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腹が立つから

(…………???)
 なんだか様子が変なんだが、とハーレイが眺めたブルーの顔。
 今日は休日、ブルーの家を訪ねて来たのだけれど…。
(どうも口数が少ないし…)
 おまけに殆ど笑いもしない、と少し心配になって来た。
 何処か具合が悪いのだろうか、我慢して黙っているだけで。
 微熱があるとか、頭痛がするとか、腹痛だとか。
(こいつは、いつも無理をするから…)
 油断出来んぞ、と向かいに座った恋人を見る。
 十四歳にしかならないブルーが、とても楽しみにしている休日。
 一日、二人一緒に過ごせて、夕食までは二人きりだから。
 そういう時間を失くしたくなくて、ブルーが何度もついた嘘。
 風邪を引いても黙っていたとか、熱があるのに起きていたとか。


(…今日もどうやら、そいつらしいな?)
 妙に口数が少なすぎるのは、身体が辛いからだろう。
 笑わないのも、元気が無いから。
(早いトコ、叱って寝かせないと…)
 いっそう具合が悪くなるぞ、とブルーの瞳をひたと見据えた。
「おい、ブルー。今日は具合が悪そうだな?」
 嘘をついても俺には分かる、と赤い瞳を覗き込む。
 「辛いんだったら寝た方がいい」と、ベッドの方を指差して。
 そうしたら…。
「やっぱり、ハーレイにも分かるんだ…」
 ぼくが辛いの、と答えたブルー。
 「治らないんだよ」と、「とても具合が悪いんだけど」と。


 聞き捨てならないブルーの言葉。
 一刻も早くベッドに寝かせて、身体を休ませないといけない。
 こんな所で座っていないで、お茶もお菓子も放り出して。
「こら! 無理をするなと何度も言っているだろう!」
 早く寝に行け、と叱り付けたら、ブルーは瞳を瞬かせた。
「寝たら治るってものでもないから…。本当だよ?」
「屁理屈を言うな! 寝てる間に帰ったりはせん」
 だから寝るんだ、と言ったのだけれど。
「…お腹の辺りが苦しくて…。うんと辛くて…」
「腹の具合って…。それなら薬を飲まんといかん」
 俺が貰って来てやろう、と立とうとしたら、止められた。
 「それじゃ駄目だよ」と、「薬じゃ駄目」と。


「おいおいおい…。どんな感じに苦しいんだ?」
 薬が効かない辛さなんて、と尋ねたら…。
「腹が立って仕方ないんだよ! ハーレイに!」
「はあ?」
「ぼくにキスしてくれないから…。だから辛くて…」
 こうしているのも苦しいんだよ、とブルーが歪めた唇。
 「薬じゃ駄目だから、ぼくにキスして」と、上目遣いで。
 「それで治るよ」と、「本当に、すぐに治るから!」と。
「馬鹿野郎!」
 だったら、一日苦しんでいろ、とコツンと叩いたブルーの頭。
 痛すぎないよう、加減しながら拳骨で。
 銀色の頭を、上から軽く。
 そんな病気は、治さなくても心配などは要らないから。
 「腹が立つから具合が悪い」なら、放っておいても平気だから…。




           腹が立つから・了









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