「ねえ、ハーレイ。証拠って、大切だと思う?」
意見を聞かせて欲しいんだけど、と小さなブルーが開いた口。
二人きりで過ごす休日の午後、テーブルを挟んで唐突に。
紅茶が入ったカップを前に、小首を傾げて。
「証拠って…。いったい、どうしたんだ?」
分からんぞ、とハーレイは首を捻った。
いきなり質問されても困るし、ブルーの意図が分からない。
(……ろくなことでは、ないような気が……)
するんだがな、と思うけれども、確証が無い所が厄介。
真面目に問われているのだったら、真剣に答えてやらないと。
(…こいつの中には、チビのブルーと…)
前のあいつが同居してるし…、と心の中で零した溜息。
どちらが問いを投げ掛けたのかは、全く分からないのだから。
(……失敗した時は、運が無かったと思うしかないな)
真面目にやろう、と腹を括ったハーレイ。
それでブルーの罠にはまったら、それから腹を立てればいい。
ろくでもない魂胆の質問だったら、頭に拳を落としてやって。
(そっちになりそうではあるんだが……)
まあいい、とブルーの赤い瞳を真っ直ぐ見詰めた。
「そうだな…」と、自分の意見を纏めて、腕組みをして。
「大切だと思うぞ、証拠ってヤツは」
いろんな場面で必要になる、と小さなブルーに語り掛ける。
証拠が無ければ、証明できないことが幾つもあると。
それは数学の証明にも似ていて、無ければ認めて貰えない。
いくら「本当なんです」と主張したって、見向きもされない。
証拠無しでは、誰も納得してくれないから。
「たとえば、だ…。ずうっと昔のSD体制の時代にしても…」
今の時代に知られているのは、証拠のお蔭だ、と説明した。
地球が死の星だった事実も、ミュウが迫害されていたことも。
白いシャングリラが飛んでいたことも、人類との長い戦いも。
何もかも、資料が残っているから、真実だったと証明できる。
神話や伝説の類ではなくて、本当に起きたことばかりだと。
「…そう言われれば、そうかもね…」
証拠が無ければ、伝説とかと変わらないね、と頷くブルー。
前の自分たちの生涯にしても、神話と同じ扱いかも、と。
「そうだろう? だから証拠は大切なんだな」
よく分かったろ、とブルーに微笑み掛けた。
「前の俺たちが生きた証拠があって、良かったな」と。
前のブルーの写真集まで売られているほど、証拠だらけで。
そうしたら…。
「大切だって思うんだったら、証拠をちょうだい」
でないとダメ、と小さなブルーが睨み付けて来た。
「チビのぼくでも愛してるんなら、証拠が無いと」と。
唇にキスしてくれるだけでいいと、でないと信じられないと。
「馬鹿野郎!」
やっぱり裏があったんだな、とコツンと頭に落とした拳。
「そんなことだろうと思っていたさ」と、力は加減して。
「真面目に答えてやったというのに、そう来たか」と。
(こいつも、分かっているくせに…)
証拠なんかは無くってもな、と愛する心は変わらない。
どんなにブルーが我儘だろうが、唇へのキスを強請ろうが。
前の生から愛し続けた、ただ一人きりの人なのだから…。
証拠をちょうだい・了
- <<双子だったら
- | HOME |
- 青の間だったなら>>