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化けて出てやる

「あのね、ハーレイ…。オバケって、怖い?」
 どうなのかな、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とケーキが載ったテーブルを挟んで、向かい合わせで。
「オバケだと?」
 急にどうした、とハーレイはポカンと口を開いた。
 そんな話はしていなかったし、何処からオバケになったのか。
 けれどブルーは真剣な顔で、「オバケだよ」と繰り返した。
「もしもオバケが出て来たら、怖い?」
「なんだ、そいつは俺の話なのか?」
 お前じゃなくて、と頬を緩めたハーレイ。
 てっきりブルーの話なのかと、頭から思っていたものだから。
「うん、ハーレイに聞いてるんだよ」
 オバケは怖いの、とブルーが言うから、軽く腕組みをした。
「そうだな…。そいつは場合によるな」
 時と場合によるだろうな、と返した答え。
 オバケと言っても色々あるから、それによるな、と。


「えっと…? 怖くないオバケがあるの?」
 それから怖いオバケもあるの、とブルーは瞳を丸くする。
 「怖いとか怖くないとかじゃなくって、両方なの?」と。
「うむ。お前が言ってるオバケは、いわゆる化物なのか?」
 昔話に出て来るような、とハーレイは逆に問い掛けた。
 遠い昔の日本の文化が蘇った今では、昔話も沢山あるから。
 キツネやタヌキが化けるオバケや、雪女だとか。
「んーと…。ハーレイが怖いのは、どういうオバケ?」
 それを教えて、とブルーは赤い瞳を輝かせる。
 「ハーレイにも怖いオバケがあるなら、知りたいな」と。
「なるほどな…。俺の弱みを知りたい、と」
「うん、本当に怖いオバケがあるならね」
 ケチっていないで教えてよ、とブルーは興味津々。
(…たかがオバケの話だしな?)
 弱みってほどのモンでもないか、とハーレイは大きく頷いた。
 「よし」と、「怖いオバケを教えてやろう」と。


「ただの化物なら、さほど怖くはないんだが…」
 俺を食おうとしない限りは、と小さなブルーに微笑み掛ける。
 「もっとも、食いにかかった所で、負けやしないが」とも。
 なにしろタイプ・グリーンなのだし、防御力だけは桁外れ。
 タイプ・ブルーに負けない力は、化物だって防げるから。
「そっか、ハーレイ、強いものね」
 凄い、と感心しているブルーに、「だがな…」と続けた。
「幽霊ってヤツは御免蒙る。俺を恨んで出た時はな」
 恨まれる覚えは無いからいいが、と軽くウインクしてみせる。
 「幽霊じゃ、勝てる気がしないからな」と。
 「恨んで出ようってくらいなんだし、どうにもならん」と。
 そうしたら…。


「だったら、化けて出てやるから!」
「はあ?」
 ブルーの口から出て来た言葉に、ハーレイは目を見開いた。
 どうしてそういう話になるのか、まるで分からなかったから。
 そもそも、化けて出ると言っても、いったい誰が化けるのか。
 なのにブルーは勝ち誇った顔で、こう言った。
「ぼくにキスしてくれないんだから、化けて出てやる!」
 今はいいけど、うんと未来に、と赤い瞳がキラキラと光る。
 「その時、後悔するといいよ」と、「キスの恨み」と。
「…そう来たか…」
 そう言えばキスをしてくれるかも、というのがブルーの考え。
 とはいえ、まだまだ甘すぎるわけで、ハーレイは笑む。
 「なるほど、お前は、今度も俺よりも先に死ぬんだな」と。
 「でないと化けて出られないしな」と、「頑張ってくれ」と。
「あっ…!」
 それは嫌だよ、と慌てふためく小さなブルー。
 「今のは無し!」と、「化けて出るのはやめにするよ」と。
 「ずっとハーレイと一緒にいるよ」と、「幽霊は嫌」と…。




         化けて出てやる・了










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