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目は口ほどに

(……ん?)
 いったい急にどうしたんだ、とハーレイが見詰めたブルーの顔。
 今日は休日、午前中から恋人の家を訪ねて来た。
 恋人と言っても、十四歳にしかならないチビだけれども。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わって再び巡り会えた人。
 ところがブルーは遥かに年下、おまけに学校の教え子と来た。
 なのに一人前の恋人気取りで、何かと言えば…。
(ぼくにキスして、と来たもんだ)
 何度駄目だと叱り付けても、唇へのキスを強請って来る。
 子供には、それは早すぎるのに。
 前のブルーと同じ背丈に育つまでは、と禁じたのに。


 そういうブルーが、急に黙った。
 お茶を飲みながらの会話の途中で、前触れもなく。
(…普通に話していた筈なんだが?)
 気に障ることは言っちゃいないぞ、と自信がある。
 小さなブルーが怒り出すのは、「キスは駄目だ」と叱られた時。
 たちまちプウッと膨れてしまって、もうプンプンと…。
(怒っちまって、「ハーレイのケチ!」で…)
 散々に罵倒されるけれども、さっきまでの話題は全く違う。
 どうしてブルーが沈黙するのか、心当たりがまるで無い。


(……ふうむ?)
 分からんな、と深まる疑問。
 ついでに一言も喋らないブルー。
 唇をキュッと引き結んだままで、赤い瞳を瞬かせて。
 ただ真っ直ぐにこちらを見据えて、特に怒った様子でもない。
(はて…?)
 俺が失敗しちまったのか、と思い返してみる会話。
 自分にとっては些細なことでも、ブルーはカチンと来ただとか。
(……しかしだな……)
 ただのケーキの話じゃないか、と見下ろす皿。
 ブルーの母が焼いたケーキで、その味について話していた筈。
 「美味いな」と顔を綻ばせながら、頬張って。


 どう転がったら、それでブルーが黙るのか。
 怒った顔はしていなくても、少し機嫌を損ねてしまって。
(……どうしたもんだか……)
 此処は潔く謝るべきか、と思った所へ聞こえた声。
 正確に言うなら「感じた」声で、ブルーの心が零れて来た。
『ハーレイ、鈍い…』
(鈍いだと?)
 やはりブルーを怒らせたのか、と焦ったけれど。
『ぼくがこんなに見詰めているのに、分かんないわけ…?』
(はあ…?)
 何のことだ、と目をパチクリとさせたけれども。


『目は口ほどに物を言う、って言うじゃない…!』
 ぼくの気持ちが分からないなんて、とブルーは愚痴った。
 心が外に零れているとも知らないで。
 「キスしてくれるのを待っているのに、ホントに鈍い」と。
(……そういうことか……)
 馬鹿者めが、と理解したから、キスの代わりに弾いた額。
 指先でピンと、ブルーの額を。
「痛いっ!」
 何をするの、というブルーの抗議に、ニンマリと笑う。
 「筒抜けだぞ?」と、余裕たっぷりに。


「目は口ほどに物を言うってか。お前の心の方がだな…」
 もっと沢山喋っていたさ、と言えばプウッと膨れた恋人。
 「酷い!」と、「ハーレイ、ケチなんだから!」と。
 けれど、ケチでもかまわない。
 小さな恋人が愛おしいから。
 唇にキスをしない理由を、全く分かってくれなくても…。




         目は口ほどに・了









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