(双子って、いるよね…)
不思議な力で繋がった子たち、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ぼくの友達には、いないんだけど…)
何度も見かけている双子。
今の学校にもいるかもしれない、瓜二つの顔をした子たち。
(一卵性双生児…)
母親の胎内に宿った卵子が、何かのはずみで二つに分かれる。
すると生まれて来る、そっくりな子たちが一卵性の双子。
(繋がっているらしいよね?)
心の何処かが、と聞いてはいる。
片方の身に何かあったら、もう片方にも伝わるらしい。
サイオンを使っていなくても。
思念波で連絡を取っていなくても、「何かあった」と感じ取れるのが双子の兄弟。
(…シャングリラにも…)
いたんだっけね、と遥かな時の彼方を思う。
一卵性ではなかったけれども、心が繋がった双子の兄妹。
白い箱舟にいた、ヨギとマヒルという子供。
(いつだって、手を繋いでて…)
片方が喋った言葉を、もう片方が、復唱するかのように喋った。
「ソルジャー、遊ぼう」とヨギが言ったら、マヒルが「遊ぼう、ソルジャー」などと。
だから今でもよく覚えている、印象的な子供たち。
さほど接点は無かったけれども、「船にいたよ」と。
一卵性の双子でなくても、白いシャングリラにも「双子がいた」と。
(……んーと?)
ヨギとマヒルが一卵性の双子だったら、もっと面白かっただろうか。
言葉を復唱するだけではなくて、他にも特技があったとか。
(…どうなのかな?)
人間が全てミュウになった今の時代でも、一卵性の双子は特別。
「サイオンを使わなくても、繋がっている」という点で。
(じゃあ、サイオンを使ったら…)
もっとシンクロするのだろうか、まるで二人で一人のように。
特訓なんかは全く無しでも、即興のダンスで同じステップを踏めるとか。
(……そうなのかもね?)
だったら凄い、という気がする。
もしも「彼ら」に才能があれば、アッという間にスターになれそう。
誰もが惹かれる素敵な外見、それに歌声でもあれば。
(…デビューした途端に、ファンがつくよね?)
女の子の双子がデビューしたなら、大勢の男子が熱狂する。
逆に男子なら、女性のファンが群がるだろう。
(…ぼくは、そういうのに疎いから…)
知らないけれども、もしかしたら、過去にはいたかもしれない。
一卵性の双子に生まれて、一世を風靡した大スターが。
歌も姿も超一流で、ステージで披露するダンスも素晴らしかった双子が。
(ぼくだって、見惚れちゃいそうだよ…)
そんな双子のステージだったら、きっと魂を奪われて。
「なんてダンスが上手いんだろう」と、「歌も凄いよ」と。
なんと言っても、二人が「そっくり」なのだから。
歌声もステップも見事にシンクロ、少しもズレたりしないのだから。
そういう歌手っているのかな、と首を捻っても、足りない知識。
日頃、興味が無い世界だから、手も足も出ない。
(…だけど、いたなら、絶対、凄い…)
それこそ宇宙が熱狂するよ、とチビの子供の自分でも分かる。
もう文字通りにスーパースターで、引く手あまたの有名人になるだろう、と。
(……ちょっと待ってよ?)
もしも、ぼくが双子だったなら…、と思い付いたこと。
「ソルジャー・ブルー」の生まれ変わりの自分は、正真正銘、ソルジャー・ブルー。
今では記憶も戻っているから、自分でも疑いようがない。
ただし、そのことを知っている者は、たった四人しかいないけれども。
(パパとママと、病院のお医者さんと、ハーレイ…)
彼ら以外は、全く知らない「本当のこと」。
ついでに言うなら、この春、前の生の記憶が戻るよりも前は…。
(…自分でも、よく似てるよね、って…)
思っていたのが「ソルジャー・ブルー」という存在。
今の平和な時代の始まりになった、大英雄の「ソルジャー・ブルー」。
おまけに、「自分で言うのは厚かましい」けれど、とても美しかったから…。
(写真集とかがドッサリ出ていて、大人気で…)
そんな「ソルジャー・ブルー」に似ていた自分は、幼い頃から注目された。
大英雄と同じアルビノな上に、顔立ちまでが似ている子供。
いったい何度、大人たちに言われたことだろう。
「小さなソルジャー・ブルー」だ、と。
両親も充分、承知だったから、髪型まで「ソルジャー・ブルー」風。
幼稚園の時には、とっくにそういうヘアスタイル。
だから街でも、公園などでも、何人もに声を掛けられたもの。
それだけ目立っていたのだったら、その姿で双子だったなら…。
(…スカウトされてた?)
もしかしたなら、幼い頃に。
育てばスターになれそうだからと、芸能界のスカウトマンに。
(…本当に、双子だったなら…)
有り得たよね、と思うスターへの道。
いくら身体が弱いと言っても、双子だったら、今よりはマシ。
(繋がってるから、二人ともダウンしちゃうかもだけど…)
そうならないよう、マネージャーがしっかり、スケジュールを管理。
身体が慣れるまでの間は、交代でステージに立つだとか。
(それなら、使う体力も半分…)
片方はしっかり休めるわけだし、その間に充分、休養できる。
(…それに、ベッドに転がってたって…)
もう片方が立つステージのことは、きっと分かるに違いない。
観客たちの声援だって、煌めく照明などだって。
(サイオン、うんと不器用だけど…)
それでもミュウには違いないから、双子だったら、事情は変わる。
互いの間なら「通じる」全て。
きっと同じにステップが踏めて、即興のダンスでも、見事にシンクロ。
そこへ「ソルジャー・ブルー」にそっくり、これでスターになれない方が…。
(……おかしいよね?)
