「ねえ、ハーレイ。複雑だよね…」
ホントにとても困っちゃうよ、と小さなブルーが零した溜息。
二人で一緒に過ごす休日、ブルーの部屋で。
いつものテーブルを間に挟んで、赤い瞳を揺らしながら。
「複雑って…。それに困り事か?」
どうしたんだ、と問うたハーレイ。
恋人が困っているとなったら、力になってやりたいもの。
いくら小さな恋人でも。
十四歳にしかならない子供で、中身も子供そのものでも。
「んーとね…」
なんて言ったらいいのかな、と口ごもるブルー。
さも困ったと言うように。
どう切り出したらいいというのか、自分でも迷っているように。
こんな時には大人の出番で、年上のハーレイが尋ねるべき。
小さなブルーが抱える悩みが、少しでも軽くなるように。
だから「どうした?」と微笑んだ。
「俺でいいなら相談に乗るぞ」と、赤い瞳を真っ直ぐ見詰めて。
「本当に? でも、ハーレイに分かるかな…」
ちょっと心配、と上目遣いに見上げるブルー。
「だって、ハーレイは大人だものね」と、言いにくそうに。
「おいおいおい…。妙なことでなければ、ちゃんと聞いてやるぞ」
変な話はお断りだが、と刺した釘。
何かと言ったらキスを強請るのが、小さなブルー。
頬や額へのキスと違って、唇へのキスを。
「ぼくにキスして」と、隙さえあれば。
(…用心に越したことは無いからな…)
こいつは悪知恵が回るんだ、と重々、承知。
今日までに何度ブルーを叱って、頭をコツンと小突いたことか。
「キスは駄目だと言ってるだろう」と。
「俺は子供にキスはしない」と。
それで今回も、先回りをしておいたのだけれど…。
「ねえ、ハーレイ。神様って、とても意地悪だよね」
「はあ?」
意表を突かれて、丸くなった目。
小さなブルーに現れた聖痕、お蔭で地球で再会できた。
神様に感謝することはあっても、意地悪だとは、何事なのか。
「お前なあ…。神様は意地悪なんかじゃないぞ」
俺とお前を、地球に連れて来て下さったじゃないか、と顰めた顔。
「なのにいったい、何を言うんだ」と咎めるように。
そうしたら…。
「だって、ぼくだけ子供なんだよ」
「…子供?」
「うん。ハーレイは、前とおんなじなのに…」
なんでぼくだけ子供なわけ、と嘆いたブルー。
「前と同じに生まれていたなら、すぐに結婚できたのに」と。
「なるほどなあ…。それで複雑だったのか」
「そう。神様には感謝してるけれども、複雑だよね…」
チビだなんて、とブルーが指差す自分の顔。
「神様、どうしてチビにしたんだろ」と。
小さなブルーの気持ちは分かる。
けれどチビでも、その方がいいと思いもする。
ブルーはこれから幸せになるし、小さい分だけ、夢も大きい。
「お前は複雑かもしれんがな…。チビの方がいいな」
ゆっくり大きくなってくれ、と銀色の頭を優しく撫でた。
「俺は、いつまでも待ってるから」と。
ブルーが大きくなってくれる日を、二人でキスが交わせる日を…。
複雑だよね・了