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酒の上なら

「ねえ、ハーレイ…。今も好物、変わってないよね?」
 前の時と、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、向かい合わせで腰掛けて。
 ブルーの部屋にある、いつものテーブルと椅子。
 其処で出て来た、そういう質問。
「好物って…。変わっていないということは無いぞ」
 前の俺とは違う部分も大いにあるな、と答えたハーレイ。
 何故なら、本当にそうだったから。
「変わっちゃったの?」
 なんで、とブルーは目を丸くする。
 今のハーレイも前と同じで、好き嫌いというものが無いから。
 そうだと何度も聞いているから、解せなくて。


「変わった理由か? それはだな…」
 まずは地球だな、と立てた人差し指。
 今のブルーも、今のハーレイも、住んでいる場所は青い地球。
 遠く遥かな時の彼方で、前のブルーが焦がれた星。
 蘇った母なる水の星の上では、何もかもが前と違っている。
 其処にある物も、地球で暮らしている人々も。
 だから自然と異なるものだ、とハーレイはブルーに話した。
 今のハーレイの大好物は、母が作ったパウンドケーキ。
 幼い頃から馴染んだ味で、その母は血が繋がった母。
 SD体制の時代には何処にも無かった、本物の「おふくろ」。
 「おふくろの味」が出来てしまえば、何もかも変わる。
 前のハーレイは、「おふくろ」を知らなかったから。
 育ててくれた養父母でさえも、まるで覚えていなかったから。


 そんなこんなで、変わった好物。
 前のハーレイなら、どうでも良かったパウンドケーキ。
 きっとブルーもそうだろうから、「分かるだろう?」と。
「そっか…。それなら、ぼくも同じかも…」
「ほらな。変わらない方がおかしいんだ」
 時代に合わせて変わっちまう、と浮かべた笑み。
 「見た目はともかく、前の俺とは違うもんだ」と。
「うーん…。だけど、お酒は好きなんじゃないの?」
 ぼくのパパとも飲んでるものね、と返したブルー。
 「前のハーレイも好きだったでしょ」と、赤い瞳を瞬かせて。
「酒か…。あれなら今でも好きだな、うん」
「ほら、変わってない」
「いやいや、今は地球の水で仕込んだ美味い酒があるし…」
 酒の好みは変わったかもな、と笑顔で返す。
 同じ酒でも、あの頃とは違うものだから。
 白いシャングリラで飲んだ酒とも、改造前の船にあった酒とも。


「お酒の好みも変わっちゃったの? でも…」
 飲み方は変わっていないでしょ、とブルーは興味津々。
 酒を入れる器の種類などは増えても、酒には違いないから、と。
「それはまあ…。熱燗だとか、そういうのはあるが…」
「無礼講だって、今もあるでしょ?」
「あるな」
 なかなかに愉快な酒の席だ、と緩んだ頬。
 そうしたら…。
「次はお酒を用意しておくね。無礼講なら、いいんでしょ?」
「はあ?」
「酒の上なら、ハーレイがぼくにキスしちゃっても…」
「馬鹿野郎!」
 この部屋で酒は決して飲まん、とブルーの頭を軽く小突いた。
 小さなブルーに、キスはしないと決めているから。
 無礼講でも酒の上でも、ブルーの罠には掛からないから…。




           酒の上なら・了







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