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別れ話って

「ねえ、ハーレイ。別れ話って…」
 どう切り出したらいいのかな、とブルーが言い出したこと。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブルを挟んで、向かい合わせで。
「別れ話だと?」
 なんだそれは、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
 普通に「別れ話」と言ったら、恋人同士の仲が壊れそうな時。
 愛想を尽かした方の片割れ、それが相手を捕まえて「する」。
 もうお互いに限界だから、別れようと。
 二人の仲はこれでおしまい、会うのも今日で最後にしようと。
(しかしだな…)
 どうしてブルーが気にするんだ、と其処が解せない。
 切り出し方を尋ねるなどとは、穏やかではないものだから…。


(……学校の友達の話なのか?)
 誰か悩んでいるのだろうか、と頭に浮かんだブルーのクラス。
 それともクラスは別だけれども、幼馴染の誰かだとか。
(…そうかもしれんが、それにしたって…)
 別れ話には早すぎないか、と思うブルーの年齢。
 十四歳にしかならないのだから、恋にも別れ話にも早い。
(今じゃ人間は全員ミュウだし、寿命も長いし…)
 恋をするのも、のんびり、ゆっくり。
 初恋が芽生えるのは上の学校、それが今では標準コース。
(とはいえ、こいつの例もあるしな…)
 一人前の恋人気取りのチビと言えば…、とブルーを眺めた。
 前の生の記憶を継いだとはいえ、恋をしているのは事実。
 そうなってくると、例外だって無いとは言えない。
 ブルーと同い年で恋をした末に、別れ話な友達だって。


(…そいつを見かねて、俺に相談したってか?)
 有り得るな、と納得したから、改めてブルーに問い掛けた。
「別れ話とは穏やかじゃないが、何がしたいんだ?」
「んーとね…。上手な切り出し方とか、あるのかな、って」
 ハーレイだったら詳しそうだし、とブルーが傾げた首。
 「今のハーレイも、前のハーレイもね」と。
「はあ? 今はともかく、前の俺って…」
 どうしてそういうことになるんだ、とポカンとした。
 キャプテン・ハーレイだった時代に、別れ話の相談などは…。
「船の仲間のトラブル解決、前のハーレイの役目でしょ?」
 別れ話も管轄だと思う、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
 「だから訊くけど、どういう風に切り出すものなの?」と。
「うーむ…。そう言われれば、そうだったかもなあ…」
 相談に乗ったこともあったか、と時の彼方を思い出す。
 船には恋人たちも多くて、恋人同士の諍いだって。
 今の自分も、別れ話の相談を受けたことはあるから…。


「相手のプライドを傷付けないよう、注意することかな」
 そこが大事だ、と小さなブルーに教えてやった。
 相手も同じ人間なのだし、思いやりを忘れないように、と。
 そうしたら…。
「ありがとう! じゃあ、次にキスを断られるまでに…」
 思いやりのある言葉を考えておくね、と微笑んだブルー。
 「キスをくれないなら、別れてやるから」と。
「なんだ、お前の話だったか。なら、別れるか」
 次でなくても、今日でもいいが、と返したらブルーは大慌て。
 「酷いよ、別れてもいいの?」と。
 脅しをかけてやったつもりが、アテが外れて。
 別れ話に発展しそうで、繋ぎ止めないと大変だから。
(……面白いから、苛めてやるか)
 ニヤニヤしながらブルーを見詰めて、ゆったり頷く。
 「俺なら、別に別れてもいいぞ」と、「お別れだな」と…。




          別れ話って・了









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