(双子なあ……)
シャングリラにもいたんだっけな、とハーレイが懐かしく思い出した顔。
ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で。
愛用のマグカップにたっぷりと淹れたコーヒー、それをゆったり傾けていたら。
何が切っ掛けで「双子」なのかは、自分でもよく分からない。
双子座なんかは考えていないし、兄弟について考えていたわけでもない。
(でもまあ、世の中、そういうことも…)
ままあるもんだ、と分かっているから、続きを楽しむことにした。
せっかく「双子」が出て来たからには、気の向くままに追い掛けよう、と。
(……ヨギとマヒルか……)
白いシャングリラにいた、双子の兄妹の名前。
一卵性の双子ではなかったけれども、面白い特徴を持っていた。
(何かっていえば、二人で同じ言葉を…)
まるで復唱するかのように、片方が片方の言葉を追った。
そのままなぞっている時もあれば、主語と述語が逆になったり。
(あれは男女の双子だったが…)
それでも心が通じてたんだな、と今でも思う。
シャングリラの頃にも、そうだった。
「双子というのは不思議なものだ」と、彼らの言葉を聞く度に。
当時は「ミュウの箱舟」にいたから、サイオンのせいだと考えたけれど…。
(…実際は、もっと昔から…)
双子同士の不思議については語られてたな、と今なら分かる。
「今の自分」が、何処かで聞いた。
双子というのは、心の何処かが繋がっているものなのだ、と。
片方の身の上に何か起きたら、もう片方にもそれが伝わる。
サイオンなどは、誰も知らなかった昔から。
SD体制が敷かれる遥か前から、ヒトが地球しか知らなかった頃から。
母の胎内で「一緒に育って」生まれて来るのが、双子の子供。
胎児の形も成さない内から、ずっと一緒に育った兄弟。
(そりゃあ、心が繋がってても…)
不思議じゃないな、と「今なら」思う。
前の自分が生きた頃には、自然出産は禁忌とされていた。
機械が禁じた自然出産、子供は人工子宮で育って生まれて来るもの。
トォニィが生まれるまでの時代は、「そう」だった。
だから「双子の不思議」については、「サイオンのせい」で片付けていた。
サイオンを持った兄妹だから、普通以上に通じるのだと。
(よく考えたら、その説でいくと…)
ゼルとハンスも「そうなる」筈だし、どうやら詰めが甘かったらしい。
前の自分も、子供たちの教育を引き受けていたヒルマンでさえも。
(……一卵性でなくても、アレだったんだから……)
一卵性の双子だったら、もっと繋がりは深かっただろう。
言葉を互いに真似るどころか、互いの考えも瞬時に分かってしまうくらいに。
(実際、そうだと聞くからなあ…)
今の時代の「双子」たち。
人間が全てミュウになった今は、そういう双子は珍しくない。
「わざわざ」サイオンを使わなくても、ごくごく自然に繋がっているから…。
(…学校じゃ、悪戯小僧の定番…)
別のクラスに分けておいたら、入れ替わって教室にいるだとか。
教師相手の悪戯の時に、指揮官と参謀を務めるだとか。
(阿吽の呼吸というヤツで…)
息がピッタリ合っているから、逃げ足だって素晴らしいもの。
片方が「逃げろ」と思念を飛ばす前から、もう逃げ出しているのだから。
なにしろ片方に起こった「変事」が、直ぐに伝わるものだから。
教師にバレて捕まっただとか、まさに捕まりそうだとか。
(……面白いモンだな)
ヨギとマヒルよりも凄いんだから、と頭に浮かべる双子たち。
教師生活を始める前にも、後にも、一卵性の双子に出会って来た。
今から思えば、前の自分が生きた頃にも…。
(いたんだろうなあ、瓜二つの双子というヤツは)
SD体制の時代を創った機械は気まぐれ、たまに「兄弟」の子供を作った。
「一組の養父母に子供は一人」が、原則だった筈なのに。
だからゼルには弟がいたし、ヨギとマヒルは双子の兄妹。
一卵性の双子だったら、自然に生まれてくるけれど…。
(そうじゃないのに、双子ってヤツまでいたのなら…)
きっと一卵性の双子も、何人もいたことだろう。
前の自分が「出会わなかった」というだけで。
恐らくは、ミュウに生まれた場合は…。
(うんと早くにバレてしまって、処分されちまったんだ…)
ミュウだってことが、と容易に想像がつく。
白いシャングリラが救い出していた、ユニバーサルに追われる子供たち。
彼らは「ミュウだ」と通報されたか、その前に救い出されていたか。
いずれにしても、シャングリラが「把握できた」子だけが助かった。
