言うなら、しっかり相談に乗って…。
(解決策を示してやるのが、大人ってモンだ)
おまけに、俺は教師だからな、と頷いた。
更にはブルーの守り役なのだし、頼られる立場。
聞き流さないで、きちんと相手をしなければ、と。
「分かった、聞いてやろうじゃないか。それで…?」
お前の考えはどうなんだ、と水を向けてやった。
ブルーが自分で解決出来たら、それが一番なのだから。
「えっとね…。ホントに、うんと悔しいんだけど…」
悔しがってるだけじゃダメだよね、とブルーは答えた。
「悔しさをバネにしなくっちゃ」と。
「でないと、成長できないと思う」と、真剣な顔で。
「ほほう…。流石はソルジャー・ブルーだな」
前のお前もそうだった、と、ハーレイの頬に浮かんだ笑み。
「とうに答えは出てるじゃないか」と、「それでいい」と。
そのまま真っ直ぐ進んで行けと、「お前は正しい」と。
そうしたら…。
「ありがとう! それじゃ、成長したいから…」
ぼくにキスして、とブルーは顔を輝かせた。
「ハーレイからキスを勝ち取るのだって、成長だよ」と。
「悔しがってるだけじゃダメだし、バネにしなくちゃ」と。
(…そう来やがったか…!)
今日のパターンは変則だった、とハーレイが軽く握った拳。
ブルーの頭に、コツンとお見舞いするために。
「馬鹿野郎!」
そんな成長はしなくていい、と銀色の頭に拳を落とす。
「相談に乗った俺が馬鹿だった」と。
「一人で勝手に悔しがってろ」と、「俺は知らん」と…。
悔しいんだけど・了
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