今の姿だと、まだ小さいから、それほど有名ではないかもしれない。
けれど将来は期待できるし、先を見越したファンもつきそう。
(でもって、前のぼくだった頃と、そっくり同じに育ったら…)
もう間違いなくトップスターだ、という気がする。
何と言っても、今の時代も、大人気なのが「ソルジャー・ブルー」。
大英雄だからというだけではなくて、美しかった容姿のせいで。
その再来のような歌手が登場、しかも双子となったなら…。
(ホントに人気で、何処へ行っても…)
ファンに囲まれ、握手攻めになることだろう。
考えたことも無かったけれども、そういう人生も、きっと有り得た。
一人息子に生まれる代わりに、一卵性の双子だったなら。
トップスターになる自分。
双子の兄弟とステップを踏んで、歌を歌って。
(ちょっと、いいかも…?)
楽しいかもね、と思ったけれども、その場合…。
(……ぼくの名前は?)
今の自分は、前と同じに「ブルー」という名を付けて貰った。
「ソルジャー・ブルー」と同じアルビノだからと、彼の名前にあやかって。
生まれた子供は一人だったから、「ブルー」に決まったのだけれど…。
(双子だったら、どうなっちゃうの?)
両方「ブルー」に出来はしないし、別の名前を付けただろうか。
それとも一人に「ブルー」と名付けて、もう一人には別の名前だとか。
(…ソルジャー・ブルーと対にするなら、ジョミーとか?)
あるいは「ブルー」の「青」に揃えようと、他の言葉での「青」にするとか。
(地域によって、言葉は色々…)
それを端から調べていったら、似合いの「青」もあるかもしれない。
「ブルー」と響きの似たものが。
双子の息子に名付けてやるのに、丁度いいのが。
(…ぼくの名前は、どっちになるの?)
ブルーの方か、別の方なのか。
前の生の記憶が戻る前なら、どちらだろうと気にしない。
けれども、記憶が戻って来たなら、名前が「ブルー」でなかったら…。
(……凄く悲しい……)
今度も「ブルー」に生まれて来たのに、違う名前で呼ばれるなんて。
前の自分が持っていた名が、そっくりな顔の兄弟の名前になるなんて。
(…悲しすぎるよ…!)
そんなのは、と思った所でハタと気付いた。
「ブルー」の名前を持っている方も、「ブルー」なのかもしれない、と。
自分と同じに前の生がある、「ソルジャー・ブルー」の生まれ変わりかも、と。
(…一つの卵子が、何かのはずみに…)
二つに分かれて生まれて来るのが、瓜二つの姿を持った一卵性双生児。
それなら二つに分かれる時に、魂も分かれるかもしれない。
「ソルジャー・ブルー」の魂が二つ、そういう双子。
(……スターを目指して、頑張ってる間はいいけれど……)
前の生の記憶を取り戻したなら、とても大変なことになる。
そっくり同じな魂が二つ、もちろん恋した相手も同じ。
ハーレイと巡り会った途端に、二人とも「ハーレイに恋をする」。
前の生からの恋の続きを、青い地球の上で生きてゆきたくて。
今度こそ二人、何処までも手を繋ぎ合って、と。
(…でも、ぼくは二人…)
ハーレイも途惑うだろうけれども、自分たちだって、大いに困る。
もしもスターを目指していたなら、まずは、その道を捨てなければ。
(……忙しすぎて、ハーレイとデートも出来ないもんね?)
だから引退、と言い出した途端、もう片方と喧嘩になる。
「どちらが引退するのか」で。
何故なら、引退していった方は、「ハーレイと結婚する」のだから。
それにスターは「二人揃っていてこそ」、ソロで活動しても有名になれるかどうか。
(…片方は結婚して幸せなのに、もう片方は…)
結婚も出来ず、人気も出ないで、散々な人生になるかもしれない。
「ハーレイ」は一人しかいないから。
なのに「ブルー」が二人いたなら、一卵性の双子だったなら。
(……大喧嘩した上、喧嘩に負けたの、ぼくの方なら……)
とんでもない悲劇が待っていそうだから、自分は、双子でなくて良かった。
前の生の記憶が戻る前なら、とても楽しく生きられても。
ソロでもスターになれたとしたって、それよりもハーレイの側がいいから…。
双子だったなら・その2・了
※もしも双子に生まれていたら、とブルー君が想像してみた人生。スターになれそう、と。
けれど魂も同じだった場合、待っているのは悲劇なのかも。双子でなくて良かったですよねv
※なんで「その2」があるのか、と言えば…。
「ブルーのバージョン、書いてなかったよね?」と書き終わってから気付いた悲劇。
書いていたことをすっかり忘れていました、お蔵入りも辛いし、「その2」ってことで…。
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