前のブルーが思念を捉えただとか、潜入班が「その子」を見付けただとか。
サイオンを使い始めない限り、シャングリラでは彼らを捕捉できない。
(思考もハッキリしていないような、赤ん坊だと…)
ブルーでも見付けられなかっただろうな、と零れる溜息。
そして「彼ら」は、ユニバーサルに処分されたのだろう。
白い箱舟に、存在を知られることもなく。
彼らを育てた養父母たちに、「うちの子は変だ」と通報されて。
前の自分は出会わなかった、一卵性の双子。
何かのはずみで二つに分かれた、同じ卵子から育った子供。
(もしかしたら、今の俺だって…)
双子に生まれていたのかもな、と思い付いた、「その可能性」。
今の自分は自然出産で生まれた子供で、双子にだって「なり得た」存在。
母の胎内に宿っていた時、卵子が二つに分かれていたらなら、一卵性の双子。
(そうなっていたら、俺にそっくりな兄弟が…)
出来ていたわけで、きっと愉快な子供時代になっただろう。
双子の兄弟がよくやる悪戯、「入れ替わる」などは日常茶飯事。
(学校じゃ、うんと悪ガキになって…)
教師を相手に、それは沢山の悪さをしたに違いない。
大勢の仲間たちを率いて、指揮官と参謀役に分かれて。
「先生が来たぞ」と、思念波よりも早く、片割れに伝えて。
(流石に、今の年まで育てば、やらないだろうが…)
それでも互いに繋がっているから、仲の良い兄弟だろうと思う。
仕事帰りに「一杯やるか」と考えたならば、相手も同じ気分になって。
何の連絡もしていなくても、同じ店でバッタリ出会えるだとか。
(そいつは、なかなか愉快そうだぞ)
双子の兄弟が欲しかったかもな、という気がしてきた。
今の自分は両親の一人息子だけれども、まるで同じ顔が「もう一人」。
両親だって、子育てするのが楽しかったに違いない。
そっくり同じな姿の双子に、お揃いの服を着せたりして。
父の趣味の釣りに連れて行くにも、同じ釣竿を、それぞれに買って。
(釣りの腕前も、きっと似たようなモンで…)
親父たちにも、どっちがどっちか、分からないかもな、と可笑しくなる。
「ぼくは、こっち」と逆に名乗って、混乱させていたかもしれない。
名前を取り替えて一日暮らして、後で大いに笑うとか。
「上手くいった」と、兄弟で手を取り合って、ピョンピョン跳ねて。
(…双子でも、悪くなかったかもなあ…)
俺そっくりの兄弟ってヤツ、と広げる空想の翼。
二人揃って教師だったか、片方はプロのスポーツ選手になったか…。
(考え方までそっくりだったら、二人とも…)
教師だろうな、と思った所でハタと気付いた。
今の学校で出会った「ブルー」。
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が愛した恋人。
双子の自分が、今のブルーに出会った時には、どうなるのだろう。
(魂までが、二つに分かれていたら…)
先にブルーと出会った方だけ、前の記憶が戻るのだろうか。
それとも、そこは双子の不思議で、片割れがブルーと出会った途端に…。
(一瞬の内に伝わっちまって、そっちも記憶を取り戻すとか…?)
大いにありそうな話じゃないか、と鳶色の瞳を瞬かせた。
今のブルーとの「運命の再会」、それさえ共有していそうだ、と。
片方がブルーと再会したなら、もう片方までが駆け付けて来る。
仕事さえ途中で放り出して来て、「俺のブルーが帰って来た」と。
運命の恋人が戻って来たと、「やっと出会えた」と。
(……おいおいおい……)
ブルーは一人しかいないんだぞ、と思うけれども、双子だったら起こり得る。
魂までもが二つに分かれて、どちらも同じに「前のハーレイ」。
(俺が本物のハーレイだ、って叫んでも…)
片割れの方も全く同じで、きっとブルーにも選べない。
なにしろ、「二人ともハーレイ」だから。
ハーレイが二人に増えてしまって、ブルーにはお得かもしれないけれど…。
(俺は勘弁願いたいぞ…!)
恋人を兄弟で共有なんて、と心底、思うものだから、自分は一人息子でいい。
一卵性の双子は楽しそうでも、魂までもが分かれていたなら、大変だから。
ブルーを独占出来ない人生、それはあまりに悲しすぎるから…。
双子だったら・了
※もしも双子に生まれていたら、と考え始めたハーレイ先生。楽しそうだ、と。
けれど魂まで分け合っていたら、ブルーと再会した後が、とても大変。ハーレイが二人v
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