(双子かぁ……)
たまにいるよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今の時代は、双子というのは珍しくない。
瓜二つの双子も、似ていない双子も、男女の双子も。
(ぼくの学年には、いないんだけど…)
学校全体なら、何組かいるのが双子たち。
街や公園に出掛けた時にも、「あっ、双子だ」と目を瞠ったことが何度も。
(そういえば、前のぼくの頃にも…)
いたんだっけ、と双子の兄妹を思い出した。
白いシャングリラにいた、ヨギとマヒルという双子。
彼らは少し変わった子供で、いつでも「何処かで」繋がっていた。
幼い頃には本当に手を繋いでばかりで、片時も離れようとはしなかったほど。
(片方が喋った言葉を、もう片方が…)
まるで復唱するかのように、そっくりそのまま喋ったりもした。
主語と述語が逆になっていても、言葉の中身は全く同じ。
(他の子たちと喋る時には、普通なんだけどね?)
ヨギはヨギとして会話が出来たし、もちろんマヒルも。
なのに二人が「同じ言葉」を口にすることが、何度も、何度も。
(……あれだと、ミュウだとバレない方が……)
おかしいのだから、シャングリラに来たのも無理はない。
とはいえ、彼らは幸運な方。
シャングリラに迎え入れられたのだから。
誰にも知られず、赤ん坊の頃に抹殺された双子の方が、きっと多かっただろうから。
(あんな風に何処かで繋がってるんじゃ…)
きっと言葉を発する前から、双子の子たちは「繋がっている」。
ヨギとマヒルは、男女の双子だったけれども…。
(そっくりな、一卵性の双子だと…)
もっと繋がりが強くなるから、養父母も「変だ」と気付くだろう。
「うちの子たちは何処か違う」と、「普通の子ではなさそうだ」と。
機械が統治していた時代は、徹底していた養父母ヘの教育。
(……ミュウ因子の存在は、隠されてたけど……)
異分子の排除はSD体制の根幹なのだし、機械はそういう風に教えた。
「普通ではない子供がいたなら、直ぐに通報するように」と。
通報した結果が「どうなる」のかは、養父母たちにも教えはせずに。
(…だから、双子に生まれた子供は…)
思念さえも紡げないくらいに幼い間に、ユニバーサルに処分されたのだろう。
彼らの「悲鳴」が届かない限り、救いの手は伸びて来ないから。
前の自分も、救助班の者も、「彼ら」を知りようもなかったから。
(……ごめんね……)
本当にごめん、と前の自分が救えなかった子たちに詫びた。
もっとも、彼らも、とっくの昔に…。
(ぼくと同じで、生まれ変わって…)
幸せに暮らしていることだろう。
地球にいるのか、他の星かは分からないけれど。
前の悲しかった最期は忘れて、のびのびと。
人間が全てミュウになった今では、誰も彼らを抹殺したりはしないから。
(今の時代だと、双子の子供に生まれて来たら…)
楽しいことが山ほどありそう。
なにしろ双子は「繋がっている」から、普通の兄弟とは違う。
ヨギとマヒルの頃よりも、もっと自然に「繋がった」彼ら。
他の学年にいる双子の噂は、たまに耳にすることがある。
(サイオンを使わなくても、通じてる、って…)
別の教室で座っていたって、相手の身に起こっていることなどが。
「今、先生に叱られた」だとか、そんな具合に。
(……ぼくも、双子に生まれていたら……)
分身の術が使えたのかな、と考えてみる。
姿形がそっくり同じな双子の兄弟、それなら自分が「二人いる」感じ。
家にいたって、片方は庭で、もう片方はリビングだとか。
(宿題とかも、二人でやったら早いのかも…?)
同じ宿題を出されたのなら、分業で。
「ぼくは、この問題を解くから」と言えば、もう片方が「ぼくは、こっち」と。
(学年が違う兄弟だったら、これは不可能…)
双子でないと出来ないよね、と広がる想像。
それに「何処かで繋がっている」なら、おやつで迷った時だって…。
(どっちのケーキを食べようか、って悩まなくても…)
二人で別のケーキを食べれば、きっと満足できるだろう。
お互いが食べたケーキの味わい、それが伝わってくるだろうから。
まるで自分が食べたかのように、「美味しかった」と。
(…なんだか、色々、得しそうだよね?)
双子に生まれたかったかも、と眺めた鏡。
「もう一人、そっくりな自分」がいたなら、何かと楽しそうだから。
それにお得なことも沢山、人生だって、二倍、楽しめそうだから。
ちょっぴりいいな、と思った双子。
一卵性で、姿形が瓜二つ。
(でも、ちょっと待って…?)
ハーレイのことはどうするの、と気付いた、前の生での恋人。
青い地球の上に生まれ変わって来て、また巡り会えた愛おしい人。
もしも双子に生まれていたなら、そのハーレイと再会するのは…。
(…どっちか片方だけになっちゃう?)
