「ねえ、ハーレイ。ちょっとお願いがあるんだけど…」
かまわない? とハーレイに尋ねたブルー。
休日の午後に、ブルーの部屋で二人で過ごしていたら。
今はお茶の時間で、テーブルの上にはケーキと紅茶。
そんな状況で、「お願い」ということならば…。
(…ケーキを分けてくれってか?)
こいつが好きそうなケーキだしな、と皿のケーキに目を遣る。
好き嫌いが無いブルーだけれども、それなりに好みはあるだけに。
(……そうでなければ……)
お馴染みの厄介な「お願い」なんだ、と眉間に寄せた皺。
「ぼくにキスして」がブルーの「お願い」の定番だから。
そういったことを踏まえた上で、ブルーを見詰めて、こう答えた。
「お願いというヤツの中身によるな」
モノによっては聞いてやってもいい、と腕組みをする。
「なんでも聞いてやるとは言わん」と、予防線を張って。
「えーっと…。難しいことじゃないんだけれど…」
うんと簡単、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
「ホントに簡単なことなんだよ」と、笑みを浮かべて。
「ふうむ…。簡単かどうかは、聞いてみないと分からんな」
「褒めてくれればいいんだってば!」
たったそれだけ、と返したブルー。
「ぼくを褒めて」と、輝くような笑顔で。
「はあ?」
なんでお前を褒めねばならん、と傾げた首。
今日のブルーは、特別なことをしたわけではない。
いつもの休日と何処も変わらず、午前のお茶に、それから昼食。
(でもって、今が午後のお茶で、だ…)
褒める理由が何も無いぞ、と全く思い当たらない。
ブルーは何を褒めて欲しいのか、褒めるような事があったのかも。
「んーとね…。別に何でもいいんだけれど…」
とにかく褒めて、とブルーは「褒めて」を繰り返した。
「それがお願い」と、「褒めてくれればいいだけだから」と。
「おいおいおい…。褒めるってことが大切なのか?」
「そう! 褒めて貰ったら伸びるから!」
ぼくの背がね、と小さなブルーは胸を張る。
「褒めて伸ばす」って言うじゃないの、と得意げな顔で。
「…それで、お前の背が伸びると?」
ミルクを飲むとか、食事をした方が現実的だが、と呆れてしまう。
「褒めて伸ばす」のは学力などで、背丈のことではない筈だから。
「藁にも縋るって言うじゃない!」
ぼくは藁にも縋りたいんだよ、とブルーは赤い瞳で見上げてくる。
「背が伸びないとキスも出来ない…」と、厄介なことを口にして。
「なるほどな…。お前の魂胆は、よく分かった」
それなら褒めてやろうじゃないか、と吸い込んだ息。
「ホント!?」
「ああ、本当だ。お前は実に悪知恵がよく働いて…」
ついでに野心に燃えているな、と「悪いブルー」を褒めたから…。
「それは無し! もっと普通に!」
「いや、駄目だ。俺は褒めると決めたんだからな」
遠慮しないで褒められておけ、と続ける悪口。
褒められたものではないのがブルーで、それを褒めるのも面白い。
悪口だけれど、誉め言葉だから。
とても悪知恵の回るブルーを、とことん褒めてやるのだから…。
褒めて伸ばして・了