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勇気が必要

「ねえ、ハーレイ…。ちょっと聞きたいんだけど」
 かまわないかな、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、ブルーの部屋で。
 ティーセットが乗ったテーブルを挟んで、瞬きをして。
「かまわないが…。勉強のことではなさそうだな?」
 今の話題とは全く違うし…、と返したハーレイ。
 それにブルーは成績優秀、休日に改めて質問しなくても…。
(自分で答えを見付け出すってな、頑張って)
 そうに違いない、と考えていると、ブルーの方も頷いた。
 「うん、勉強とは関係無いね。ついでに今の話とも」
 全然違う質問なんだよ、と赤い瞳が深みを帯びた。
 とても真面目な話なのだ、と言わんばかりに。


 前のブルーを思わせるような、深い深い色の瞳の赤。
 見詰めていたら、スウッと引き摺りこまれるよう。
 遠く遥かな時の彼方へ、其処に浮かんでいた白い船へと。
「あのね、ハーレイ…。勇気は必要だと思う?」
 今のぼくにも、とブルーは尋ねた。
 すっかりチビになった自分にも、前の自分の頃のように、と。
「勇気って…。例えば、どういうのだ?」
 そう返しながら、ハーレイの背筋が冷たくなる。
 前のブルーの勇気と聞いたら、不吉なことしか思い出せない。
 たった一人で、メギドへと飛んで行ったこと。
 白いシャングリラを、ミュウの未来を守り抜くために。
 一人きりで飛んで行ってしまって、二度と戻りはしなかった。
 あんなにも寂しがりだったのに。
 寿命が尽きると知った時には、激しく泣いていたほどなのに。


 ハーレイの心を知ってか知らずか、ブルーはケロリと答えた。
「もちろん、前のぼくみたいなの…。ソルジャーとしての」
 ミュウの未来を守るためなら、何だって、という返事。
 命さえも捨ててしまえるくらいの勇気のこと、と。
(…やっぱり、それか…!)
 そんな勇気は御免蒙る、とハーレイは心底、震え上がった。
 今のブルーに勇気は要らない。
 命を捨ててしまわれたのでは、前と全く変わりはしない。
(今回だって、やりかねないしな…?)
 いくら平和な時代とはいえ、宇宙船の事故はたまにある。
 旅先などで遭遇した時、今のブルーが…。
(ぼくは後でいい、って他の客たちを救命艇に…)
 乗せた挙句に、自分一人が乗り遅れても不思議ではない。
 その場に「自分」がいたとしたって、止められるかどうか。
(とんでもないぞ…!)
 また俺が一人になるじゃないか、と握った拳。
 ブルーに勇気があった場合は、前と同じになりかねない、と。


 そう思ったから、ブルーの瞳を正面から見て、こう言った。
「今のお前に、勇気は要らん」
「えっ、どうして? 勇気はあった方がいいでしょ?」
 不満そうなブルーに、畳み掛けた。
「要らんと言ったら、要らんのだ。お前の分まで、俺が…」
 勇気を持つことにするからな、と宣言する。
 それならブルーを守り抜けるし、前のようになることもない。
 そうしたら…。
「じゃあ、勇気がある証拠を見せて」
 勇気があるならキス出来るでしょ、と言い出したブルー。
 「ぼくがチビでも、勇気があったら平気でしょ?」と。
「馬鹿野郎!」
 それは勇気と別物だろうが、とブルーの頭に落とした拳。
 心配した分、いつもより少し力をこめて。
 おしおきの意味もしっかりとこめて、軽く、コツンと…。




          勇気が必要・了









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