(告白か……)
そういうヤツがあったんだっけな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で。
愛用のマグカップにたっぷりと淹れたコーヒー、それを片手に。
(…告白ってヤツは、プロポーズとは…)
違うモンだ、と思い付いた言葉を追い掛けてみる。
特に目的は無いのだけれども、戯れに。
寛ぎのコーヒータイムのお供に、丁度いい軽い考え事だ、と。
(愛してますとか、好きです、だとか…)
プロポーズよりは「軽め」になるのが、告白というものの意味。
結婚を求めるものではないから、ズシリと重くはないのだけれど…。
(それこそ当たって砕けろとばかりに…)
覚悟を決めて告白しにゆく場面も、この世の中には山とある。
ほんの子供の幼稚園児でも、ドキドキしながら告げに行ったりするものだから。
好意を抱いた相手の所へ、小さな花などを握り締めて。
(手を繋いで歩いてくれませんか、って…)
思い切って告げて、快く笑顔で受けて貰えたら、仲良く散歩。
幼稚園の園庭を、手を繋ぎ合って。
休み時間の間だけしか出来ないデートで、それでも満足。
(幼稚園児でも、一人前に…)
デートするヤツはいたもんだ、と微笑ましくなる昔の思い出。
人間が全てミュウになった今は、結婚も恋も、何百歳でも出来るけれども…。
(やっぱり、若い間ってヤツが…)
告白向けの時間だよな、という気がする。
年齢を重ねてゆけばゆくほど、言葉は重みを増すものだから。
同じに「愛してます」と言っても、幼稚園児と大人は違う。
心と身体の成長に合わせて、愛の形も変わるから。
幼稚園児が思うデートと、大人のデートは行き先からして別だから。
面白いもんだ、とコーヒーのカップを傾ける。
こうして口に含んだコーヒー、これにしたって、大人のデートなら小道具の一つ。
「コーヒーでも飲みに行きませんか」は、立派な誘い文句になるから。
一緒にコーヒーを飲むだけだったら、さほど覚悟は要らないから。
(……告白よりも、まだ軽めだな)
ちょいとデートに誘うだけなら…、と考える。
好意を持った相手だからこそ、コーヒーを飲みに誘うのだけれど…。
(断られたって、こいつは、さほど傷付かないんだ)
なにしろ喫茶店に誘うだけだし、相手の方も断わりやすい。
「この人と行くのは、ちょっと嫌だな」と思ったとしても、断るための言葉は色々。
(…ちょっと急いでいるんです、だとか、用事があるとか…)
相手の心を傷付けないよう、気配りをするのが断りの礼儀。
それに本当に急いでいるとか、用事があるという場合もあるから…。
(そういう時には、「また今度、誘って貰えませんか」と…)
言って貰えたら、充分、脈あり。
万々歳と言っていいだろう。
次に誘いをかけた時には、きっと一緒に来てくれるから。
そしてコーヒーを飲みに出掛けて、楽しく話して、気が合ったなら…。
(お次は、もっと本格的に…)
デートに誘う運びとなって、芝居に行くとか、ドライブだとか。
そうこうする間に、告白をすることになる。
「好きなんです」と思いをぶつけて、相手の返事を待つ時間。
もっともデートをしている時点で、まず断られはしないけれども。
(……そうなってくると、コーヒーを飲みに誘うのが……)
告白ってことになるのかもな、と顎に当てた手。
ただ喫茶店に誘っただけで、「好きです」とは言っていなくても。
告白よりは軽めの言葉で、相手を誘い出してはいても。
相手が気に入ってくれなかったら、喫茶店に来てはくれないから。
二人でコーヒーを飲みに行くのが、最初のデートと言えるのだから。
(そうしてみると、告白ってのは…)
大人だと出番が少なめなのか、という気もする。
何度もデートをしている仲だと、改めて「好きです」と告白したなら…。
(…プロポーズと同じくらいに、だ…)
重みを持って来る告白。
「今よりも、もっと深いお付き合い」、それをしたいという意味だから。
場合によっては、それがそのまま、プロポーズにもなることだろう。
「あなたが好きです。ずっと一緒にいて下さい」と言ったなら。
婚約指輪は持っていなくても、プロポーズするのと全く同じ。
相手が頷いてくれた時には、次のデートは…。
(二人で宝石店に出掛けて、婚約指輪を選ぶってことに…)
なるだろうしな、と容易に想像がつく。
婚約指輪を用意しておくのもお洒落だけれども、選びたい女性だっている。
自分の好みのデザインだとか、使いたい宝石がある女性。
(そのタイプだ、って分かっていたなら、指輪を贈ってプロポーズより…)
まずプロポーズで、それから指輪。
そうすることが出来るかどうかは、告白で決まる。
デートの最中に切り出して。
「好きです、一緒にいて下さい」と、一世一代の告白で。
(……うんと重いな、この告白は……)
軽めじゃないな、と思うものだから、大人だと出番が少ない告白。
子供のようにはいかない言葉で、当たって砕けたら大惨事。
だからやっぱり、告白向けの時間というのは、若い間のものだろう。
好きなら素直に思いをぶつけて、応えて貰えたら儲けもの。
幼稚園の園庭でデートするとか、もっと大きい子供なら…。
(一緒にショッピングモールに出掛けて、遊んで…)
買い物に、ちょっとした食事。
そんな「お付き合い」が似合いの間は、プロポーズよりも軽めの告白。
急いで伴侶を選ばなくても、まだまだ先は長いから。
何度告白して、何度されても、好きな人が何度も変わって行っても。
そう考えると面白いな、と思ったけれど。
「俺だって、学生だった頃には…」と、懐かしく思い出したのだけれど。
(……ありゃ?)
