「ねえ、ハーレイ。…前のぼくのこと、どう思う?」
いきなり投げ掛けられた問い。
ブルーと過ごす休日の午後に、お茶を飲んでいたら。
テーブルを挟んで向かい合わせで、寛ぎの時間の真っ最中に。
(…前のブルーだと!?)
表情には出さなかったけれども、ハーレイは内心、狼狽えた。
ブルーが「前のぼく」と言ったら、ソルジャー・ブルー。
今も心の奥から消えない、前の生で恋をしていた人。
(……まさか、バレたか!?)
あいつのことを忘れられないのが、と背中に流れた冷たい汗。
チビのブルーには内緒だけれど、書斎の机の引き出しには…。
(あいつの写真集が入れてあるんだ…)
それは『追憶』というタイトルの本。
前のブルーの一番有名な写真が表紙の、後世に出た写真集。
毎晩、机の引き出しを開けて、前のブルーに語り掛ける。
他愛ないことなどを、今も彼が生きているかのように。
今のブルーは、サイオンがまるで使えない。
心を読むことなど出来はしないし、バレる心配は…。
(全く無いと思ってたんだが、いつの間に…!)
これはマズイ、と心臓の鼓動が早くなる。
前のブルーに嫉妬しているのが、チビのブルー。
鏡に映った自分に喧嘩を売る子猫みたいに、目の敵にする。
そんなブルーにバレたとなったら、ただでは済まない。
(…あの写真集を捨てろってか!?)
今のブルーなら、言いかねない。
家に来ることは禁じてあるから、あの本を此処へ…。
(持って来て、目の前で破り捨てろと…?)
そうなった時は、どうすればいいと言うのだろう。
前のブルーも今のブルーも、魂は全く同じだけれど…。
(…だからと言って、前のあいつの写真集を…)
捨てることなど、とても出来ない。
破るなんて、出来る筈もない。
(……どうすりゃいいんだ……)
大ピンチだぞ、と身が縮む思い。
あの写真集を破るとなったら、心まで破れそうだから。
(…前のあいつを、捨てるみたいで…)
それも俺の手で引き裂いて…、と血の涙まで溢れて来そう。
小さなブルーはそれで良くても、大満足で輝く笑顔でも。
(…このハーレイ、一世一代のピンチ…)
なんというヘマをしたのだろうか、と悔いは尽きない。
チビのブルーに、心を読まれたなんて。
未だに忘れられない恋人、その存在を知られたなんて。
(なんてこった…!)
窮地に追い詰められた所へ、チビのブルーが笑いかけた。
「前のぼくって、とても心が強かったよね」と。
「はあ?」
何の話だ、と言いかけて、慌てて取り繕った。
「そうだな、あいつは強かったな」と。
そうしたら…。
「だからね、ぼくも見習うべきだと思うんだよ」
諦めちゃったらダメだもんね、と胸を張ったブルー。
「ハーレイがキスをしてくれるまでは、諦めないよ」と。
「おいおいおい…」
いつもだったら、此処で「馬鹿野郎!」と言うのだけれど。
小さなブルーを叱るのだけれど、窮地を脱したものだから…。
(……たまにはなあ……?)
寝言だと思って聞き流すかな、と浮かべた笑み。
前のブルーを想う気持ちは、バレてはいないようだから。
何も知らないチビのブルーは、自分の気持ちで手一杯。
(よしよしよし…)
そのまま気付いてくれるんじゃないぞ、と今日は広い心。
たまには、こういう日だっていい。
チビのブルーを叱らなくても。
言いたいように言わせておいても、心は痛くならないから…。
陥ったピンチ・了
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