「ねえ、ハーレイ。ちょっと質問があるんだけれど…」
かまわないかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、いつものテーブルを挟んで。
向かい合わせでお茶を飲みながら、「かまわない?」と。
(……また来たか……)
ろくな質問じゃあるまいに、とハーレイは心で溜息をつく。
こういった時のブルーの質問、それは大抵、キスのこと。
十四歳にしかならないブルーは、唇へのキスを禁止された身。
一人前の恋人気取りなだけに、その仕打ちが嫌で質問する。
あの手この手で、なんとかしてキスを勝ち取ろうと。
意地悪な恋人に「参った」と言わせて、キスを貰おうと。
(だが、俺にだって、事情があるんだ)
その手に乗るか、と今日も身構える。
ブルーが何と言って来たって、バッサリと切って捨てようと。
まずは質問の確認から。
ブルーの瞳を真っ直ぐ見詰めて、問い返した。
「質問なあ…。中身にもよるが、お前は何を訊きたいんだ?」
「えっとね…。ハーレイ、告白されたら、どうする?」
「はあ?」
あまりにも予想外だっただけに、思わず、変な声が出た。
告白とは恋の告白だろうか、そんなものを誰がしてくるのか。
(……俺に告白しようってか?)
ブルーのことかと思ったけれども、よく考えたら毎度のこと。
しょっちゅう告白しているような感じなのだし、今更だろう。
(だったら、誰が…?)
サッパリ分からん、と鳩が豆鉄砲を食らったよう。
鳶色の目を丸く見開いて、ポカンとブルーを見ているだけ。
「だから、ハーレイが告白された時だよ!」
痺れを切らしたように、ブルーが叫んだ。
「もしも誰かに告白されたら、どうするの?」と。
「ハーレイには、ちゃんとぼくがいるのに」と、心配そうに。
(……なるほど……)
そういうことか、と納得がいった。
かつてはモテたのが今の自分で、ブルーも承知。
それで不安になったのだろう、誰かに奪い取られないかと。
(…だったら、いつもの仕返しにだな…)
少し苛めてやるとするか、と悪戯心が頭をもたげた。
キスを強請られてばかりなのだし、お返しだ、と。
たまにはブルーを困らせてやろうと、心の中でほくそ笑んで。
(そうと決まれば…)
よし、と小さなブルーに向き合った。
「相手によるな」と、余裕たっぷりに。
「俺の好みの相手だったら、受けるかもな」と。
「えっ…。受けるって、どういう意味?」
ちょっとデートをするだけだよね、とブルーが慌てる。
その場で断るのも申し訳ないし、断る前に、と。
「さあ、どうだか…。俺としては、やはり色々と…」
思う所もあるわけだしな、と瞑った片目。
「いい嫁さんになってくれそうだったら、考えないと」と。
「ちょ、ちょっと…! ぼくはどうなるの!?」
「さてなあ…。俺が結婚しちまった時は、まあ、幸せにな」
お前も誰か見付ければいい、とニヤリと笑う。
「いい男は他にも沢山いるし、女の子だって」と。
「嫌だってば! ハーレイ、告白、断ってよ!」
「俺にも選ぶ権利はあるしな、何も急いで断らなくても…」
暫くお付き合いをしてみるのも…、などとブルーを苛める。
「こんな意地悪も、たまにはいいさ」と。
ブルーが自分で言い出したのだし、焦る姿も可愛いから。
「可愛い子ほど、苛めたくなるもんだ」と心で言い訳して…。
告白されたら・了
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