「あのね、ハーレイ…」
ちょっと話があるんだけれど、と小さなブルーが言い出したこと。
今日は休日、ブルーの部屋でテーブルを挟んで向かい合わせ。
お茶の時間の真っ最中に、赤い瞳に見詰められた。
「話なら、今、してるだろうが」
「そうだけど…。そうじゃなくって、真剣な話」
「…キスの話なら、お断りだぞ」
聞くまでもない、とバッサリ切ったハーレイ。
十四歳にしかならないブルーは、何かと言えばキスを欲しがる。
前のブルーと同じ背丈に育つまでは禁止、と告げてあるのに。
「違うよ、キスの話じゃないよ。でも、ちょっと…」
ちょっとくらいは関係あるかも、とブルーは瞬きをした。
「ぼくじゃなくって、ハーレイの問題なんだけれどね」と。
「はあ?」
なんで俺だ、とハーレイはポカンと目を見開いた。
どう転がったらキスの話が、問題なのかが分からないから。
(…こいつは何が言いたいんだ?)
キスを禁じているのは俺だが…、と目の前のチビの恋人を見る。
そういう決まりを決めているのは自分なのだし、問題などは…。
(どう考えても、無い筈だがな?)
サッパリ分からん、と首を捻った所へ、ブルーが笑んだ。
「あのね…。ぼくじゃなくても、キスしてもいいよ」
「……は?」
誰が、と思わず訊いてしまった。
いったい誰がキスをしてもいいのか、まるで全く謎でしかない。
「決まってるでしょ、ハーレイだってば」
「俺!?」
「そう! ぼくは心が広いから…」
他の誰かとキスをしたってかまわないよ、と微笑むブルー。
「ぼくはいいから」と、「ハーレイだって、キスしたいよね」と。
「なんで俺が…!」
「え、だって…。今のハーレイ、モテそうだから…」
誘惑する人もいそうじゃない、とブルーは笑顔。
「誘惑されたら、キスしていいよ」と、余裕たっぷりに。
(……うーむ……)
なんと反応すればいいのか、悩ましい所。
小さなブルーは、独占欲が強い筈。
「ハーレイに彼女がいたのかも」と、涙ぐんだ日もあったほど。
前の生の記憶が戻らない頃は、他の誰かとキスをしたかも、と。
(ついでに、前のブルーにだって…)
嫉妬するのが今のブルー。
「ハーレイの心に住み着いている」と、前の自分をライバル扱い。
(それなのに、俺が他の誰かにキスしてもいいだと…?)
どうも変だ、と思うけれども、それよりも前の問題として…。
「あのなあ…。お前のお許しが出たとしても、だ…」
俺は誘惑などには乗らん、と言い切った。
とびきりの美女がやって来ようが、誰もがときめく女優だろうが。
「…そうなんだ…。だけど、それだと辛いだろうし…」
チビだけど、ぼくで我慢してね、と返った返事。
「誰かに誘惑された時には、我慢しないで、ぼくにキスして」と。
「馬鹿野郎!」
それが狙いか、とブルーの頭に落とした拳。
コツンと、痛くないように。
けれどもブルーが懲りるようにと、真上から、軽く。
「俺は子供にキスはしない」と。
それくらいなら我慢でいいと、「俺の心はお前のものだ」と…。
誘惑されたら・了