「ねえ、ハーレイ…」
ちょっと質問があるんだけれど、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後、お茶の時間の真っ最中。
テーブルを挟んで向かい合わせで、赤い瞳を瞬かせて。
「質問だって?」
どうせロクでもないヤツだよな、とハーレイは鼻を鳴らした。
およそ真っ当な質問が来ない、こういう時間。
揚げ足取りのことが多くて、自然と警戒してしまう。
なにしろ小さなブルーときたら、あの手この手で…。
(キスを強請って来やがるからな…)
今日の質問も、きっとそれだぞ、と腕組みをして深い溜息。
そんな中身だと分かっていたって、聞いてやるしかない立場。
だから「それで?」と、顎をしゃくって促した。
質問の時間はサッサと済ませて、小さなブルーを叱ろう、と。
そうしたら…。
「あのね、ストレスっていうのはさ…」
身体に良くはないんだよね、と予想外の問いが降って来た。
文字通り、天からスッコーン! と。
ブルーの頭は、ハーレイの頭よりも低い所にあるのだけれど。
(ストレスだって…!?)
そいつはマズイ、と一気に神経が緊張する。
小さなブルーが抱えるストレス、それは右手が凍えること。
前の生の終わりに、メギドで冷たく凍えた右手。
最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりを失って。
「絆が切れた」と泣きじゃくりながら迎えた、孤独な最期。
今のブルーも覚えているから、右手が冷たくなるのが苦手。
悲しかった記憶が蘇って来て、ベッドで泣く夜もあるという。
メギドの悪夢を連れて来るのが、右手が冷たくなった夜。
今の季節は朝晩、冷え込む時もあるから…。
(ここの所、気温が低めだったし…)
そいつが来たか、とハーレイの背中も冷たくなった。
こうして「ストレス」と持ち出すまでに、何日あったか。
小さなブルーは一人で抱えて、どれほど辛かったことだろう。
もっと早くに言えばいいのに。
休日になるまで待っていないで、放課後に訪ねて来た時に。
そう思ったから、ブルーを真っ直ぐ見詰めて言った。
「ストレスなんぞは抱えていないで、すぐ俺に話せ」
でないと、お前が辛いじゃないか、と赤い瞳を覗き込む。
「どうして俺に言わなかった」と、「我慢するな」と。
小さなブルーの凍える右手は、こちらの心も痛くなる。
前のブルーを失った後に、前の自分を苛み続けた痛みと後悔。
失くすと気付いていたくせに何故、と何度も噛み締めた奥歯。
どうしてメギドへ行かせたのかと、前の自分の判断を悔いて。
いくらキャプテンの立場であっても、正しかったか、と。
(……参っちまうな……)
今の俺まで、と小さなブルーを抱き締めたくなる。
右手が凍えて冷たいのならば、いつでも側にいてやりたい。
二度とそういうことが無いよう、気を配りながら。
ブルーはそれを知ってか知らずか、ふわりと笑んだ。
「やっぱりストレス、良くはないよね?」
「当然だろうが、いい結果にはなりやしないしな」
俺に話してしまうといい、と力強くブルーに頷き掛けたら…。
「それじゃ、キスして! 唇に!」
「はあ?」
「もうストレスでおかしくなりそう、キスが貰えなくて!」
ホントのホントにストレスなんだよ、と訴えたブルー。
「辛くて身体が変になりそう」と、胃まで痛い、と。
「馬鹿野郎!」
それは仮病だ、とブルーの頭に落とした拳。
心配のし損だったから。
小さなブルーが抱える悩みは、ただの我儘だったのだから…。
ストレスって・了