一卵性の双子の場合は、魂まで分けているかもしれない。
元は「ソルジャー・ブルー」だった魂、それを二人で半分ずつ。
(だけど、魂が半分ずつでも…)
今のハーレイと出会う時には、多分、同時とはいかないだろう。
幼稚園児の頃ならともかく、今の学校ほどの年になったら、クラスは別々。
同じクラスに同じ顔が二人は、なにかと面倒なものだから。
(そうなると、ハーレイが先に授業に行ったクラスで…)
出会った方の双子の片割れ、そちらがハーレイと再会を遂げる。
右の瞳や、両方の肩から血を溢れさせて。
身体に刻まれた聖痕が全部、怪我をしたように鮮血を噴いて。
(…魂は同じで、繋がってるから…)
別のクラスにいた片割れの方にも、聖痕は現れると思う。
そして記憶も戻りそうだけれど、残念なことに、ハーレイは「一人」。
(……ぼくが片方、余っちゃう……)
ハーレイは二つに分けられないから、感動の再会は「先に出会った」一人だけ。
救急車で病院に運ばれる時も、ハーレイが付き添うのは、そっちだけ。
(…もう片方には、保健室の先生…)
それとも、そこで授業をしていて、担任を持っていない先生だろうか。
どちらにしたって、ハーレイの付き添いは望めない。
同じように記憶が戻っていたって、「ハーレイに会えた」と知ったって。
ハーレイと教室で再会したのは、もう片方の自分だから。
いくら心は繋がっていても、身体の方は別々だから。
(…病院に着いたら、同じ病室かもしれないから…)
ハーレイに会えるかもしれないけれども、その後のこと。
記憶が戻った「ブルー」が二人、とハーレイが知ったら、どうなるのだろう。
(……ハーレイは、とても優しいから……)
二人に増えてしまった「ブルー」を、公平に扱ってくれそうではある。
そうする前には、「再会し損なった方」のブルーを、まず、思い切り甘やかして。
「お前についててやれなくてすまん」と、すまなそうに謝ったりもして。
(…それでも、キスはしてくれないよね?)
きっと抜け駆け禁止だろうし、ハーレイが決める「約束」も同じ。
ブルーが二人いようがいまいが、キスは「大きくなるまで」は駄目。
「前のブルー」と同じ背丈に育つまで。
前のハーレイが愛した姿になるまで、キスは我慢で、お預けのまま。
(……うーん……)
再会の場にいなかったお詫びに、キスが貰えるなら、「そちらの自分」も悪くない。
けれど、ハーレイはとてもケチだし、絶対にキスはしてくれない。
お詫びの印に甘やかしてくれても、キスだけは無理。
(だったら、再会する方の、ぼく…)
そっちでないと、と考えた所で、ポンと頭に浮かんだこと。
「ブルー」が二人いるというなら、ハーレイと結婚できるのは…。
(…もしかして、どっちか片方だけ?)
そうなっちゃうよね、と愕然とした。
ハーレイが二人いない以上は、選ぶ「お嫁さん」は一人だけ。
いくら「ブルー」が二人いたって、お嫁さんは二人も貰えはしない。
片方を選んで結婚するのか、それとも選ばずに独身でゆくか。
「俺のブルーだ」とハーレイが思う相手が、二人に分かれているのなら。
どちらも同じに「前のブルー」で、魂も姿も「同じ」なのなら。
(……酷くない?)
片方だけが「お嫁さん」なんて、と身が切られるよう。
たとえ「自分」が選ばれたとしても、もう片方の悲しみが分かる。
「ぼくは選んで貰えなかった」と、心の中にまで伝う涙が。
同じようにハーレイを愛しているのに、どうして自分は駄目だったのか、と。
(いっそ、日替わり……)
結婚するのは片方だけでも、結婚生活は一日交代。
そうすることも出来るけれども、戸籍の上では、結婚したのは…。
(…やっぱり、どっちか一人だけ…)
それを思うと、「結婚できなかった方」は悲しい。
恨みっこ無しのジャンケンをして、結婚する方を決めたにしても。
あるいはハーレイにクジを作って貰って、引いた結果が、それだったにしても。
(……悲しすぎるってば……!)
ハーレイのお嫁さんになれないなんて、と気が狂いそう。
おまけに日替わりの結婚生活、いくらハーレイが優しくても…。
(毎日は同じじゃないんだよ…!)
夕食の献立だって違うし、毎日の出来事も違ってくる。
「片方の気持ち」が伝わる分だけ、「もう片方」の心も揺れる。
「どうして、ぼくの日じゃないの?」と。
「ぼくの日よりも、今日の方が良かった」と、「どうして取り替えられないの?」と。
(……ハーレイが独身を選んでも……)
今度は「結婚できない」のが辛くて、毎日、悲しむことになる。
「どうして、ぼくは双子だったの」と、「一人だけなら良かったのに」と。
(…もし、ぼくが、双子だったなら…)
そうなっちゃうんだ、と考えただけで怖くなるから、同じ顔の兄弟はいなくていい。
お得で楽しそうだけれども、記憶が戻ったら大変だから。
「前の自分」が二人になっても、ハーレイは一人きりなのだから…。
双子だったなら・了
※もしも双子に生まれていたら、と想像してみたブルー君。色々お得で楽しそうだ、と。
けれど、ハーレイ先生と再会した後が大変なのです。お嫁さんになれるのは一人ですしねv