「ねえ、ハーレイ。ちょっと訊きたいんだけど…」
答えてよね、と小さなブルーが言い出したこと。
二人きりで過ごす休日の午後に、向かい合わせで。
ティーカップやお菓子が載ったテーブル、それを挟んで。
「質問か? 勉強のことでは無さそうだな」
中身によるが、とハーレイは慎重に答えた。
とんでもないことを尋ねられても、困るから。
なにしろブルーは前科が山ほど、安易な返事は危険だから。
するとブルーも分かっているのか、ニコリと笑んだ。
「心配しなくても、普通のことだよ」と、愛らしい顔で。
警戒などは必要ないと、無垢な瞳を煌めかせて。
そういうことなら、答えてやってもいいだろう。
ハーレイは「よし」と促した。
まずは質問を受け付けなければ、答えは言えない。
「いったい何を訊きたいんだ? 普通のことだと言ってたが」
「えっとね…。ハーレイはコーヒー、大好きだよね?」
ぼくはコーヒーは苦手だけれど、とブルーが傾げた首。
「あんな苦いもの、何処がいいの」と不思議そうに。
「何処がって…。そりゃまあ、コーヒーは嗜好品だから…」
俺が美味いと思えば美味いもんだ、と答えてやった。
自分の好みに合っているから、舌が美味しく感じるのだと。
ブルーには苦くてたまらなくても、「其処が美味い」と。
遠く遥かな時の彼方でも、同じことをよく訊かれたもの。
前のブルーもコーヒーが苦手で、何度も文句を言っていた。
「こんな苦いもの、とても飲めない」と不満そうに。
自分が「飲みたい」と言い出したくせに、音を上げて。
(挙句に砂糖とミルクたっぷり、クリーム山盛り…)
そんなコーヒーに変えてしまって、飲んだのがブルー。
何処から見たって邪道だけれども、ブルーにはそれ。
(カフェの本場じゃ、無いこともないが…)
様々な種類のコーヒーがある街、其処なら甘い種類もある。
砂糖に加えて、泡立てたミルクがたっぷりだとか。
(…しかしだな…)
やっぱりコーヒーは普通が一番、というのが信条。
たとえブルーが何と言おうと、大好きなものはやめられない。
「お前には理解出来ないだろうが、あれがいいんだ」
コーヒーの無い人生なんて、と鼻を鳴らした。
今も昔もあれが好きだと、あの一杯があってこそだ、と。
するとブルーは、赤い瞳を輝かせて…。
「じゃあ、禁止!」
「はあ?」
何が禁止だ、とサッパリ意味が分からない。
けれどブルーは得々として、勝ち誇ったように微笑んだ。
「ハーレイは今日から、コーヒー禁止」と。
「ママにもちゃんと言っておくから、もう出さない」と。
「なんだって?」
何故コーヒーが禁止なんだ、と見開いた瞳。
どう転がったら、そんな話になるのだろう。
「え、だって…。好物なんでしょ、だから禁止だよ!」
ぼくも好物が貰えないから、とブルーは言った。
唇にキスが貰えない日々、おあずけばかりの人生だと。
ハーレイも一緒に我慢すべきだと、「コーヒーは禁止!」と。
「そう来たか…。まあ、かまわんがな」
好きにするといい、と小さなブルーに微笑み掛けた。
「コーヒーは家で飲めるからな」と、大人の余裕たっぷりに。
「俺は少しも困らないから、付き合ってやる」と。
所詮は小さな子供の浅知恵、ブルーはポカンとしているけど。
狙いがすっかり外れてしまって、ガッカリだけれど…。
禁止してやる・了
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