告白ってヤツはしていないんだ、と気が付いた。
される方は、何度もあったのに。
柔道と水泳の選手だった頃は、とてもモテたから。
ファンの女性が大勢いたし、差し入れにも不自由しなかった時代。
(好きです、付き合って貰えませんか、って…)
言われることは珍しくなくて、手作りのプレゼントを渡されたことも。
相手の女性は「当たって砕けろ」、そういう気持ちだっただろう。
なんと言っても「ハーレイ選手」は、「彼女」を持っていなかったから。
決まった女性がいないというなら、チャンスは誰にも平等にある。
告白をして、見事に心を掴んだならば…。
(…憧れの選手の彼女になれて…)
運が良ければ、ずっと付き合って、結婚だって出来るかも。
「ハーレイ選手」がどんなにモテても、捨てられないよう、努力したなら。
他の女性に盗られないよう、自分を磨き続けたならば。
(……あわよくば、と……)
告白して来た女性は多かったけれど、その逆は一度も無かった自分。
どんな女性にも、心を惹かれはしなかった。
美女も、とびきり可愛い女性も、ファンの中にはいたというのに。
タイプで言うなら「マメなタイプ」も、「華やかなお姫様」だって。
けれど誰にも、少しも靡きはしなかった自分。
どうしたわけだか、ただの一度も。
告白をされた時の返事も、いつもお決まりの断りの言葉。
その時々で変わったけれども、「今はスポーツに打ち込みたい」とか。
「練習時間がとても惜しいから、付き合う時間が取れないんだ」とか。
女性たちはガッカリしたのだけれども、笑顔で応援してくれた。
「これからも勝って下さいね」と。
(今から思うと、あれはブルーがいたからで…)
いつか巡り会う人を想って、自分は待っていたのだろう。
誰にも告白したりしないで、愛おしい人が現れるのを。
前の生から愛し続けた、ブルーが帰って来る時を。
(……ということは、告白するなら……)
相手はブルーで、まだ十四歳にしかならない子供。
もっと大きく育つ時まで、告白は待つべきだろう。
(チビのくせして、一人前の恋人気取りでいるんだし…)
下手に「好きだ」と言おうものなら、調子に乗るのに決まっている。
禁止している唇へのキスを貰おうとしたり、キスのその先を強請って来たり、と。
(……迂闊なことは出来ないからな……)
告白がそのままプロポーズだな、と未来の自分を想像する。
愛するブルーに指輪を贈って、「ずっと一緒にいて欲しい」とプロポーズ。
返事はとっくに分かっているのに、それでもドキドキすることだろう。
断わられはしないと分かっていたって、心臓がバクバク脈打って。
(……なんたって、一世一代の……)
ただ一度きりの告白なんだ、と笑みを浮かべる。
若人たちがしている軽めの告白、それとは重さが違っても。
告白がそのまま、プロポーズの意味を持っていたって。
(……告白するなら、とびきりの場所で……)
最高の返事を聞きたいものだ、と未来への夢が広がってゆく。
前の生では恋を隠し続けて、そのまま終わってしまったから。
「地球に着いたら」と二人で夢見た結婚、それは叶わなかったから。
だから今度は、この地球の上で、永遠の愛を誓い合いたい。
そうするためには、まずは告白する所から。
ただ一人きりの愛おしい人に、心からの愛と想いをこめて…。
告白するなら・了
※告白という言葉について、考え始めたハーレイ先生。最初は、ほんの軽い気持ちで。
考える内に気付いたことが、告白を一度もしていないこと。告白は、いつかブルー君に…v