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美味しいものって

「ねえ、ハーレイ。美味しいものって好き?」
 どうなのかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブルを挟んで、向かい合わせで。
「美味しいもの?」
 なんだそれは、とハーレイは鸚鵡返しに聞き返した。
 いきなり「美味しいもの」と言われても、何を指すのか。
(今、食っているケーキは美味いし、飯だって…)
 ブルーの母は料理上手で、何を作らせても美味しい。
 夕食のメニューのリクエストにしても、この聞き方では…。
(…答えに困るな、いったい何が言いたいんだか…)
 だから尋ねる他には無かった。
 あまりにも芸が無いのだけれども、「なんだそれは?」と。


「美味しいものだよ、ハーレイは好き?」
 ブルーは同じ問いを繰り返した。
 赤い瞳を瞬かせながら、好奇心一杯の表情で。
「おいおいおい…。それは晩飯のリクエストなのか?」
 俺の答えで変わるのか、とハーレイは質問の仕方を変えた。
 これなら真意が掴めるだろう、と問いたいことを噛み砕いて。
「…リクエストって?」
 今度はブルーがキョトンとした。
 「どうしてそういうことになるの」と、「晩御飯って?」と。
「違うのか…。いや、美味いものだなんて言うもんだから…」
 メニューが変わってくるのかと思った、と苦笑いする。
 「俺が好きだと答えた場合と、そうでないのとで」と。
「ああ、そういうのもアリかもね!」
 今日はそうではないんだけれど、とブルーも笑った。
 機会があったら、それもいいね、と。


 料理上手なブルーの母。
 手際もいいから、夕食のメニューを急に決めても対応できる。
 いつか、そういうのもいいね、とブルーは微笑む。
 「ハーレイのリクエストに合わせて、作って貰うのも」と。
「それは厚かましすぎないか? で、それはそれとして…」
 実際の所はどうなんだ、とハーレイは話を元に戻した。
 「美味しいものが好きかどうかで、どう変わるんだ?」と。
「えっとね…。ちょっと聞きたかっただけ」
 それだけだよ、とブルーは愛らしく小首を傾げた。
 「美味しいものって、やっぱり好きなの?」と。
「そりゃまあ、なあ…。好き嫌いとは違うしな?」
 同じ食うなら、断然、美味いものだよな、とハーレイは頷く。
 前の生での過酷な体験のせいか、好き嫌いの類は全く無い。
 けれども、味とは別の次元の話で、美味しいものは美味しい。
 其処はブルーも同じなのだし、何を今更、と。


「お前だって、不味いものより、美味いものだろ?」
 ケーキにしたって、飯にしたって…、とブルーを見詰めた。
 「第一、俺も料理をするんだ」と、失敗作は不味いしな、と。
「そうだよねえ…。それじゃ聞くけど…」
 美味しいものが好きなら、これは、と自分を指差したブルー。
 「此処に美味しいものがあるけど」と。
 「ぼくを見ていて、欲しくならない?」と、笑みを浮かべて。
(……そう来たか……)
 誰がその手に乗るもんか、とハーレイは鼻を鳴らしてやった。
「美味いって、今のお前がか? …馬鹿々々しい」
 もっと育ってから言うんだな、とチビのブルーを突き放す。
 「お前は、不味い」と。
 「まだまだ熟していないからな」と、「口が曲がる」と。
 ブルーは膨れているのだけれども、容赦なく。
 「不味くて食えたもんではないな」と、「口に合わん」と…。




          美味しいものって・了











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