「ねえ、ハーレイ…。ちょっと質問なんだけど」
ブルーが切り出したのは、日が暮れてから。
いつもの部屋で、テーブルを挟んで向かい合わせで。
学校で授業があった日のことで、ハーレイは夕方に訪れた。
柔道部の部活を指導した後、濃い緑色の愛車に乗り込んで。
車を駐車スペースに停めると、窓から手を振ったブルー。
それは嬉しそうに、笑顔が弾けるように。
「待ってたよ!」という声まで、耳に届いてくるかのように。
ブルーの部屋へと通された後は、のんびり、お茶の時間。
夕食の支度が出来るまでの間、二人でゆっくり過ごせるけれど。
「質問だって…?」
珍しいな、とハーレイは目を丸くした。
小さなブルーは成績優秀、質問などは殆ど必要としない。
自分の力で答えを見付けて、見事に解決してしまうのが常。
「うん、それが…。そこが問題」
「はあ?」
どういう意味だ、と掴みかねた意味。
質問自体が珍しいことが、どう問題だというのだろう。
(…分からんな…)
だが放ってもおけないし…、と首を捻ったら、瞬いたブルー。
「えっとね…。抜き打ちテスト、したでしょ?」
「ああ、アレか」
たまには不意打ちも必要だろう、と苦笑した。
予告してからのテストばかりでは、手を抜く生徒も多くなる。
すっかりと気を緩めてしまって、勉強を疎かにする生徒が。
そういう理由で、抜き打ちテスト。
あちこちで悲鳴が上がったけれども、きっとブルーは満点の筈。
「酷い点数を取ったヤツらは、補習だ」と脅したのだけど。
普通の授業が終わった放課後に、居残りをさせて。
(ブルーは、そこにはいないんだがな…)
だからサッサと切り上げないと、と考える補習。
出来れば仕事を早く終わらせ、ブルーの家に寄りたいから。
今日のように二人で、テーブルを挟んで座れるように。
他愛ない話を交わす時間も、宝石のようなものなのだから。
そうしたら…。
「…ぼくが零点だったら、補習?」
ブルーの口から、信じられない言葉が飛び出した。
よほど遊んでいない限りは、零点を取るなど、有り得ないのに。
真面目に勉強している子ならば、満点を取れる筈なのに。
「お前、解答欄、間違えたのか?」
それでも1点くらいは入るぞ、と返したものの、動揺した。
まさかブルーが補習だなんて、夢にも思わなかったから。
放課後の学校に居残りをさせて、指導だなんて。
「ううん、そうじゃなくて…。ちゃんと書いたけど…」
「なら、満点の筈だろう?」
「だから問題なんだってば! 補習、受けたいから!」
少しでもハーレイと一緒にいたいよ、というブルーの言い分。
貴重なチャンスを逃したくないと、なのに逃してしまった、と。
「…おいおいおい…」
そう焦るな、と銀色の頭をポンと叩いてやった。
「補習なんかより、此処で会う方がいいだろう?」と。
「何より、二人きりでお得だ」と、笑みを浮かべて。
「……そうなのかな?」
「そうだとも」
お得な方を選んでおけよ、と釘を刺す。
でないと、ブルーは「やりそう」だから。
次の抜き打ちテストがあったら、零点を目指しかねないから…。
零点だったら・了