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おねだりされたら

「ねえ、ハーレイ。ちょっと聞きたいんだけど…」
 かまわないかな? と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
 お茶のセットが乗ったテーブルを挟んで、向かい合わせで。
(来た、来た、来た…)
 またまたロクでもないヤツだ、とハーレイが心でついた溜息。
 こういった時のブルーの質問、それは大抵、厄介なもの。
 ウッカリ答えを返したばかりに、何回、肩を落としたことか。
 「俺としたことが、また引っ掛かった」と。
 「こんなことだと思っていたのに、やっちまった」と。
 そうは思っても、聞き流すことも出来ないから…。


「ほう…。質問というのは、授業のことか?」
 あえて方向を逸らしたけれども、ブルーは首を左右に振った。
「そうじゃなくって、ハーレイのことだよ」
「なるほどな。そういうことなら、中身による」
 真っ当なものなら答えてやろう、と言ったら膨れたブルー。
 「ハーレイのケチ!」と、頬っぺたをプウッと。
「中身によるって、それって、ケチだし!」
「俺は何度も懲りているんだぞ、選択をする権利がある」
 くだらん質問には答えられない、とハーレイは腕組みをした。
 「真面目なことなら、いくらでも返事をしてやろう」と。
 「答える価値がある質問なら、言ってみろ」と。


「それじゃ聞くけど、ハーレイ、おねだりをどう思う?」
 小さな子供がよくやっているヤツ、と投げ掛けられた問い。
 「お店の前とかで見かけるでしょ?」と。
「はあ?」
「おねだりだってば、ああいう子供は許せない?」
 叱りたくなる方なのかな、とブルーは興味津々な様子。
 「ハーレイは気が短い方かな」と、「叱っちゃう?」と。
「ああ、アレか…。俺は、どちらかと言えばだな…」
 微笑ましく見守っちまう方かな、と笑みを浮かべた。
 褒められたものではないのだけれども、子供らしい我儘。
 素直に気持ちをぶつけているのも、愛らしいから。
 たとえ手足をバタバタとさせて、道にひっくり返っていても。


 可愛いと思う、子供の「おねだり」。
 幼い間は、我儘だって、言うべきだろうというのが信条。
 自分を殺した「いい子」なんぞより、断然、悪ガキがいい。
 だから我儘を言っても許すし、おねだりだって暖かく見守る。
 おねだりする子の両親だって、さほど困ってはいないから。
 「みっともないぞ」と叱っていたって、我が子は愛しい。
 道でバタバタ暴れていようと、大泣きをして叫ぼうと。


 そう思うから、ブルーに「俺は許すな」と笑顔で答えた。
 「ああいう姿も可愛いもんだ」と、「元気でいい」と。
 そうしたら…。
「それなら、ぼくもおねだりしていい?」
 許せるんなら、とブルーの瞳が輝いた。
 「ぼくも我儘を言っていいでしょ」と、「子供だから」と。
「なんだって?」
「だから、キスして! ぼくの唇に!」
 おねだりしちゃう、とブルーは嬉しそうだけれども…。
「馬鹿野郎!」
 小さな子供と言った筈だぞ、とブルーの頭に落とした拳。
 「お前は小さくないだろうが」と。
 「キスをするには小さすぎるだけで、充分、デカイ」と…。




        おねだりされたら・了








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