忍者ブログ

分けるのが一番

「ねえ、ハーレイ? 分けることって…」
 大切だよね、と小さなブルーが傾げた首。
 二人で過ごす休日の午後に、テーブルを挟んで向かい合わせで。
「うん? どうしたんだ、急に?」
 分けるというのは何の話だ、とハーレイは赤い瞳を見詰めた。
 もしかしてブルーは、ケーキを分けて欲しいのだろうか?
 ブルーの母が焼き上げてくれた、大好物のパウンドケーキ。
 隣町に住む自分の母のと、そっくりな味に出来上がるもの。
 「おふくろの味だ」と喜んでいるのを、ブルーは充分に承知。
 それを横から「欲しい」と言っても、分けて貰えるかどうか…。
(…俺を試してやがるのか?)
 ブルーだからな、と浮かんだ苦笑。
 十四歳にしかならないブルーは、何かといえば試したがるから。
 「小さな自分」にも、ちゃんと愛情を持ってくれるかどうか。


 きっとそうだな、と考えたから、皿の上のケーキを指差した。
「こいつを分けて欲しいのか? 珍しいな」
 晩飯が入らなくなっても知らんぞ、と念を押す。
 小さなブルーは食が細くて、じきにお腹が一杯になる。
 「ハーレイの愛情」を試したばかりに、そうなる可能性はある。
 分けて貰ったケーキの分だけ、胃袋の中身が増えてしまって。
 大喜びで食べた後には、「晩御飯、あまり食べられないよ」と。
 そうなった時は、ブルーの両親が心配をすることだろう。
 自分たちの大事な一人息子が、今夜は具合が悪いのかと。
 「大好きなハーレイ先生も一緒の夕食」が、入らないくらいに。
 けれどブルーは、「そうじゃなくって…」と瞳を瞬かせた。
 「ぼくが言うのは、分けることだよ」と。


「分けることって…。このケーキだろ?」
 ちょっと欲しいと言うんだろうが、と訊き返した。
 「俺の大好物のケーキを、俺が譲ってくれるかどうか」と。
「それも試してみたいけど…。ケーキじゃなくても…」
 分けるのが一番だと思うんだよね、とブルーは笑んだ。
 どんなものでも、一人占めより、分け合うのがいいと。
「ふむ…。まあ、その方が世の中、素敵ではあるな」
「でしょ? だからね…」
 分け合うのがいいと思うんだけど、というのがブルーの言い分。
 「ハーレイもそれに賛成だったら、ちょうどいいよね」と。
「おいおいおい…。ケーキじゃないなら、何を分けたいんだ?」
 俺にはサッパリ分からんのだが、と捻った首。
 どうにも見当がつかない上に、他に分けられるものも無いから。
 そうしたら…。


「ハーレイの愛情に決まってるじゃない!」
 一人で抱え込んでいないで、ぼくにも分けて、と輝いた瞳。
 「分けるのが一番いいと思うなら、ぼくにキスして」と。
「馬鹿野郎!」
 なんでそうなる、とブルーの頭に落とした拳。
 痛くないよう、加減しながらコッツンと。
 愛情もケーキも、ブルーになら分けてやりたいけれど…。
(キスは駄目だ、キスは!)
 俺は子供にキスはしない、とお決まりの台詞。
 それは出来ない注文だから。
 ケーキは分けてやれるけれども、キスは決して贈らないから…。




         分けるのが一番・了









拍手[0回]

PR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
 管理人のみ閲覧
 
Copyright ©  -- つれづれシャングリラ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]