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浮気してやる

「ねえ、ハーレイ。もう一度、確認したいんだけど…」
 念のために、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、テーブルを挟んで。
「確認って…。何をだ?」
「ハーレイが、いつも言ってることだよ。キスは駄目なの?」
 大きくなるまでしてくれないの、という質問。
 耳にタコが出来そうな話だけれども、答えは、きちんと。
「当然だ。前のお前と同じ背丈に育つまではな」
 俺の決心は変わらないぞ、とハーレイは怖い顔をしてみせた。
 何かと言えば、ブルーはキスを強請って来る。
 頬や額へのキスと違って、恋人同士の唇へのキスを。
 それをしてやるつもりなど無いし、例外だって有り得ない。
 だから睨んで「駄目だ」と叱る。
 どんな手段を使って来ようと、唇にキスはしないからな、と。


「それじゃ訊くけど、浮気されてもいいんだね?」
「はあ?」
 予想外だったブルーの言葉に、思わず間抜けな声が出た。
 浮気というのは何なのだろうか、ブルーには似合わない言葉。
 ところがブルーは真剣な顔で、「浮気だよ」と繰り返した。
「ハーレイがキスしてくれないんなら、浮気してやる!」
 ぼくはホントに本気だからね、と赤い瞳が深みを帯びる。
 「キスもくれないハーレイよりかは、優しい誰か」と。
「おい、浮気って…。お前がか?」
 チビのくせに、と笑ってやったら、眉を吊り上げたブルー。
「中身は、チビじゃないんだから!」
 三百年以上も生きたんだから、と前のブルーの歳を持ち出す。
 その頃の記憶を持っている以上は、チビではないと。
 浮気くらいは立派に出来ると、相手にも不自由しない筈、と。


「ほほう…。相手には不自由しないと来たか」
 そりゃ上等だ、と余裕たっぷりに腕組みをした。
 ブルーが如何に綺麗だろうと、十四歳には違いない。
 前のブルーの方ならともかく、今の姿では浮気なんかは…。
(まず無理と言うか、そもそも相手がいないと言うか…)
 第一、困るのはブルーなんだが、と可笑しくなる。
 浮気相手が見付かった時は、ピンチなのに、と。
「笑ってる場合じゃないよ、ハーレイ!」
 本当に浮気しちゃうからね、とブルーは続けた。
 キスしてくれる優しい相手と、幸せにデートして浮気、と。
「そりゃいいな。お前の欲しいキスが出来る、と」
「いいって、其処で焦らないわけ!?」
 浮気されても平気なんだね、と怒ったブルー。
 「そうなる前に、キスしようとは思わないんだ」と。


「思わんな。そもそも、俺は少しも困らん」
 困るとしたら、お前の方だ、とピタリと突き付けた指。
 「初めてのキスは、浮気相手になるんだからな」と。
「えっ…?」
 そんな、とブルーの瞳が真ん丸になる。
 「ハーレイとじゃなくて、別の誰か…?」と。
「そうなるだろうが。俺はそれでも気にしないがな」
 ファーストキスは貰えなくてもかまわんぞ、と笑んでやる。
 「他の誰かにプレゼントしろ」と、「俺の心は広いから」と。
「嫌だってば!」
 浮気しないよ、と慌てるブルーが可愛らしい。
 腕組みしたまま、ゆったり構えて心の広い恋人になる。
 「遠慮しないで浮気してこい」と、鳶色の瞳を煌めかせて…。




          浮気してやる・了










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