「ねえ。…今のハーレイ、心が狭いね」
キャプテンだった頃よりも、と小さなブルーが口にしたこと。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「なんだって?」
どうしてそういうことになるんだ、とハーレイが見開いた瞳。
いきなり指摘された理由も、そういう覚えも無いものだから。
(俺の心が狭いだって?)
しかも前の俺だった頃とは何だ、と疑問は尽きない。
心は充分、広いと思うし、狭くなったとも思わないから。
けれどブルーは溜息をついて、赤い瞳を瞬かせた。
「狭いってば」と。
前よりもずっと狭くなっているのに、気付かないの、と。
「おいおいおい…」
そう言われても…、とハーレイはブルーの瞳を見詰めた。
何処から「狭い」と考えたのか、それを聞かねば。
「狭い」と決め付けてかかるだなんて、あんまりだから。
「お前なあ…。なんだって、そう考えたんだ?」
俺は心が広い方だが、と自分の胸を指差した。
「胸も広いが、心も広い」と、心臓が入っている場所を。
「狭いと言われる筋合いは無い」と、自信を持って。
なのにブルーは、即座に首を左右に振った。
「ホントに狭い」と、「気が付かないの?」と。
「あのね…。宿題を忘れた生徒には、どうしてる?」
「それはもちろん、叱って、場合によっては宿題を追加だ」
当然だろう、と答えてやった。
それが教師の務めなのだし、しっかり勉強させなければ。
常習犯の生徒の時には、厳しく叱って、宿題を追加。
教師としての「あるべき姿」には、大いに自信を持っている。
優しく、時には厳しいハーレイ先生、慕う生徒も多いもの。
ところがブルーは、「ほらね」と大きな溜息をついた。
「今のハーレイ、やりすぎだよ」と。
前のハーレイなら、そうはしない、と愛らしい顔を曇らせて。
「叱ると委縮しちゃうから、って言ってなかった?」
ハーレイがキャプテンだった頃には、と「心が狭い」と。
「やりすぎって…。そりゃ、お前…」
あの頃とは時代が違うだろうが、とハーレイは切り返した。
白いシャングリラが在った時代は、あの船の中が世界の全て。
仲間たちを厳しく叱ったならば、叱られた者は…。
(…うんと引き摺っちまうんだ…)
気分を切り替えに出掛けようにも、船の中しか無かったから。
「自分は駄目だ」と悪い方へと、気持ちが傾きがちだから。
(……だからだな……)
ミスをした仲間が委縮しないよう、叱る時にも気を配った。
言葉を選んで、出来ることなら、叱らずに、と。
そんな時代と、今を混同されても困る。
悪ガキは叱って当然なのだし、心が狭いわけではない。
だからブルーを真っ直ぐ見据えて、「間違えるな」と言った。
「俺の心は今でも広い」と、自信に溢れて。
そうしたら…。
「じゃあ、唇にキスしてよ!」
叱るのは無しで、とパッと輝いたブルーの顔。
「心が広いなら叱らないよね」と、「唇にキス」と。
「馬鹿野郎!」
そいつも別件なんだからな、とブルーの頭に落とした拳。
「お前だって、充分、悪ガキなんだ」と。
「宿題を忘れるヤツと変わらん」と、「常習犯だ」と…。
心が狭いね・了
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