「ねえ、ハーレイって…」
おじさんだよね、と小さなブルーが傾げた首。
今日は休日、ハーレイはブルーとテーブルを挟んで向かい合わせ。
午後のお茶を楽しんでいたのだけれども、妙な質問が飛び出した。
「おじさんだよね?」と、今はチビになった恋人の口から。
(……おじさんだって?)
まあ、おじさんには違いないが…、とハーレイが浮かべた苦笑。
生まれ変わって来た恋人は、十四歳にしかならない子供。
それに比べて自分はと言えば、とうに三十八歳だから。
「おじさんなのか、と訊かれたら、違うとは言えないな」
お前から見れば「おじさん」だろう、とハーレイは頷いた。
どう考えても「お兄さん」と呼んで貰える年ではない。
相手が、ブルーと違っても。
ブルーと同い年の他の生徒でも、もっと上の学年の生徒でも。
「そうだよね…。今のハーレイ、おじさんだものね…」
仕方ないかな、とブルーが呟く。
「おじさんなんだし、おじさんらしくしないとね」などと。
「おいおいおい…。何なんだ、その、おじさんってのは」
おじさんらしく、とは何のことだ、とハーレイは目を丸くした。
外見のことを言っているなら、もう充分に「おじさん」だろう。
若作りなどしてはいないし、何処から見たって中年だから。
(おじさんらしい、という意味で言ったら、俺はとっくに…)
立派な中年男なんだが…、と考えていたら、微笑んだブルー。
それは愛らしく、天使のように。
「えっとね…。おじさんっていうのは、紳士でしょ?」
「はあ?」
「お兄さんは紳士じゃないと思うし、おじさんが紳士」
そうじゃないの、とブルーが見詰める。
赤い瞳で「紳士は、おじさんのことじゃないの?」と。
「それはまあ…。紳士と言うなら、そこそこの年だな」
学生なんかじゃ、まだ紳士とは言えんだろう、と返した答え。
若い紳士もいるのだけれども、「一般的には、おじさんだな」と。
「やっぱりね…。だから仕方がないんだけれど…」
紳士だものね、と繰り返すブルー。
「今のハーレイは、おじさんだから」と謎の台詞を。
「さっきから何を言っているんだ? 俺にはサッパリ…」
言葉の意味が掴めんのだが…、と問い返したら。
「ハーレイ、紳士だからキスしないんでしょ?」
「なんだって?」
「紳士らしく、って思ってるから、キスはお預け…」
おじさんだものね、とブルーが零した溜息。
「年相応に振る舞ってるから、ぼくにキスは無し」と。
「馬鹿野郎!」
俺がおじさんで悪かったな、とブルーの頭に落とした拳。
痛くないよう、軽く、コツンと。
「そう思いたいのなら、思っておけ」と「その手は食わん」と。
ブルーにキスをしない理由は、今のブルーが子供だから。
あの手この手で誘われようとも、キスをしようとは思わない。
たとえ「おじさん」と言われても。
中年にしか見えない姿を、若い恋人に指摘されようとも…。
おじさんだものね・了