「おっ? 今日はパウンドケーキなんだな」
美味そうだ、と顔を綻ばせたハーレイ。
今日は休日、午前中からブルーの家を訪ねて来たのだけれど。
午後のお茶の時間に出て来たケーキが、パウンドケーキ。
ブルーの母が焼いたケーキで、ハーレイはこれが大好物。
(なんたって、おふくろの味だしな?)
自然と笑みが浮かんでしまう。
ごくごく単純なレシピだけれども、自分では出せない味だけに。
「ハーレイ、これが大好きだもんね」
お母さんのと同じ味なんでしょ、とブルーが微笑む。
「ぼくもいつかはママに習って、同じ味のを作るから」と。
本当に不思議な話だけれど、そっくりな味がするケーキ。
ブルーの家で初めて食べた時には、驚いた。
「おふくろがコッソリ届けに来たのか?」と思ったほどに。
小麦粉と卵と砂糖と、バター。
それぞれ一ポンドずつ使って焼くから「パウンド」ケーキ。
たったそれだけ、そんなケーキが「上手く焼けない」。
どんなに真似ようと頑張ってみても、母のと同じ味にならない。
ところが、ブルーの母が作ると「おふくろの味」。
だからパウンドケーキが出る度、嬉しくなる。
「美味いケーキだ」と、「おふくろの味が食べられるぞ」と。
ブルーも承知しているだけに、「同じ味のを焼く」のが目標。
今は無理でも、いつの日か母に教わろう、と。
そんなブルーがケーキの端を、フォークで切って頬張って…。
「ねえ、ハーレイ。パウンドケーキのことなんだけど…」
「うん? どうかしたか?」
「ママに教わったらいいんじゃないかな、作り方を」
ハーレイだって知りたいよね、と赤い瞳が煌いている。
「それはまあ…。しかしレシピを聞いた所で、どうにもならんぞ」
現におふくろのレシピも役には立たん、とハーレイは唸る。
隣町で暮らす母のレシピは、とっくに試した後なのだから。
「それなんだけど…。ハーレイのをママに食べて貰えば?」
「はあ?」
「ママが食べたら、きっとヒントを貰えるよ」
お菓子作りの名人だもの、とブルーは瞳を瞬かせた。
注意する所は火加減だとか、材料の混ぜ方などだとか…、と。
「うーむ…。確かに百聞は一見に如かずと言いはするよな」
「でしょ? 今度、作って持って来てよ」
そうすればママのアドバイスが…、とブルーは得意顔だけれども。
「…ちょっと待て。俺が作って持って来たケーキ…」
お前も食うんじゃないだろうな、と確かめた。
ブルーの母に試食して比べて貰うからには、ケーキの残りは…。
「ぼくも食べるに決まってるでしょ!」
食べない方が変じゃない、と胸を張ったブルー。
「ママのと比べてみたらいいよ」と、「ぼくも比べる」と。
「馬鹿野郎!」
お前の狙いは其処なんだな、と顔を顰めて一蹴した。
ブルーは「手作りのケーキ」が狙いで、食べたいだけ。
たちまち膨れるブルーだけれども、当然の報い。
(俺の手作りのケーキを食うには、早すぎるんだ!)
知るもんか、とパウンドケーキをフォークで切って頬張る。
とても美味しいケーキだけれども、味わえればそれで充分だから。
作り方の秘訣を習いたくても、ブルーの頼みは聞けないから…。
比べてみたら・了
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